表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第八章『地獄に一番近い島』
24/40

『地獄に一番近い島』 急

メンシェの襲撃を受けた一行。目覚めた時、そこは見知らぬ島だった。

 琉を捕えたハルム、マジュムナ。木で出来たヒトのような姿が特徴で、その姿は森林の中では目視しづらいという特徴がある。うかつに近くを通りかかった者にその枝状の指を巻き付けて捕え、捕食するという性質を持っているのだ。


「……まぁ良いさ。丁度良いリハビリだぜ!」


 琉は足に絡み付く指を掴み、力任せにねじり切った。途端に樹液状の血液が地面に流れ落ちる。すぐに距離を放す琉だったが、周りの景色が妙に揺らめきだす。彼は既にマジュムナの群れに包囲されていたのだ。


「勘弁してくれよ、こっちは急いでるんだ。邪魔するんだったら命はないぜ!?」


 普段は動かないマジュムナだが、一体でも獲物を捕えればとたんに活発になる。樹上から地中から、あらゆる所からマジュムナは姿を表し襲い掛かって来た。しかし琉もみすみすやられるワケにはいかない。何としてもここを脱出し、ロッサの後を追わなくてはならないからだ。


(パルトネールの変形はしばらくお預けだ、ここでムダ使いするワケにもいかねぇ。久しぶりに素で行くか!)


 マジュムナはハイドロ島の山中にも多く生息しており、琉は山に入るたびに彼らを相手取って来た。このハルムの指は締め付ける力こそ強いが折れやすく、その体は空洞が多いため非常に打たれ弱いという特徴がある。そのため、何かしら武器の類があれば追い払いやすく、琉に至っては素手で叩きのめすことも可能であった。

 琉はまず目の前にいるマジュムナの頭に素のパルトネールを振り下ろした。先程彼を捕えた個体である。この武器は通常形態でも十手のような打撃武器として使用可能であり、2kgの鈍器を叩きつけられたマジュムナの頭は見事にカチ割られた。そこに間髪を入れず次のマジュムナが襲い掛かって来る。すると今度はその喉元を掴んで宙に持ち上げた。


「これが俺の……底力だ!」


 この直後、何と琉はその浅黒い指を絡ませたまま強く締め付けていく。するとバキバキという音を立て、豪快にも相手の喉からアゴにかけてを粉砕してしまったのである。哀れな被害者は力なく地面に落ち、ハルムの例外に漏れず消滅していった。これらの様子を見た他のマジュムナ達は戦慄に震えだす。


「……道を開けるんだな。こういう目にはあいたくないだろう?」


 琉はドスの効かせた声で言い放った。が、話が通じるワケでもなくマジュムナ達は仇討ちとばかりに襲い掛かる。指をバキバキと鳴らし、琉はマジュムナの指をかいくぐって腕を掴むとパルトネールで叩き折り、その断面を相手に向けて真っ直ぐに突き刺した。激痛からか震えるマジュムナに容赦なく、琉は突き刺したその腕をグリッと捻って傷口を広げだす。息絶えて消滅するマジュムナを尻目に琉は別の個体に掴みかかった。


「ラチが明かねぇな、何体やれば良いんだよ!」


 ある個体は頭を蹴り落とされ、またある個体は足を掴まれ振り回された上に頭を粉砕、そしてまたある個体は先程の個体によってなぎ倒された上に腹部の空洞を正確に踏み抜かれた。焦っていたのも手伝って、琉の戦い方はなりふり構わぬダーティなモノと化していたのである。むしろ丸腰で戦っている今の方が強そうに見えるくらいであろう。


「でやぁッ! はぁッ! どぉりゃあッ!! はぁ……はぁ……ロッサ、何処に行ったんだロッサ……!!」


 息の上がる琉。彼の歩いた後には、消えかけの死体がいくつも転がっていた。力技でねじ伏せたモノがほとんどだったためか死体の時点で原型を留めておらず、戦闘の凄惨さが見てとれる。何とか森を抜け、ロッサとネオの飛び去った方向である先程の湖に着いた琉。しかし二人の姿が見当たらない。


「ロッサ、何処にいる!? 返事をしてくれ!! あとネオ、さっさと姿を現しやがれ!! そのメンシェに感染して腐り切った根性を叩き直してやらあ!!」


 と、その時だった。琉の見上げる上空に、二つの影が姿を現したのである。だが一つは更に上へと飛び上がり、もう一つは湖へ降りて……いや、堕ちて来たのだ。その正体に気付いた琉は、まるで突き動かされるかのように水中へと飛び込んだのであった。


「……ロッサ! おいしっかりしろ、大丈夫か!?」


 湖からロッサを引き上げた琉。揺すられ、ロッサは薄っすらと目を開けて言った。


「琉……ごめんね……急に飛び出したりして……」


「……気にするな。それにその様子じゃあ、目は取り返せていないみたいだしな」


 ふと上空を見上げる琉。空には4枚の翼を広げたネオが悠然とこちらを見下ろしている。ロッサは以前、第三の目を得ると同時に琉を抱えて飛び回るほどの力を見に付けた。しかしそれは同時に、目を失うと力を失うことも意味している。


「ロッサ、今は退こう。今取り返しに行ってもやられるだけだ!」


 琉はロッサを抱え、一目散にその場を後にした。幸いにもネオはこれ以上追っては来ず、マジュムナの攻撃に合うこともなく。二人は無事に元の場所であるカレッタ号の近くへとたどり着いたのであった。



「おかしい所があった?」


「うん。確かにネオは目を得たわ。それによって、今までよりもうんと力が強くなったし、動きも速くなった。ただ……それでも死んだ細胞が出続けてたのよ」


 ロッサは語る。ヴァリアブールの第三の目というモノは我々人類の目とは厳密には異なるモノであり、より重要な器官であるということを。確かにモノを見る機能はあるのだが、第三の目にはそれよりも重要な役割があったのだ。


「あれがある限り、ヴァリアブールの細胞はいくらでも再生出来るのよ。それまで消化したハルムの成分を蓄え、徐々に放出することでね。更に細胞そのものの寿命も長くなる。アレはいわば、ヒトの細胞でいう“核”みたいなモノだから……」


「なるほど。ということは、以前にオキソ島に乗り込んだ時には相当まずい状況だったってこと?」


 ロッサの第三の目はエリアδにてジャックによって見つかり、後にメンシェの手に渡った。その後奪い返すこととなるのだが。


「……あの時は本当に死ぬかと思ったわよ。しかしわたしが今言いたいのは、それを取り込んだはずのネオの体がいまだに崩れつつあったということ。実際わたしが追ってる時も、周りにいたハルムを襲っては食べていた。彼が遺跡のハルムを食べ尽くしたのは、体を維持するために仕方のないことだったのよ!」


「な、なんだってー!? ……だからあの時必死で俺の獲物を取ろうとしたワケか。しかし彼は目を得てもなお崩壊が止まらないって……ロッサ、さっき君が言ったことを元に考えたら、彼の体には今何が起きているんだ?」


「恐らく、第三の目は彼の体に順応していない……何故かって言うと、彼は戦闘中一度もあの目を使っていなかったから。あくまで推測にすぎないけどね、しかし分かったのは彼は目を得ても生きることが出来……!?」


 不意に森への入り口がざわめき始め、話している最中だった二人はすぐにその方向を向いた。


「ハルムか? いや、ネオか!?」


「いや違う、この匂いは……!!」


 ロッサが言いかけた時だった。二人の間を裂くように、小さな槍が投げ込まれる。そのお返しとばかりに、ロッサは指を引き延ばすと茂みに向かって一撃を浴びせた。


「痛ッ!?」


 茂みから出て来た者。それは、二人もよく知っている人物だった。そして、ある意味最も出くわしたくない人物でもあった。


「やっぱり、アヤメだったのね。運が良いわよあなた、つい一時間も前だったら“痛い”では済まなかったかもね」


 アヤメに対するロッサの態度はかなり攻撃的であった。


「アヤメ良い加減にしろよ、今ここで殺し合ってどうする! ロッサもロッサだ、いくら憎くても今のはないだろう!!」


「相変わらず舐めたこと言ってくれるじゃない……それに今殺し合ってどうするだって? どうせ元の島には戻れないのよ、だったら今この場で口減らしした方が良いんじゃない!?」


「このフリムン(バカ者)が! メンシェに捨てられてトチ狂ったか、はたまたせめて一太刀ってヤツか!? どちらにしても、今ここで俺を殺せば100%ここから出られなくなるぜ!! ちょっと来い!!」


 そう言うなり琉はカレッタ号に入って行った。


「あ、ちょっと待ってよぉ!」


「中におびき寄せる気? 良いわ、受けて立ってやろうじゃない!」


 操舵室に着いた琉。無線装置に走り寄り、スイッチを入れた。同時に海図を表示し、たちまち辺りが明るくなる。


「こちらカレッタ号、誰か応答願います! こちらカレッタ号、誰か!!」


「何をやってるの……?」


「助けを求めてるのよ。無線の範囲を広げて、航路にまで届くようにしてね」


「こちらカレッタ号! 生存者は……おいアヤメ、お父さんは生きてるか!?」


 琉はアヤメの方を向き、言った。


「え!? ……生きてるわ。何とか……」


「こちらカレッタ号、生存者は今のところ4名! ただちに応答願います、こちらカレッタ号!!」


「琉、ネオは?」


「ネオ? アイツは自力で戻ってこれる、気にするな! 繰り返す、こちらカレッタ号!!」


 琉の必死な叫びが無線のマイクに叩きつけられる。通りかかった船がこの連絡を拾うまで、これは繰り返されるだろう。その様子を見たアヤメの心に、変化が起き始めていた。


(そんな、本来敵だった私達まで助けようっていうの? この人一体何なの? ただの偽善者じゃないの? ……凶悪で傲慢な、人の命を何とも思わないラング装者にして異端者じゃなかったの!?)


 アヤメには分からなくなっていた。彼女のイメージしていた琉はヒト族を裏切って悪魔に加担する極悪人というモノだったからである。しかし今はどうだろう。それまでイメージとは真逆の、敵ですら助けて共に脱出しようとする一人の人格者が、そこにいたのである。


「こちらカレッタ号、誰か……げほっ!」


「琉、代わって! こちらカレッタ号、応答願います! 生存者は2め……」


「4名だ! ロッサ、いくら憎くとも見殺しは許さん。カレッタ号の船長はこの俺だ、船長としての命令を下す。生存者は4名と連絡せよ!!」


「……生存者は4名、繰り返します。こちらカレッタ号!」


「嘘……でしょ……?」


 アヤメには分からなくなっていた。これまでメンシェでは、“敵”というモノを徹底的に排除するのが良しとされてきたのである。しかし琉は今それを正面から否定した。船長としての権限まで使用して敵を救いだそうとする姿は、メンシェ教徒ではまず考えられないことであった。


「こちら……カレッタ号……誰か……応答……」


 琉に引き続きロッサまでも喉が枯れ始める。特にヴァリアブールにとって水分が減るというのはヒト族以上にまずい状況となる上、発声そのものがまずエネルギーを大幅に消費するのだ。琉が代わりにマイクを握ろうとした、その時である。


「お、おいアヤメ!? 一体何をする気だ!!」


 アヤメが躍り出たかと思うとロッサからマイクを取り上げ、口に当てた。そして、


「こちらカレッタ号! 生存者は4名、繰り返します! こちらカレッタ号!!」


「ア、アヤメェ……」


 無線連絡を繰り返すこととなった3人。果たして彼らに助けの手は届くのか、次章に続く!!


続きは次回になります。果たして4人はこの島を脱出出来るのか!?


~次回予告~

カレッタ号が消えた――駆け巡るニュースの中、ジャック、ゲオ、カズ、そしてフローラの四人が走る。カレッタ号救出なるか!?

次回『大捜索! 絶海孤島二十四時』

走れ若人、友のために!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ