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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第六章『どくとる琉ちゃん激闘記』
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『どくとる琉ちゃん激闘記』 急

エリアγに潜った琉を待っていたのは、あちこちがハルムの血に染まる怪異であった。遺跡中を飛び回る赤き影、相手は一体何者なのだろうか!?

 琉に言われた通り、ロッサはディスプレイのツマミを切り替えた。そこに映っていたのは、自在に姿を変えつつデボノイドを狩る赤い影。その手に携えた剣状のモノをデボノイドに突き刺すと、たちまちデボノイドの体は破裂するかのように血液だけとなった。


「嘘でしょ!? 琉、コイツは間違いなくヴァリアブールよ! 生き残っていたなんて……それも随分と荒っぽい狩り方ね。でも琉、こんなの以前潜ったときには分からなかったけど!?」


「恐らくこの間はいなかったんだろう。何せこっちのセンサーにも反応しなかったしな。ハルムの血だまりを量産したのはきっとコイツだ、しかしヴァリアブールの細胞が消えたのもコイツが犯人か?」


「可能性はあるわ、ヴァリアブールの細胞は可能な限り一か所に集まる習性があるの。琉、なんとか話は出来ない!?」


「やってみる。ちょいと待っててくれ! ……コイツは大物だぜ!!」


 ディスプレイへの通信を入れたまま、琉はヴァリアブールへの接触を試みた。水中を縦横無尽に動き回るヴァリアブールに、まずは足を止めて話を聞いてもらわねばならない。琉は口元のパーツを触ると、


「あー、あー……よし、いけるな。ハイサイ、そこのヴァリアブールの君ィ!」


 拡声機能を用いて無双状態のヴァリアブールに直に話しかけた。本来なら沈黙の世界である深海に突如大きな声が響いたためか、ヴァリアブールは狩りの腕を止めてその場で留まった。


「そうそう、そこの君だよ。ちょっと話を聞かせてもらって良いかなー?」


 警戒されないように、琉はなるべく陽気に振舞いながら近付いた。動きを止めたヴァリアブールは徐々に形をなし、ロッサと同じように人間形態を取り始めた。だがその姿は琉とロッサの予想を遥かに超えていたのである。


「ん、何か変だよ!?」


 ディスプレイを見ていたロッサは思わずそう漏らした。ディスプレイに映っていたの人物、ルビーをはめ込んだような赤い瞳にこれまた赤みがかった黒髪、透き通るような白い肌をしている。顔もロッサを思わせる非常に美しいモノであった。

 だが体つきはむっちりというよりかガッチリとしており、ロッサと比べて顎が多少張っていたりとむしろ対象的ともいえる姿だったのである。おまけにその顔には隈取りを思わせる独特の模様が入り、身長もロッサより若干高いように見えた。


「ありがとう、ちょっとお時間良いかな? 君は一体何処から……うおっと!?」


 話しかけようとした琉に一閃が走った。素早くかわす琉だったが、相手はまっすぐに琉を睨みつけていた。明らかに敵意を持っている。そしてその腕はロッサが狩りをする時と同じように赤黒く染まっており、良く見るとその親指がサーベル状に変形していた。


「……おっと、勘違いしないでくれ。見ての通り俺は丸腰だ、何でいきなりその爪を向けるんだい?」


 だが相手は口を割らない。それどころか琉から目を離し、岩陰にいるデボノイドの方へと飛び着いたのである。


「……琉、今はダメね。あの子は今食べるのに夢中よ」


「了解。今日は引き上げるか。……もちろん、お土産付きでな! パラライザー!!」」


 琉は生き残ったデボノイド目がけてパラライザーを撃ち込んだ。あのヴァリアブールは、食べるのに夢中で気付いていない。


「アードラーテイル!」


 アードラーの尻尾がワイヤー状に伸び、動けなくなったデボノイドを絡め取った。デボノイドごとアードラーを抱え込み、琉はカレッタ号目がけて舞い戻ろうとした、のだが……


「おおっと、何の用だ? 自分から話を遮っといて、今度は何をしに来たんだい!?」


 アードラーの前に、さっきのヴァリアブールが立ち塞がる。そして琉のタンカに対し、戦闘用に伸びたその親指でデボノイドを指した。


「よこせ、ってか?」


 返事もせずうなづきもせず、ヴァリアブールは琉に襲い掛かった。その目的は明確、デボノイドの捕食である。


「残念ながらコイツはやらねえぞ、そんなに欲しいなら自分で捕れ!」


 琉のセリフに聞く耳持たず、相手は執拗に彼の捕獲したデボノイドを狙って来る。どうやら、この近辺のハルムを食い尽してしまったらしい。


「落ち着け! 相手はハルムだ、3日もすればまた住み着くから……って良い加減しろヤナガンジュー(頑固者)!! ヤーチュースンドゥ(お灸据えるぞ)、ハンディクラッシュ!!」


 とうとうキレたのか、琉は腕のスイッチを入れて高熱化して突き付けた。流石に本能的に危険だと感じるのか、ヴァリアブールも距離を置いている。電流ほど致命的ではないが高熱はヴァリアブールの弱点であり、実質的なダメージを与える数少ない手段だからである。

 琉は熱を発するその腕でヴァリアブールを牽制しつつ、もう一方の手で腰に着いたパルトネールに手を伸ばした。パルトネールを手に取り、アードラーにその先端を向け、相手を出方を伺う。同時にカレッタ号の位置を確認し、その時は来た。


「戻れ、アードラー! おっと、そっちは通行禁止だぜ、アードラー・バックスティング!!」


 アードラーの帰艦機能を発動した琉。カレッタ号に真っ直ぐ向かうアードラーに、すぐさまヴァリアブールの手が伸びる。だが琉の音声コードが入力された途端に放たれた無数の光線がヴァリアブールに襲い掛かった!


「流石にかわしたか、だがそれが狙いだぜ。パルトスパイダー!」


 バックスティングをかわしたヴァリアブールを待っていたのは、シューターに変形したパルトネールの先端だった。たちまち蜘蛛の巣状の光線に絡め取られ、ヴァリアブールは硬直したまま海底へと落ちて行ったのである。


「すまない、ロッサのためなんだ。……複雑だぜ、彼女がいれば話が通じたのかもしれないんだけどな……」



 その日、琉の必死の争奪戦によって得たデボノイドによって、ロッサは完全なる回復を果たした。しかしヴァリアブールであるロッサのために同じヴァリアブールの青年を撃ったことに、琉は後悔の念を抱いていた。


「……完全にエゴじゃねぇか。ハルムだったら余所でも捕れる、何で俺はあそこまでしてデボノイドを取り上げたんだろう。見方を変えたら、あのデボは本来アイツが捕るべき獲物だったのかもしれないのにな……」


 アードラーの整備をしながら、琉は呟いていた。


「それはわたしのことが好きだから、じゃないの?」


「ギクゥッ!? ロッサ、そのセリフはもう良い加減に忘れてくれ!!」


「だってこれ言うと琉が面白いんだもん」


「あのなぁ! ……まぁ良いか、冗談言えるくらいにまでは回復したって考えればな」


 笑い合う二人。ロッサの無邪気な笑顔に、琉の心も表情もほぐれていった。アダルティな外見に似合わず、ロッサの挙動は何処か子供っぽいのである。


「そういえば話変わるけど、さっきのヴァリアブールは何処かおかしかった。いや、あの動きは確かにヴァリアブールなんだけど……」


「おかしい、とは?」


 琉はロッサに聞いた。というか、実は琉自身も違和感を覚えていたのである。


「何て言うかその……あれだけ大きかったら一言二言は喋れるはずなの。それに明らかに雰囲気が違う……まぁ実際は直接会って見ないと分からないんだけどね」


「それ以前に、一つ質問したいことがある。良いかな?」


 整備の終わったアードラーをカレッタ号の船底に戻し、琉が言った。


「ヴァリアブールに“男女”ってそもそあるのか?」


「“男女”?」


「……“性別”って言った方が良いかな? あのヴァリアブールはどう見ても男だった。しかし君は女の形をしている。それだけじゃない、確かヴァリアブールって余った細胞が離れて子供が出来るんだよね?」


 ヴァリアブールは単為生殖する生き物だということを琉は知っていた。その上で様々な形質をハルムから得ることにより、後天的に個体形成することも。


「……うん、その話を聞く限りじゃあヴァリアブールには女しかいないことになるわ。実際は女と言えるかどうかも怪しいけど、琉の言葉を聞く限りわたしは女だと思ってる。実際この姿もヒト族の女の姿だし、実際この姿が一番しっくりくるのよ」


 性別についての説明を聞き、ロッサはそう返した。


「そう考えるとおかしくなるわ。単為生殖しかしないわたし達に、何故男のヴァリアブールがいるのか……ひょっとして別の種類なのかも?」


「ヴァリアブールじゃないかもってことか。しかし他にあんな習性の種族っているのかい?」


「わたしに聞かれても……とりあえずヴァリアブールしか知らないわね、ハルムでそんなのは見たことないし」


 謎は更なる謎を呼んだ。果たして彼は何者なのか、ヴァリアブールの生き残りなのかそうじゃないのか。何故遺跡のヴァリアブール細胞が同時にキレイさっぱり消えたのか、果たして彼はその犯人なのか。二人は更なる謎の深みへと入って行くのであった。



『航海日誌×月∞日。エリアγにてロッサと同族と思われる男のヴァリアブールと遭遇。コミュニケーションをとろうとしたが失敗し、結局デボノイドを取り合って交戦となってしまった』


 自室にて、PCに日誌を書きこむ琉の姿があった。


『……実はヴァリアブールのために遺跡を漁ってるのではなく、本当はロッサのために遺跡を漁っているのではないのか。私には分からなくなった。では何故私はロッサのために行動を起こすのか?』


 ここまで打って、琉は考え込んでしまった。


「そうだな、“好きだから”か……。好きであることそのものに、種族の違いは関係ないのかな……」


『……私は以前、勢いでロッサに愛の告白をしてしまった。しかしよく考えたら滑稽な話で、ヒト族とヴァアリアブールは体のつくりが何から何まで全く異なる生物にも関わらず私はロッサにあんなセリフを吐いたのである』


『……ヒト族とアルヴァン族なら混血は出来る。何故ならこの2種族は生物学的にも比較的近い存在だからだ。しかしヴァリアブールはどうだろう。彼女のあの美しい姿はあくまで仮の姿に過ぎず、本来は赤いスライム状の生物である。おまけに単為生殖をする生物でもあるのだ』


『……確かに彼女の体は非常に魅力的で、近寄られたり触れたりすると理性が飛びそうになる。以前に彼女の胸に触ってしまったことがあるが、いまだにあの感触が私の手に残っており、正直クセになりそうなくらいの快感であった。だが、それだけがロッサ・ヴァリアブールという個体なのだろうか?』


『……私がヒト族の端くれである以上、ロッサと結ばれることは不可能だ。だがそれでも私は彼女を愛するだろう。性愛だけが愛ではない、あのロッサという存在そのものが私には愛しいのだ。だからこそ私は、彼女を護り抜く覚悟が出来ている。例え全てヒト族がメンシェ教に入り、敵に回ったとしてもだ。都合の悪い者を殺すのが“正義”ならば、私は愛する者を護る“悪”になろう。何故なら、それこそが私なりの“正義”だからである』


「ねぇ琉、何書いてるのー?」


「うわあッ!! ロッサ、入って来る時は扉のインターホン鳴らせって言っただろ!! あと画面見るな、見ないでくれえッ!!」


果たして、もう一人のヴァリアブールとは何者なのか!? ロッサとの関係は!? ますます謎が深まるこの物語にどうぞご期待下さい。


~次回予告~

回復したロッサ。再び遺跡に潜るも、あのヴァリアブールは姿を見せない。だが二人は再びあの男と相見えることとなる。そしてその背後には、あの女が絡んでいた!

次回『彩田琉之助暗殺計画』

紫眼の追跡者・アヤメ、再び見参!


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