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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第六章『どくとる琉ちゃん激闘記』
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『どくとる琉ちゃん激闘記』 破

かつて一緒に訓練をした男、ジン。そんな彼と久々の再会を果たした琉。旧友との語らいで楽しい1日を過ごしたのであった。そして……

 その翌朝、ハロゲニア領ブロム島の海岸にて。一人の女が潮の引いた海岸を歩いていた。周りには誰もいない。フード付きのローブを羽織り、黒髪を後ろで結んでいる。何を考えているのだろうか、常に俯いたまま彼女は浜辺を散策していた。


『お父さんを撃ったのは悪かった。だが安心してくれ、撃ったのはパラライザーだから一時的に眠ってるだけだ』


『悪いことは言わん、ナイフをしまって撤退しなさい。こんなこと、中学生のやることじゃない!』


『……俺に前科は不要だぜ、特に婦女暴行はな』


「……何よ。エリートだからって散々私達のことをバカにして……」


 彼女の脳内に再生される声。際限なく響いては、この女を苦しめていた。


「彩田琉之助……私はあなたを許さない。お父さんを撃ったからだけじゃない、あの人を舐め切った態度が気に食わないのよ! あなたが食っている制度で、どれほどのヒト族が苦しんでると思っているの!? 救いを求めた私達を虐げてまで、あの悪魔をかばおうって言うの!?」


 思わず声を荒げる女。怒りに震え、懐から大型のナイフのようなモノを取り出した。刃を抜き、その柄を鞘に連結させるとたちまち刃に電流が走り始める。


「今に見てなさい……。彩田琉之助、あなたが私達の大切なモノを奪ったように、私はコレであなたにとって大切な存在を奪ってやるわ! それだけじゃない、あなたをコレで、親が見ても分からないくらいに刻んでやる!!」


 手槍を構え、その場で振り回す女。目の前に、浅黒い顔のあの男と白い肌に赤い目の女が浮かび上がる。その目や心臓を狙い、彼女は刃を突きたてた。だがその様子を、じっと見張る者がいたことに、彼女は気付かなかったのである。

 気が済んだのか、女は刃を鞘に納めてその場を去ろうとした。潮は満ち始めている。だが数歩歩いた時のことであった。


「……ん? 何だろう、今のぐにゅってしたモノは……!?」


 彼女の足元から数本の触手が伸び、襲い掛かる! 拘束された女、そこに潮が刻一刻と迫りつつあった。


「い、いやだ、放せッ! くそッ、コイツはアネモルスか! ……まずい、このままじゃ潮が!?」


 アネモルス。海底に潜む巨大なイソギンチャクのようなハルムである。不用意に近付いた者にその触手を絡め、捕食するのだ。


「ええい離れろ! 離れてくれ!! いやだ、このまま食われるなんていやだ……!!」


 女はその場から這い出そうとするも触手の力は強く、先程の手槍を出して触手を刺しても拘束された状態では中々に身動きがとれない。更に悪いことに、満ち潮に乗じて別のハルム、デボノイドが現れ始めたのである。次第に満ち行く潮に、女は諦めの表情を浮かべた。


「お父さん、ごめんなさい。私は、アヤメはもうダメみたいです……」


 遂に諦めたアヤメ。徐々に彼女の体を触手が覆い、呑みこもうとする。


(私は……もう……)


 諦めかけたその時だった。ザクッという音と共に触手の力が弱まり、アヤメは解放されたのである。


「何!? 何があったの……!!」


 すぐに自分のいた方向を見るアヤメ。アネモルスの体に突き刺さる何か。それを辿って行くと、見慣れぬ男の拳に繋がっていたのである。


「あなたは……誰?」


 だが相手は一言も話さない。男は周りにいるデボノイド達に襲い掛かった。その手にある剣状の何かを振りかざし、次々にデボノイドの体を突き刺してゆく。急所を的確に刺すためか、デボノイドの体はことごとく消え去って行った。


「すごい……」


 アヤメの口から言葉が漏れる。しかし男は海に逃げるデボノイドを追って、そのまま海に飛び込んで行ったのであった。


「あ、待って! ……大丈夫なのかな……」




「エリアγ確認。ダイバースイッチ・オン!」


 翌日も、琉はエリアγに向けて船を進めた。


「レーダー異常なし。流石に今は出て来ないみたいね」


「だろうな。あんなボロボロになったんじゃあハリバット出して襲撃なんて余裕はあるまい。でも油断は出来ないぜ」


 回復の進んだロッサにレーダーの見方を教え、琉はカレッタ号を動かしていた。ただ養われるだけだったロッサも、徐々にカレッタ号の船員として成長しつつある。


「ねぇ琉、聞いて良い?」


「何だい、ロッサ?」


 ウェットスーツを取り出した琉に、ロッサが尋ねた。


「昨日のジンのことなんだけど……。琉もいつか、潜れなくなっちゃうの?」


「……まぁな。仮にも水中だ、いつ事故が起こってもおかしくない。それに俺も、今でこそまだ体力があるが、ヒトというのは悲しいモノでいつかは衰える。確かに5年前と比べりゃラングアーマーも改良が進んでいるし、ジンのような事故も起きにくくなってはいるぜ。しかし事故がゼロになるかと言うとそれは違う」


 操舵室からの階段を下りつつ、琉は続けた。


「いくらこっちが改良しても相手は自然、どんなに頑張ってもダメな時はダメなんだ。海が荒れたら船は出さない、状態が悪けりゃすぐに引き返す、ハルムが多い時は潜らない、潜る本人の体調管理に気を付けるといったことを心がける必要があるんだぜ。技術だけが全てじゃない、大事なのはそれを使う人類そのものなんだ」


 ウェットスーツに着替え終わった琉は装置に立った。武術を思わせる構えをとり、呼吸を整える。彼の装着前のクセであり、一種の儀式でもあった。


「あともう一つ……。わたしも遺跡に潜る。やっぱり、ヴァリアブールの記憶を集めたい。わたしからわたしが逃げちゃダメなんだ、そんなことしたらまたメンシェ教に……」


「……ダシに使われる、何も覚えてないのを良いことに悪魔扱いされる。そういうことかね? ……その言葉を待っていた、しかしね」


 琉は一端間をおいて、言った。


「今はダメだ。ロッサ、君はケガが治り切っていないだろう? さっき俺が言ったばかりじゃないか、潜る本人の体調管理に気を付けるってね」


「そうか……そうだったね」


「では、行って来る。何、明日潜れば良いさ。ラングアーマー・セットアップ!」


 アードラーに乗り、遺跡の奥へと潜って行く琉。暗い暗い海の底で、ラングアーマーに流れる赤いラインがぼおっと光っていた。このラインはエネルギーが流れると光り始め、バッテリーの減りと共にその輝きが失われてゆく。

 琉の今の仕事は遺跡漁りだけではない。ロッサに食べさせ、回復させるためにハルムを捕獲するというのも兼ねているのだ。しかしハルムは死ぬとたちまちその肉体が消滅、血溜まりと化してしまう。理由は、ハルムが絶命すると自己消化を起こしてしまうからだ。なので生け捕りにせねばならないのだが、更に都合の悪いことにハルムというモノの大半は本来ヒトを捕食せんと襲い掛かる怪物でもある。


(ここの所バッテリーの減りもエアの減りも早い。毎回ハルムとケンカするせいだな、しかしロッサのためだ。それにあと一匹で彼女の体は完全に回復するしな、頑張るしかないぜ)



 琉はまっすぐにクレーターに向かった。ヴァリアブールの細胞片を集め、ロッサに与えるためである。そうすれば、当時の様子が分かることとなり、記憶を戻す手掛かりになるからだ。だが、ここで彼は異変に気付いたのである。


「……おかしい。レーダーの感度は最大だ、にも関わらずあれだけあったヴァリアブールの反応がキレイさっぱりなくなっている……どういうことなんだオイ!? ロッサ、聞こえるか!?」


 すぐにロッサに連絡を入れる琉。ロッサの記憶を戻す鍵が、なんとも悪いタイミングで失われてしまったのだ。


「そんな……みんなゴメンね、わたしが弱いばっかりに……」


「そんなに自分を責めなさんな。怖いのは当然だし何より、こんなキレイさっぱりいなくなるのはおかしいとは思わんかね? てなワケで今回は遺跡の調査がメインになりそうだ。もちろん、お土産はキッチリ持ってくるから楽しみにしててくれ」


 遺跡の建物のうち一つに目を付け、漁りにかかろうとする琉。だが建物の様子を見るなり、彼の動きが止まった。


(何だあれは、建物から赤い何かがもれ出ているぞ? ……パルトネールが反応したな、コイツはハルムの血か? しかしそれにしてはやたらに多くないか!?)


 建物から見え隠れする赤いもや。パルトネールをそれに近付けると、ハルムを感知した時のあの音が鳴り始めた。しかし建物の中は、一切の視界が効かないほどにハルムの血で満たされている。


(ここはやめだ、別の建物を漁ることにしよう。しかしこれ……ヴァリアブールの細胞片が消えたのと何か関わりはあるのか?)


 琉はアードラーを使ってエリアγ全域を駆け回った。そこで彼が見たモノはハルムの血が建物はおろか、岩陰からももれだすという戦慄の光景だったのである。


「ロッサ、聞こえるか?」


「琉、どうしたの?」


「残念なお知らせだぜ、今日はお土産もなしになりそうだ。というのも、どこもかしこもハルムの血だけが漂ってやがる、何があったっていうんだ!?」


「ハルムの血があちこちに? ……何でそんなことが……」


 落胆すると同時に恐怖を感じる琉。長居は無用だ、そう言ってその場を去ろうとした時だった。


「ん、反応だ。……生きたハルムがいる! よし、ロッサへの土産は確保出来るぜ、何処だ何処だ何処だ!!」


 パルトネールが拾った反応を元に、オセルスレーダーを働かせた琉。そこに映っていたのは、岩陰で蠢くデボノイド達の姿であった。


「パルトパラライザー! よし、ここだな……!?」


 パルトネール・シューターを構えた琉が目にしたモノ。それは岩陰から次々に逃げ出すデボノイド達の姿であった。霧散したデボノイドのうち一体を撃ち落とす琉。だがパラライザーの当たったデボノイドに、岩陰から伸びた“何か”が突き刺さったのであった。


「何だ、今のは!? 横取りか!!」


 琉の目の前で、デボノイドの体は弾けるようにして血だまりに変わってしまった。シュルシュルと岩陰に戻る“何か”を琉は追いかけんとした。だがその琉をあざ笑うがごとく、“何か”は岩陰を飛び出してまた別のデボノイドに襲い掛かったのである。“何か”の本体、それは海中を飛び回る真っ赤な影。変幻自在に一部を変化させては、ハルムを仕留める謎の影。


「事件のホシはコイツか。しかしあの動き、何処かで見たような……ハッ!?」


 異変の原因を推測した琉。同時に彼の脳裏にはある人物が浮かんでいたのであった。


「まさか、ロッサか!? 念のため入れてみるか……」


 頭部の側面についたアクアイヤーのツマミを回し、琉はカレッタ号に連絡を入れた。すると……


「琉、どうしたの?」


「んな、ロッサ船の中にいたのかよ!? じゃあコイツは一体!?」


「え、ちょっと何があったの? ワケが分からないよ!?」


「ワケが分からなくてすまない、とにかくありのまま今起こってることを話すぜ。デボノイドを見つけて仕留めようとしたらロッサそっくりなヤツが出てきて暴れ始めた。何を言ってるのか分からないだろうが俺にも何が起こっているのかさっぱりワケワカメで……ええいとにかく、今俺が見てる光景をそっちに送るからディスプレイを見てくれ!!」


エリアγに異変が! 果たして相手は何者か、そして琉はロッサへのお土産を確保出来るのか!? 

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