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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第五章『ハロゲニア中を駆け巡れ』
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『ハロゲニア中を駆け巡れ』 急

ガルメオンを仕留め、捕食に成功したロッサ。しかし今度は、逆に二人を追う者が現れて……!

 琉が向いた先。そこに待ちうけていたのは、あの稲妻模様のエンブレムの付いた舟が数隻と、その上に待ちうけるフードを被った男達であった!!


「メンシェ教!? やいやい、俺見たぜ!! お前さんがた、ガルメオンの暴走で船をやられてガッタガタなんだろう!? だったら大人しく解散して、マジメに生きることをお勧めするぜ!!」


「ふふふ、減らず口もいい加減にした方がよろしくてよ、彩田琉之助」


 タンカを切った琉に対し、妙に高い男の声が答えた。ローブの男達の間から現れた、一際豪奢なローブを着た存在。琉とロッサには一目で分かった。


「ビショップ・テンタクル……だな?」


「ほっほっほ! まさか私の名前を知っているとは、異端者も舐めたモノじゃないわね!! ……彩田琉之助、その顔は年の割に幼いというのは本当だったようね」


 うぐ、と表情を歪ませる琉。童顔がコンプレックスである琉にとって、ズケズケとそのことを言われるのは少々キツいモノがあった。だがそんなことは露知らず、テンタクルは更に続けたのである。


「年の割に子供っぽい顔、そう聞いていたからどれほどの美少年かと思って楽しみにしていたのに……何よ、これじゃあ小汚いガキじゃない! 可愛さ余って憎さ百倍とはこのことだわ!!」


「は、はいぃぃぃぃ!?」


 ただでさえ幼い顔を気にしている上に、まさかの小汚い呼ばわり。ガルメオンとの戦いでたまった疲労も相まって、琉は放心状態となってしまっていた。


(小汚いガキ……小汚いガキ……小汚いガキ……小汚いガキ……)


「ちょっと琉、しっかりして! あんなのよりはマシじゃない! 大体可愛さ余って憎さ百倍って意味違うでしょ!!」


 後ろから肩を掴み、ロッサは琉を揺さぶりつつ言った。こんな緊急事態で放心状態になっていてはマズい。ロッサの判断は正しかった。


「あんなのとは何よ! 貴方達、やってしまいなさーい!!」


「ハッ!!」


 メンシェ教の舟から、レンズに覆われた謎の装置が出現した。その先端が、一斉に琉とロッサの乗るアードラーに向けられる!


「……ぬな!? まずい!!」


 次の瞬間、装置から強烈な光が照射された。たちまち当たった水面から蒸気が上がり、辺り一面が白く覆われる。蒸気が去った後、そこには何もなくなっていた。


「ほーっほっほっほ!! おバカさんね、あんなスキを見せたらやられるに決まってるでしょう!! あんなガキにやられていたゴライアスとワインダーは一体何をやっていたのかし……!?」


「ぐほっ、げほっ!? おいコラ、急に潜ったからむせただろ!!」


 急にぐらつくメンシェ教の舟。うち一つの船底を貫いて、アードラーは姿を現した。琉はアードラーにしがみつき、全身水浸しになりながら鼻に入った海水をサッシュでぬぐっている。


「やってくれたな! どうしても解散したくないっていうなら仕方ねぇ、実力行使あるのみだ!!」


「望む所じゃない。やれッ!!」


 琉は袖からトンファーを取り出して構えた。メンシェ教徒達は各々武器を構えつつ、一斉に琉に襲い掛かる。群がる敵に目がけ、琉はアードラーを翻して海水を浴びせかけた。ひるむメンシェ教徒に対し、青い影が飛び掛かる!


「必殺・水飛沫隠れ打ち!」


 自ら浴びせかけた海水に乗じて、琉は複数のメンシェ教徒に強烈な打撃を叩き込んだ。海中に叩きこまれるメンシェ教徒を見つつ、琉はその視線をテンタクルに向ける。


「私はあの二人とは違ってね、一筋縄じゃいかないわよ!」


 テンタクルはローブの袖からムチを取り出し、琉目がけて叩きつけた。ムチの先端には小さな刃が付いており、舟に当たるたびに削りとってゆく。


「物騒なオカマだぜ。しかしそのムチの腕、俺の知ってる中じゃあ二番目だな!」


「何ですって!? じゃあ一番は誰なのよ!! まさか自分とか言うんじゃないでしょうね!?」


「それはな……俺の知る中で最も美しい生き物だ!」


 琉は右手を天に突き上げ、パチッと指を鳴らした。すると舟の下から赤い液体が飛び出し、周りにいたメンシェ教徒達を蹴散らしつつ人型の姿となった。


「それはわたしよ、テンタクル!」


 琉の挑発によりすっかり油断したテンタクルの乗った舟めがけ、ロッサの指が変形した巨大なムチが叩きこまれた。途端に舟が真っ二つに叩き割られ、テンタクルは海中に転落した。


「テンタクル様!!」


 動揺する教徒達。皆一様に、破壊された舟の方に飛び込んで行ってはテンタクルを助け出そうとした。確かにあのローブでは泳ぐのは難しいだろう。


「よし、よくやった! ロッサ、今のうちに逃げるぞッ!!」


「OK!」


 琉はアードラーでロッサに近付き、手を取ってその背に乗せるとその場から一目散に逃げ去ろうと目論んだ。だがメンシェ教徒の中でただ一人だけ、これを見逃さぬ者がいたのである。


「おのれ……逃がさん!!」


 メンシェ教徒は最初にアードラー目がけて照射された機械を琉とロッサの背後に向け、その引き金に手を置いた。


「……!? 琉、危ない!!」


「え?」


 逃げ去る最中、ふと背後を見たロッサはこれに気が付くと、とっさに琉を海中に押し込んでアードラーの上から飛び去った。空中で翼を広げ、大の字になって背を向けるロッサ。そんな彼女に照準を合わせ、メンシェ教徒は容赦なく引き金を引いた!


「あああああああああああああああああああああッ!?」


「バカめ、悪魔が身代りになりやがった! だが貴様にこの“聖照砲”が耐えきれるはずがない、このまま浄化されて跡形もなくなるが良い!!」


 ロッサは琉に代わり、自ら囮になることでこの光線を受けた。それを琉が知ったのは、海面に顔を出したその時だったのである。


「ブハッ!! ……ってロッサ!? アードラー!!」


 琉の眼の前で、ロッサの巨大な翼が光線に焼かれて塵と化してゆく。すぐさまアードラーを操作して自分の真下に潜り込ませ、その場でジャンプするとロッサの足を引っ張り、海中に引き込むとそのまま息をこらえてメンシェの追撃を振り切った。


「あっ、と逃げられたか……。あと少しでヴァリアブールを“浄化”出来たのだがな……。まぁ良い、しばらくは立ち直れまい!!」




「ブハッ!! ゼェ……ゼェ……あんなに息を止めたのは、島を出る前にミーバイ(ハタ)を仕留めて以来だぜ……。息ごらえ5分はやっぱキツいな……」


 カレッタ号付近。琉は息継ぎなしでアードラーを飛ばすことによってメンシェ教の追手をまいたのであった。海面に出て、アードラーをカレッタ号に向かわせつつ琉はロッサを抱き起した。


「……ロッサ、大丈夫か! ……なんとかもったか……」


 以前に電撃砲を食らった時と同じように、ロッサの背はすっかり低くなって髪は短髪のおかっぱヘア、胸も縮んで幼児体型になっていた。それでもまだ痛むのか、苦痛で顔を歪めている。


「すまない、身代りになってくれたんだな……」


「大丈夫よ……琉のためだもん。……うぅ、まだ背中が……」


 見るとロッサの背から黒い液体が延々と流れ出している。焼けただれ、ロッサは相当量の細胞を失った様子である。中心にこそ達していないが、表面そのものをかなり焼かれたようだ。


「かばってくれたことは嬉しい。だがねロッサ、あんなことは二度とやっちゃいけないよ。俺は俺自身が傷つくより、君が傷付く方がよっぽど堪えるのだからな……だから……」


 そう言って琉はロッサを抱きしめ、その目からは安堵の涙が流れ落ちるのであった。カレッタ号に戻ると琉はロッサを部屋に寝かせ、そのまま食堂に向かうと薬草粥を作って持って行く。食べ終わるとそのまま寝かしつけ、琉自身も自室で日誌を書くとそのまま布団に沈みこんだのであった。


『航海日誌×月*日。ロッサが負傷した。あのレンズ型の光線砲が当たった瞬間、ロッサは自分の細胞をある程度捨てて脱出するつもりだったらしい。いわば、トカゲの尻尾みたいなモノである。それにあの兵器は非常に恐ろしい威力だ、私が食らったならたちまち炭になっていたであろう……』


『しばらくは潜りがてらデボノイドを狩り、ロッサに与えるとしよう。彼女の体を修復するには、相当量のデボノイドが要るに違いない。しかしハルムの生け捕りか、パラライザーでも難しそうだ。普通の魚と同じように、活け締め出来ないモノであろうか……』


『メンシェ教はあの一件で相当なダメージを負ったことだろう。しかしあの状態ですら新たな武器を開発していた。それにあのテンタクルとかいう男、言動こそなよなよとしているがかなりの武闘派である。油断は出来ない、これからはより気を引き締めて行くことにしよう』




 深夜。ハロゲニアの沖に、一隻の船が停まっていた。一般人に、その姿を見ることは出来ない。


「教皇様、わ、私に死をお与えください……!」


『殻草博士。安心しろ、貴重な科学者の命を奪ったりはせん。ただし、代償は払ってもらうぞ!』


「は、では何を……?」


 メンシェの巨大艦の中で繰り広げられるやりとり。両腕を二人のメンシェ教徒に拘束され、教祖ことメンシェ教皇の前に突き出されつつ殻草博士は言った。


『よく言った。では、ついて参れ』


 教皇は殻草博士を連れ、階段を下って行く。下って行った先にあったのは、天井を突く巨大な柱であった。


「教皇様、これは!?」


『メンシェトゥリス。殻草博士、お前にはこのメンシェトゥリスの操り手となり、我々に仇成す者全てを粛清するのだ。これこそまさに最後の機会、成功すればこれまでの失敗が帳消しになるほどの名誉を得ることになろう……』


「ハッ、ありがたき幸せ!」


 跪き、声を上げる殻草博士。しかし教皇は目を合わせることなく、周りにいたメンシェ教徒達にこう言った。


『聞いたであろう? では殻草博士の望んだとおり、メンシェトゥリスの操り手にすべく、博士をその柱に結びつけよ!』


「ハッ!!」


「え、な、何故拘束するのだ!? 教皇、これは一体!!」


 博士は再び拘束され、教徒達によって柱の上まで引っ張られてゆく。柱の一部は十字架のような窪みがあり、博士はその中に押し込められた。博士が中にはまり込んだ途端、彼の身体を触手状のケーブルが拘束、まるで十字架に磔にされたような格好となったのである。


「気分はどうかな、殻草博士」


「火之村博士! これは一体!?」


 メンシェトゥリスに囚われた殻草博士に対し、火之村博士が言った。


「殻草博士、あなたにはこのメンシェトゥリスのメインカメラ及び生体コンピューターとなってもらう。あなたのような優れた頭脳の持ち主こそ、このメンシェトゥリスにふさわしい……」


「やめろ、私を兵器に改造するつもりか!?」


 講義する殻草博士に構わず、火之村博士はメンシェトゥリスにコードで繋がったヘルメット状の物体を取り出した。


「そんなことを言っていられるのも今のうちだよ、殻草博士。このトゥリスメットを被せた時、あなたはひたすらにメンシェ教を害する者を排除するだけの兵器と化す。君の意志などそこで消え去るのだ。我々の救世主として、あなたには犠牲になってもらおう……」


「やめろ、やめろ、そんなことをしたら私は……あ、あ……うわああああああああああああああああああッ!?」


 密室に響く悲鳴。悲鳴は徐々に小さくなっていき、ついに途絶えた。そして悲鳴を上げなくなった時、殻草博士の意識は完全に消え去ったのである。


「あとは“燃料”を入れるのみ……! これが完成すれば、遂に我々の世界への第一歩となる!! 今に見ておれ……はっはっはっは!!」


哀れ殻草博士。メンシェトゥリスとは何なのか、ロッサは復帰出来るのか。では次回予告をどうぞ。


~次回予告~

海に潜る琉。遺跡を探るだけでなく、ハルムを捕えてはロッサの元に持って行くという作業を繰り返すのであった。しかしこんな大事な時に限って、大量のハルムが血だまりと化すという事件が起こる。更にそんな折、彼の元にある人物が訪ねて来た!


次回『どくとる琉ちゃん激闘記』

ラングアーマーを纏え。生活のために、彼女のために!

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