『彩田琉之助暗殺計画』 急
利用された男のヴァリアブール。パルトネールをハッキングされ、アヤメの手にかけられそうになった琉。だが間一髪でロッサが助け出し、今反撃の時来たる!
ロッサの声が響いた、次の瞬間であった。アヤメの四方八方から赤い液体が突進し、襲い掛かったのである! ロッサが得意とする液化攻撃。液化と実体化を瞬時に繰り返して放つ、強烈な体当たり。背後から側面から、ロッサの攻撃が容赦なくアヤメに襲い掛かる。
「ぐはぁッ!? うぐぅッ!? があぁッ!?」
抵抗することままならず、液化したロッサの攻撃に翻弄されるアヤメ。防ぐことも出来なければ逃れることも出来ず、ただただ四方八方からの攻撃に耐えることしか出来なかった。そして遂に、アヤメの体は地に伏したのである。
「よっ、と。これでパルトネールを操ってたのね」
液化攻撃中にスキを見つけ、ロッサは液化した分身を合体させて体を構成すると素早く手槍を取り上げた。柄と鞘の継ぎ目を見つけ、無理矢理引き外す。刃に流れる電流が止まり、パルトネールのコントロールも解除された。途端にアヤメの表情が絶望に変わってゆく。
「そんな……何故……」
「残念だったわね。今度こそ警察のお世話になると良いわ。おやすみなさい」
ロッサは額の目に手をかざし、強烈な赤い光をアヤメに浴びせた。一瞬にして意識を奪われ、目を閉じるアヤメ。
「やったか……うッ!!」
立ち上がり、ロッサに近づこうとした琉だったが、激痛が彼をしゃがませる。ロッサは琉に近付き、心配そうな目で彼を見た。
「琉、大丈夫!?」
「俺なら大丈夫だ。何、このくらいのキズなら3日もあれば治るぜ。確かクロリア島に、良く効く温泉があったはずだ。それに……」
琉は、傍で立っている男のヴァリアブールの方を向いて言った。
「ロッサ、彼は一体何だったんだい?」
「彼ね、まだ“目”の発達していない子供だったの。丁度フローラと同じくらいかな。それより気になったのが……彼、わたしと同じ細胞を持っていたんだけど」
「何だって!? ロッサ、また産んだのか!?」
驚く琉にロッサが付け加える。
「確かにわたしの細胞なのよ。でも何故か形が歪んでて……それに、わたし産んだ覚えはないわよ?」
「うぅーむ……フローラの場合は余った細胞を部屋に置いて来たことで誕生した。今回の場合は一体どうなって……ってロッサ、危なァーいッ!?」
琉はロッサを頭を押さえ、その場でしゃがみ込んだ。二人の頭上を、ヴァリアブールの赤黒い爪がかすめて飛んで行く。琉の黒い髪が数本、ハラリと宙を舞いながら溶けていった。
「そんな、何でこんなことするの!?」
ロッサが彼の前に立ちはだかる。一方の琉はというと……。
「おいおい、話を付けたんじゃないのか!? てか今アイツ俺のテッペンに10チャリンハゲ作りやがったな!!」
一難去ってまた一難のロッサに、泣きっ面にハチの琉。先程のヴァリアブールはロッサの方を見ると、再びその剣状の爪を構えて襲い掛かった。どうやら琉にはあまり関心がないようである。
「琉に近付かれるとまずいわね……よおし!」
ロッサは背中から翼を広げ、相手を誘導した。それを見た男のヴァリアブール、その背中から4枚の翼を展開してロッサの方に向かって行く。
「何なんだよこの展開……」
そう言いつつ琉は二つに分かれたパルトネールをくっつけ、トリガーパーツを取り付けた。だが元々射撃の苦手な彼にとって、動きの速いヴァリアブールを捉えるのは至難の業である。ましてや、相手はヒロインとドッグファイトを繰り広げているのだ。外す可能性は高いが、誤射してしまう可能性もまた高いのである。
「ちょっと、何でわたしに爪を向けるの!?」
「……ほしい」
「ほしいって、何が!?」
「……おまえの“目”が、ほしい!」
そう言うなり相手はロッサの額に刃を向ける。このヴァリアブール、ロッサの額から第3の目をえぐり出して自らのモノにするつもりなのである。
「アイツ、目が欲しいなら発達すんの待てよ! 全く、大食らいな上に欲深か!! ……チッ、このままじゃメンシェの連中が起きちまう、どうすれば……!!」
琉はパルトネールを構えたまま考え込んだ。前門の野良ヴァリアブール、後門のメンシェ教徒。ロッサは交戦中で琉自身は激痛で思うように動けない。
「パルトネール……サーベル!」
琉はパルトネールをサーベル形態に変形させ、杖代わりにするとアードラーまでにじり寄った。ハンドルに手をかけ、覆いかぶさるように跨りアクセルをふかす。サポートメカの操作はトライデントを用いることが多いのだが、この形態だと手動で動かすことが可能である。
「ロッサ、降りて来い! 退くぞッ!!」
琉の呼びかけに気付き、ロッサはすぐに琉の方へと飛び去ろうとした。だが相手も諦めてはおらず、執拗に追って来る。一度目を付けたモノは何としても得ようとする、執念深い性格が彼にはあった。
「琉、パルトネールをシューターに変えて、こっちに渡して!」
「よし、分かった!」
パルトネールを口に咥え、片手でトリガーパーツを付けた琉。左手でパルトネールの銃身を握り、ひょいと投げつけた。それをキャッチしたロッサはすぐに自分の喉元を触り、パルトネールを構えると琉にそっくりな声で叫んだのである。
「パルトパラライザー!」
放たれた光線が、飛び回る相手に突き刺さる。その腕は琉本人よりも確かなモノであった。動きの止まったヴァリアブールは硬直した表情のまま、海中に没して行く。まんまと追手を振り切った二人は真っ直ぐに、カレッタ号のあるクロリア島へと逃げ戻ったのであった。
「すまないね、俺がふがいないばっかりに……」
「良いのよ。それより琉、今はケガを治すことに専念しないと」
ロッサに包帯を巻いてもらう琉。夢中でアードラーを動かしている間はまだしも、船に戻った途端に痛みが彼を襲ったのだ。気が付けばアードラーや歩いた後には血痕が生々しく残っている。口の中が切れ、アバラを数本やられ、帯電した刃にやられた右手は箸すらも持つことがままならない。
「はいっ、これで全部巻いたわ」
「ありがとう。後はこれで、しばらくは温泉通いだね。さっき言ったと思うけど、クロリア島内には良く効く温泉があるんだ。ここからバイクで5分くらいの所にあるぜ、明日から通おうかな」
この日の食事はロッサが作ることになった。仕留めてあった魚に、ロッサの包丁がすうっと入ってゆく。彼女の物覚えは非常に早く、琉の教えた料理のほとんどを短期間でマスターしていく。ロッサはこの船に乗ることで、一体のヴァリアブールとして一人の船員として大きな成長を遂げたのであった。
「まだるっこしいから爪でやって良い?」
「よせ、俺が食えなくなるから」
暗殺計画終了です。今回は引越と重なってしまい、更新が大幅に遅れてしまったことをお詫び申し上げます。
~次回予告~
温泉通いの琉とロッサ。少しずつ良くなっていく琉であったが、このままでは作業もままならず、ハロゲニア自体が危険な状況のためオルガネシアに帰還することとなった。だが、そう安々と帰郷出来るワケがなく……。
次回『地獄に一番近い島』
呉越同島、脱出なるか。




