『大捜索! 絶海孤島二十四時』 序
~前回までのあらすじ~
メンシェ教の刺客、アヤメによって重傷を負わされた琉は湯治のため温泉通いをしていた。だが厳戒態勢は中々解かれることはなく、一行は一度オルガネシアへの帰郷を決意する。しかしその帰路にてネオ、そしてメンシェ教の襲撃に遭ってしまう。ビショップ・テンタクルの超能力により船を攻撃され、見知らぬ島で目を覚ました琉とロッサ、そしてアヤメ。果たして、この島を出ることはかなうのか!?
ハイドロ島。その日もカズはPCに向かっていた。プログラムを組み、情報を集める。滅多に帰ってこない琉に代わり、今や彼が島一番の稼ぎ頭。そしてヒマを見ては島の子供達の遊び相手になってやる。更に今は思い人の子を預かっていた。
「ねぇカズ~、遊んでよぉ~。いつになったら終わるの~?」
「あとちょいだ。あとちょいでコイツが組み終わる、終わったら皆で表に出ようか……よっしゃ終わったあああああああああ!!」
終わった勢いで立ち上がるカズ。彼の拳が天を突き、更にそのあとハイタッチ。その相手はスリットの入った赤いワンピースに、スパッツとケープを身に付けた、赤い瞳が特徴の美少女だった。
「じゃあフローラ、表に出ようか……ん? どれ、臨時ニュースだって?」
画面を覗き込む二人。その画面に映されたテロップ、それは……
『ハロゲニア沖で調査船消滅! またも怪奇現象発生か!?』
「……カズ、ハロゲニアって確かお母さんが行ってる所だよね?」
「そうだね、こりゃ遊びに行く前に伝えておかないと。とりあえず続きを読もうか」
比較的軽い気持ちで『続きを読む』を押したカズ。しかしその続きに書かれていたのは、二人にとって余りにも衝撃的な内容であったのだ。
『――行方が分からないのはオルガネシア国籍の船長である彩田琉之助(25)の所持する調査船カレッタ号で、ハロゲニア当局は依然として行方が掴めないと発表すると同時に、数日前のハルム大量死との関連を調べているとのことである』
「カレッタ号……琉……ロッサ様ぁッ!?」
「そんな、お母さんが!? え、何で、何でよりにもよってお母さんがこういう目に合うの!?」
パニックを起こすフローラ。そんな彼女を諌めつつ、カズは言った。
「良いか、落ち着くんだフローラ。今ここで慌ててもお母さんが助かるワケでもない、しかしだからと言って……いや待て。次の高速船って確か……」
アルカリア領ソディア島。そこからたった今、一隻の高速船が出港した。そのデッキに、一人のトヴェルク族の青年が佇んでいる。
「よし、行って来る! アル、ヘルガ達を頼むぜ!!」
「任せてよぉ! ゲオのほうこそ、そっちこそ気を付けてねぇ!!」
離岸する船。港で手を振る自身の家族とアルの姿が見えなくなると、ゲオは船内の椅子に腰かけた。その左手には大きなカバンを抱え、右手には新聞紙を握っている。カレッタ号消滅事件の記事が、そこには書かれていた。
(琉……待ってろよ!)
何としてでも見つけ出してやる、そう心に決めつつゲオは腕時計のレーダー機能を起動した。彼の自作した、高性能の腕時計である。
「甲板に出るか。それもなるべく高い所が良い……」
階段を昇り、上の階に駆け上がる。風を受けつつ外に出ると、ゲオは手すりに寄りかかって時計を睨み出した。その横には、少女を連れた眼鏡の男が佇んでいる。
(頼む、何とか反応してくれ……しかしふざけて半径500マイルまで反応するように作り上げたコイツが、まさか役に立つ日が来ようとはな)
心の中で一人言を呟くゲオ。船はクロリア島を目指して突っ走る。レーダーに引っかかるかどうか、クロリアに近づくたびに高まる期待と緊張感、そして不安。そんな引きつったゲオのすぐ隣から、不意に声が聞こえて来た。
「ねぇねぇ、おじちゃん。その時計なーに?」
「これフローラ! ……どうもすみません」
「いや、良いよ良いよ。お嬢さん、せっかくだし見せてあげようか。この時計はおじちゃんの手作りでね……」
自分で作ったモノは語らずにはいられない、トヴェルク族に特徴的なクセ。ゲオはここぞとばかりに自分の時計型レーダーについて語り始めた。
「時計に見えたかもしれないが……ほら、御覧の通り。こいつはいわばレーダーてヤツさ。……ああ、レーダーってのが分からないかもしれないね、これは……」
ついついお喋りになるゲオ。フローラにとっては初めての言葉のオンパレード。一方でフローラを連れてた男はあまり興味が持てず、水平線を眺めつつ聞き流していた。
(ま、これも世界を知るためには必要かな)
「ねぇねぇおじちゃん。それを使って、一体何を探してたの?」
「……行方不明になった知り合いさ。クロリアの沖で何かに巻き込まれ、船ごと姿を消しちまった。ほぼ確実に生きちゃいねぇ、でもおれは諦められなかった。第一、アイツが死ぬとはとても思えないのさ……」
「そうなんだ。……あたしもね、人を探しているんだ。琉、お母さん、二人とも元気にしてるかな……」
「ん、“りゅう”? それにお母さんって……まさか!! お嬢さん、ちょっと目を見せてくれないかい?」
ゲオはフローラの目を覗きこんだ。特徴的な深紅の瞳の中に、うっすらと光が灯っている。一方のカズはゲオの奇行に驚いていた。
「そっくりだ……いや、忘れるはずがない。お嬢さん、お母さんの名前は?」
「ロッサ、ロッサ・ヴァリアブール」
「やはり! おじちゃんもその人を探しているんだよ!! 探しているのはロッサと、もう一人のアイツ……」
「“彩田琉之助”、ですか?」
フローラがドン引くほどの鋭い勢いで、男が首を突っ込んで来た。
「そうそう! ……ってアンタかよ!? ビックリさせんなって、さっきまであまり話聞いてなかったクセにさ!! ……いや、ちょっと聞かせてもらうぜ。まずお嬢さん、君は一体何処から乗ったんだい?」
砕けた口調。だがゲオの目は警戒心に染まり切っていた。悲しいかな、彼が捜索している琉はヒト族なのだが、最も信頼出来ない種族もまたヒト族だからである。今の彼の立場からすれば、この男がメンシェ教徒でない確証は何処にもない。
「ハイドロ島ー! あとカズと琉はちっちゃい時からのお友達だよー!」
「そ、そうなのかい?」
「フローラ、もう良いよ。すみません、こちらから名乗るのが礼儀でしたね、私は桜咲和雅、長いのでカズで良いです。そしてこの子はフローラ・ヴァリアブール、察しの通り、ロッサ様のたった一人の娘なんです」
「そうか、そうだったのか……。そういや、アイツの話でちょいちょいカズってヤツの話が出て来たんだが……アンタがそうだったのか。何だ、案外まともそうな顔してんじゃねぇか!」
「アイツ、オレのことを何て言って……まぁ良いか」
琉が話してきたカズの人物像は……想像に難くはないだろう。
「おっとっと、自己紹介が遅れちまったな! おれはゲオルク・ハインツェル、長ったらしいからゲオで良いぜ、よろしく!」
そう言って、ゲオは手を差し出した。
「こちらこそよろしくです! 一緒に、アイツを助けましょう!!」
差し出されたゲオの手を、カズはしっかりと握りしめたのであった。すると高速船の近くを、一隻の小型船がすれ違って行く。
「ハロゲニア当局の船だ……。つうことは、この船も捜査網の中、半径300マイルの地点ということか」
「消えた現場から250マイルが捜査範囲、通常捜索船のレーダーの範囲は100マイルです。独自捜査するなら、半径500マイルをカバー出来る貴方のレーダーは非常に心強い!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの! 作った甲斐があるってモンだぜ!!」
話し合いを始めた二人。早くも意気投合である。
「……しかし問題が一つ。琉はまだしも、ロッサには戸籍がありません。法的には存在していないことになっているんですよ、ですからニュースに載ることはそうそうないと思われます。第一ヴァリアブールという存在自体があまり知られていないのも痛いな、大半のメンシェ教徒は彼女やこの子に会う前に変なことを吹きこまれてしまうのです。それにはっきり言って、ヒト族しかいない海上保安員はかえって信用がならない……」
「確かに。こちらのニュースでも、ロッサは聖女だとか天使とか、ファンタジックな存在という扱いだったんだ。むしろ今は彼女の正体についての考察があちこちで飛び交うばかりだ。やはり、こちらはこちらで独自ルートを使った方が良いな!」
「でもどうするの? 今この船を勝手に使ったら皆に迷惑がかかっちゃうよ?」
「その通りさ、全く以て迷惑な話だぜ……」
急に聞こえた何者かの声。驚く三人を、何と船の屋根からフードを被った集団が現れ取り囲んだのだった。
「メンシェ教! チッ、付けて来やがったな!!」
「さぁ? こっちはたまたま乗り合わせただけさ。しかし貴様らは邪魔者以上の何者でもない。ここで死ぬが良い!」
ナイフを構え、じりじりとにじり寄るメンシェ教徒達。バジュラムに手をかけるカズに、カバンを開けようとするゲオ。だが直後、鈍い音と共にメンシェ教徒達の足元を強烈な一撃が襲った。
「お母さんから聞いたわ。あなた達、メンシェ教徒ね?」
「こ、このガキまさか……!?」
フローラの手は、ロッサのそれと同じ赤黒く染まった、戦いの腕となっていた。引き延ばした指をムチのように構え、その赤い瞳は相手を強く睨みつけている。
「ガキじゃないわ、あたしはフローラよ! 覚えておいて!!」
一瞬だけたじろいだメンシェ教徒にフローラの強烈な一撃が襲い掛かった! ロッサではあまり見られなかった追い打ちである。
「ええいこうなったら!」
懐から銃を出そうとしたメンシェ教徒の元に、男二人が躍り出て取り押さえた。鳩尾に一撃加え、気絶した相手を床に寝かせる3人。
「どうしよう、クロリアに付くまで持つかなぁ……」
「持つかなじゃない。持たせるんだ。どうせ相手も数は限られてるだろうさ、どうにかなる!」
カズはフローラをなだめ、言い聞かせた。だがゲオがあるモノに気付き指を差す。
「ん、何だあのクルーザーは? こっちに近付いてきてるぞ!?」
身構える三人。増援か? そう思った矢先だった。
「レーダーに受信!? どれどれ」
『ハインツェルさん、お久しぶりです! 僕です、ジャックです!!』
今回の主役はこれまでのサブキャラ達です! 彼らの活躍にこうご期待!!




