『どくとる琉ちゃん激闘記』 序
~前回までのあらすじ~
ロッサの得た能力により、メンシェ教の会議を盗み聞きした琉。相手はハルムをわざと街中に放すという恐ろしい計画を立てていた。しかしその翌日、メンシェ教の船からハルム“ガルメオン”が脱走、琉とロッサがこれを仕留めた。だがその直後、メンシェ教徒が襲来。ロッサはその光線砲から琉をかばい、大ケガを負ってしまう……。
海底遺跡。かつて人の営みのあった、古の都市。3000年前にその時が止まって遺跡になってからも、命の喧騒は繰り広げられる。
「よし、今日はこのくらいにしておこう。あとは……」
遺跡を漁る男。腰に付いた棒状の道具を取り出し、そこに拳銃の引き金を思わせるパーツを取り付ける。すると道具の先端がクワッと開いた。
「……いるいる。ようし、狙いを定めて……」
男は遺跡の影に立ち、引き金に指を当てた。その目線の先には半魚人を思わせる形のハルムが群れをなしている。まだこちらには気付いていないようだ。
「狙うは赤いヤツ……パラライザー!」
道具の先端から迸る赤い閃光。閃光はハルムのうち、底にいる比較的大型のハルムに突き刺さった。途端に動かなくなるハルム。周りにいたハルム達は一斉にその場を後にした。
「今だ、アードラー!」
男はアードラーと呼ばれるエイ型のサポートメカに乗っかると、すぐさま動けなくなったハルムに駆け寄った。そのエラを掴み、他のハルムが来ないうちにその場を後にする。そうしなければ、自分自身がエサとなるからだ。
「今回のは大物だぜ。これなら回復が早くなりそうだな……」
ハッチを開け、男が船に帰還する。潜水装置であるラングアーマーを解除し、先程仕留めたハルムを船の中に引っ張りこんだ。
「ロッサ、今日は良いのが捕れたよ!」
「琉おかえり! ……うわぁ、すごーい!!」
ロッサと呼ばれた女はハルムを見るなり飛びつき、そのままかじりついた。夢中になってハルムをむさぼる姿は、その美しい姿からはとても想像出来るモノではないだろう。
「良かった、ここまで元気になったなら心配はいらないな。あの時は本当に、生きるか死ぬかって状態だったからねぇ……」
この5日前、ロッサは琉をかばってメンシェ教徒の撃った破壊光線砲を浴びた。その強烈な光によって彼女の背中と翼、そして琉の買い与えたコートまでが無残にも焼かれてしまったのである。一命は取り留めたモノの彼女の負ったダメージは大きかった。
「どうすれば元に戻るんだ? 以前に電撃砲を浴びた時は“目”を取り戻すことで再生したけど」
「ハルムの肉……あれを食べれば戻るはず……。ヴァリアブールの体は食べたハルムで出来てるから……」
「ハルムの肉か……よし、分かった」
それから琉は遺跡に潜るたびに1体ずつハルムを狩り、ロッサに与えた。幸いエリアγにはデボノイドが多く、ハルムには困らなかったのである。普段は厄介者のハルムであるが、この時ばかりは琉もハルムには感謝していたのであった。そのかいあってか、ロッサの体は徐々に元のグラマラスな体つきに戻っていったのである。
「ふぅーっ、美味しかったー! ふふふ、これですっかり元通りね」
「ゴクリ……」
「……琉、どうしたの?」
再びたわわに実った乳房や美尻を確認するロッサの姿に、琉は思わずムラっと来てしまったようだ。無理もない。いくら美女の姿をしていても、無性生殖をするロッサにはその感情が理解出来なかった。
「あとは髪ね……。あと体の中に、まだ空洞が残ってるみたい」
「ショートもまた可愛いと思うんだけどなぁ……ま、良いか。港に戻るぜ!」
海面にその姿を現したカレッタ号。大海原を突き進み、一行はハロゲニア領クロリア島の港を目指す、その途中であった。操行する琉の手元から、電波を受信した時の呼び出し音が鳴り始めたのである。
「おや、誰だろう。モニター・オン!」
モニターに映った男。そこに映っていたのは、琉と同じようなデザインの黒いスーツに身を包んだ茶髪の男であった。
「久しぶり、彩田君」
「君は……ジン! ジンじゃないか!! 久しぶり、元気にしてたかい!?」
「……ジン?」
再会を喜ぶ琉に対し、ポカンとするロッサ。
「あぁ、ロッサは知らんよな。コイツは辰山仁、かつて俺やジャックと一緒にラングアーマーの訓練を積んだ男さ。そんでジン、君もハロゲニアに来てたのかい?」
「あぁ、そうだ。……お? そこにいるのは……?」
ジンは琉の後ろにいるロッサに気が付いた。
「おっと、紹介しないとな。彼女はロッサ、ワケあって船に乗せている。ちょっと記憶喪失で……な」
「そうか、そっちも苦労が多いんだねぇ。そうだ、クロリアに着いたらお茶にしないかい?」
クロリアの港に着いたカレッタ号。階段を降りた二人の前に、黒い衣の男が待っていた。琉と比べても貫禄があり、背中には大きな剣を背負っている。
「……へぇ、今は調査船の船長をやってるんだ!」
「まぁね。あの後は本当に大変でさ、船について猛勉強してね。まぁ船を使うのは好きだったし、今は今で充実してるんだけどね」
そうやって笑顔で話すジン。しかし話に着いていけないロッサが言った。
「……どういうこと? ジンは潜らないの?」
「あぁ、ロッサだったっけ? 君はまだ聞いていなかったのか。これはおれが、訓練のために海に出た時だったんだけどね……」
5年前。訓練をある程度積み、ついに海に繰り出すこととなった時のことである。琉とジンはバディを組み、訓練用のラングアーマーを身に着けてエリアαに挑んだ。
「ジンは凄いヤツだったんだ。銃は当然のことながら剣の腕も俺より上だったし、試験の成績は常にトップでね。頭は今一つだった俺からすれば羨ましい限りだったよ。しょっちゅう教えてもらってたなぁ……」
「よせやい、照れるじゃないか。まぁでも、上手くなりたい一心で何事も取り組んでたんだけどね」
しかし事故が起こる。デボノイドと出くわしての本格的な戦闘訓練。最前線で戦っていたジンはデボノイドの鱗がラングアーマーのスクリューに詰まってしまい、故障を起こしたのだ。更に動きの鈍くなった彼の背後から、デボノイド・プロトススの毒針が襲ったのである。運悪くその毒針は、彼の浮力制御装置に命中してしまったのだった。
「……その時起こった吹き上げ(急激に水面に上がってしまう潜水事故)により、おれは肺が破裂して重篤な潜水病にかかってしまった。命は助かったモノの、二度とラングアーマーの着られぬ体となってしまってね……」
「そんなことが……」
港近くの喫茶店の席に着き、三人は話し込んでいた。ジンは訓練中の事故によりラング装者としての資格を得られなくなってしまい、基地を出ることとなってしまったのである。以降、琉とは連絡がなかったのであった。
「彩田、君が船を手に入れた話は結構前に聞いたんだ。それで通りかかったら君の船……カレッタ号を見つけたから連絡したというワケさ」
「そうだったんだ……。そういえば、ジンの船はでっかいね! ありゃ数十人は入るんじゃないかい?」
「ニタリ丸、っていうんだ。乗組員は35人、うち装者は3人だ。皆でワイワイやってるよ、良かったら今度遊びにおいで」
しばらくして琉達と別れたジン。彼は夕日をバックに、カレッタ号を見つめていた。
「カレッタ号……。まさか、とは思っていたんだけどな」
自分の船に戻った二人。思いがけぬ旧友との再会に嬉しさを噛みしめる琉。その勢いに乗ったまま、琉は携帯電話を取り出したのであった。
「ハイサイ、ジャック!」
「もしもし、彩田君? 何か嬉しそうだけどどうしたんだい?」
かけた相手はジャック。彼も琉と同じ年に訓練を受けた存在である。
「さっき懐かしい顔に会ったよ~! ジン、て覚えてる?」
「ジン? ……あぁ、辰山仁のことかい!?」
「そうそう! たった今ソイツと会ったんだよ!! お互い連絡先を教えてなかったからさ、久々に会えたのがもう嬉しくて嬉しくて……」
電話越しにも分かるほどの歓喜にむせぶ琉。だがそれとは対照的に、ジャックは黙り込んでいた。
「……ジャック? 何かあったのかい?」
「……? あぁ、いや、何でもない。とにかく良かった、元気にやっているようでさ……。んじゃあ仕事があるし、そろそろ良いかい?」
電話を切ったジャック。彼は、あるアルヴァンの家の前にいた。
「あの……先生? どうかなさったのですか?」
扉の中から、アルヴァン族の女性が話しかける。その傍らには若いアルヴァン族の少年がいた。
「あぁ、かつて一緒に訓練した仲間ですよ。マーク、訓練時代の仲間は大切にするんだ、一生の友達になるからね。……では、僕はこれで」
ジャックは軽く会釈するとその場を離れた。そして彼は真っ直ぐに港へと向かったのである。
「次の高速船は……2時間後か。荷物、まとめておこう」
新キャラ登場。ラングアーマーサイドの人間、ジンです。果たして彼がどう物語に絡んでくるのか、楽しみにしていて下さい。




