表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第七章『彩田琉之助暗殺計画』
19/40

『彩田琉之助暗殺計画』 序

~前回までのあらすじ~

メンシェ教の攻撃により、大きな傷を負ってしまったロッサ。甲斐甲斐しく世話を焼き、探索ついでにハルムを狩る琉。ロッサは回復すると共に記憶探しを再開しようと決意するが、遺跡に散らばっていたヴァリアブール細胞は消え失せており、更に一帯のハルムがほぼ全て血溜まりと化す事件が発生。琉の目の前に現れたのは、何とロッサと同じヴァリアブールの“男”だった! 話が通じず、逆にハルムの取り合いで戦闘を開始してしまう琉とヴァリアブール。激闘の末ハルムを勝ち取った琉であったが……。

 押し寄せる波に合わせ、一つの影が陸に上がる。半ば打ち上げられるような形で、男はイオド島の海岸に辿り着いた。琉に撃たれたパラライザーの影響がまだ残っているのか、体が思うように動かない様子である。

 するとそこに一人、ヒト族の女が駆けて来た。ローブを着た彼女の紫の目には、倒れた男の姿が映り込んでいる。そっと抱き起こし、女は男を連れて何処かへ去って行く。口元に謎の笑みを浮かべながら。



「ハルム大量死……やはりニュースになったか」


「あのヴァリアブールのことも気になるわね。メンシェ教に見つかる前に、何としても探さないと……」


 モニターに映し出されるニュースを見つつ、琉とロッサは朝食を取っていた。エリアγにて起きたハルムの大量死事件は、この日のトップニュースとなっていたのである。例えラングアーマーを着込んだヒトが10人ほど潜ったとしても、エリア一帯のハルムを全滅させるのは到底不可能とされている。そんなことをしようモノなら、恐らく1%も倒さぬうちにバッテリーかエアのどちらかに限界が来てしまうことだろう。そんな数のハルムが、わずか一日にして壊滅したのである。

 そしてその怪事件の煽りを受け、エリアγはしばらく立ち入りが禁じられることとなった。しばらく警察等による調査が行われ、原因の究明が出来るまでは。


「しかしあれがヴァリアブールの本気か。確かに水には強いしな、やっつけるたびにエネルギーも補給できるしよく考えたら全くおかしいことじゃないんだが」


「いや、おかしいわよ。いくら何でもあれは食べ過ぎだわ、ハルムだったら一週間に一体食べれば十分よ。それにあんなに食べたなら、明日か明後日には子供が……」


 ある程度ハルムを食べたヴァリアブールは、余った細胞が分裂して新たな個体を生み出すこととなる。前日に遭遇したヴァリアブールの青年も、そのうち大量の子供達を引き連れることになるだろう。


「ロッサ、食べ終わったらいつも通りに皿を洗浄機に入れておいてくれ。今日は警察にあの映像を送らなきゃないかんからな、ラング基地に行くぜ」



 ラング基地にて琉はラングアーマーを介して得た映像データを大勢の前で披露した。そこに映っていたのは、昨日琉が目撃した捕食という名の殺戮風景。次々にデボノイドの左胸を刺しては、血だまりに変えて行くあの男の姿であった。


「コイツはひでぇな……しかしアーマーなしであの深さにいたというのかい!?」


「ヴァリアブールってあれか? 何かメンシェ教の連中が言ってた、全てを食らい尽す悪魔だとか何とか……」


「その一方で聖女だという噂もあるぜ。しかしどう見てもコイツは男だよな……」


 映像を見た者は口々に感想を述べた。しかし誰一人としてこのヴァリアブールを目撃したという者はおらず、琉とロッサは途方に暮れてしまっていた。装者のほとんどが、異常さに気付くなり早々と退却してしまったためである。


「律義に調べたモノ好きは、俺だけだったってことか」


「陸から探すしかないわね。何処にいるのかしら……」


 時間がない。ダメージを負っているとはいえ、メンシェ教徒の行動は予測が付かない。彼らに気付かれればどうなるか、二人には恐ろしいほどに分かっていた。



「この男か?」


「そうよ、素晴らしい腕だわ。デボノイドやアネモルスの心臓を正確に突き、一撃で消滅させるあの腕……見ていて惚れ惚れしたもの。彼を引き込めば素晴らしい戦力になるわ、これであの男の心臓も……ふふっ」


 薄暗い部屋にて、何気にえげつないセリフが響く。海岸で見つけた男を運び込んだ女は、その男の“活躍”を喜々として語っていた。


「しかしアヤメ、その男は本当にお前を守ってくれたのか?」


「当然よ! アネモルスに脚を絡め取られた私を助けてくれたんだもの。あの腕ならきっと大きな戦力になるわ、きっとメンシェ教を救う切り札になるわよ!」


「切り札か……ん、気付いたみたいだぞ!」


 担ぎ込まれた男が動き始めた。部屋にいた教徒達が全員彼の元に殺到する。だが男の目が開かれた時、彼らの期待に満ちた目は一瞬にして恐怖の色に染まることとなったのだった。


「ぎゃ、ぎゃあああああああああああ!?」


「ヴァ、ヴァヴァヴァヴァリアブール!?」


「う、嘘でしょ……?」


 男の目は深紅に染まっており、その奥にはぼぉっと光が灯っている。これは彼が、人間ではないことを如実に表していた。男はその場で身を起こすと、辺りを見回し始める。一人を除いて戦慄に震えるヒト族が、彼の目には映っていた。


「ヴァリアブール……ふふっ、使えるじゃない」


「アヤメ、よせ! 何を考えてるんだ!?」


「……もしヴァリアブールが本当に全てを食らう悪魔だとしたら、あの彩田琉之助という男はとうの昔に食い殺されてるはずよ。だったらこのヴァリアブールを味方につけ、仲間だと油断したあの二人を一気に……!」


「正気か、アヤメ!?」




「俺見たんだ。なんか髪がボサボサで肌の生っちろい人が海岸に倒れてたのを! ……そうそう、何か変な化粧をしてたぜ。で、応援呼んでまた海岸に向かったらいなくなってたんだ! 何か足跡が続いてたし、自分で歩いたのかな……?」


「応援呼んでって、直接呼びに行ったのかい?」


「しょうがないだろ、携帯電話持ってねーもん!」


 二人は地元の少年に、ヴァリアブールらしき情報を聞き出していた。


「ねぇ、その場所をお姉さん達に教えてくれないかな?」


「ゴクリ……あ! えっとね、あそこの海岸だよ! イオド島の、町外れの……とにかく、行けば分かると思います!!」


 背をかがめたロッサの胸元から、魅惑の谷間が顔を覗かせる。思わず見とれる少年だったが、すぐに場所を教えるとスタスタと去って行った。


「どうしたんだろう、顔を真っ赤にして……」


「ロッサ、君には羞恥心ってモノはないのかね……」


 単為生殖をする生き物に、性的魅力という概念はピンと来ないであろう。少年の証言が正しければ、相手はそう遠くへは行っていないはずである。二人はヴァリアブールの生き残りと思しきあの男を探して、青い機体を走らせるのであった。そして、その数分後のことである。


「ねぇ君、この男を見なかったかい?」


「見たよ! さっきあっちの方へ走って行った!」


「何か女の人、連れてなかった?」


「連れてた! 赤いドレス着てて、それで……」


「ありがとう、もう良いぜ」


 先程の少年に話しかけた男。彼は物陰でローブを羽織りつつ、携帯電話を取り出した。


「……アヤメ、ヤツらはイオド海岸に向かったぞ!」



 海岸を走るアードラー。少年の証言通り、波打ち際には見事に人の倒れた跡が残っていた。更にその近くから、足跡が続いている。


「確かに、わたし自身やフローラと似た匂いがする……近い!?」


「そりゃ近いだろうけどさ……!?」


 突然、琉はロッサの前に飛び出すとパルトネールを取り出し、回転させて何かを叩き落とした。砂浜に転がるは二つの弾丸。その形状に、二人は見覚えがあった。


「これは聖弾!? そんな、メンシェに見つかったの!?」


「……いるのは分かっている、出て来い!」


 ザバァッ! という音が二人の背後から上がった。慌てて背後を振り返る琉。海から出現したのは紛れもなく、あのヴァリアブールだったのである。


「出たな! ロッサ、そっちは頼んだぜ。パルトブーメランッ!!」


 琉はそういうなりパルトネールを引き延ばし、少し曲げるとそのまま投げつけた。回転し、飛翔した先の岩陰から銃が飛ぶ。間髪を入れず、琉はトンファーを構えて岩を跳び越え、奥にいた一人に強烈な蹴りを浴びせた。


「くそッ! 何処までもしぶといヤツめ、裁きを受けよ!」


 ナイフを構え、残りの教徒が斬りかかる。刃を返し、反撃に出る琉。その一方で、ロッサは海から現れたヴァリアブールと対面していた。


「クレーターにいた仲間の匂いがするわ……。やはり、あなたが取り込んだのね」


「……」


 言葉を投げかけるロッサに対し、相手は一言も話す気配がない。それどころか、男の右腕が赤黒く変色し、あの剣のような形に変形させ、ロッサにその先端を向けて構えたのである。


「わたしを取り込む気? ……どうやら、“言葉”も知らなければ“仲間”という概念すらないみたいね。だったら……!」


 ロッサの額が開き、赤く輝く第三の眼が出現した。同時に彼女の腕も赤黒く染まって行く。対峙する二人のヴァリアブール。その様子を、琉はナイフを受け止めながら見ていた。


「チッ、何処までも話の通じないヤツだな! ま、ヴァリアブールにはヴァリアブールなりの説得の方法があるとは思うが……ん、戻って来たか!」


 そうこうしているうちに琉の投げたパルトネールが戻って来た。琉は受け止めたナイフの刃を押し返し、蹴りを浴びせつつその場で反転、パルトネールを掴もうとした。だが、その様子を見ている者がいたのである。


「そうはいかないわよ」


 刃を抜き、その柄を鞘に当てる。柄にある独特な出っ張りを鞘にはめ込み、キリキリという音を立てつつ捻る。バチッという音が響いた途端、パルトネールの回転が止まったのである。


「え?」


 拍子抜けする琉。仕方なくそのまま地面に降り立った。だが更にそこに追い打ちをかける自体が発生した。再び回転を始めたパルトネール。掴み取ろうとする琉の腕を素通りして――


 バキィッ!!


「ブグハァッ!?」


 パルトネールに顔を強打され、その場でひっくり返る琉。何が起こったのか分からぬまま、その表情はハニワのようになって固まっていた。すぐに起き上がり、状況を呑みこもうとするがまたもパルトネールの襲撃を受ける。トンファーでパルトネールを押さえつつ、琉は自分自身が非常にマズい状況に置かれたことを悟ったのであった。


「パルトネール、今更反抗期か!? アギジャベ(クソッ)、エアハッカーだな。それもご丁寧に改造を加えたヤツか……ええい操り手は何処だ、何処にいるッ!?」


アヤメ再び! そして反逆するパルトネール! かつてないピンチにどう立ち向かうのか!? そしてロッサと謎のヴァリアブールの関係やいかに?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ