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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第五章『ハロゲニア中を駆け巡れ』
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『ハロゲニア中を駆け巡れ』 破

メンシェ会議を盗み聞きした後、琉はラングアーマー制度のことをロッサに話した。そして翌日、メンシェ教会議で使われた画廊を見に行った二人だったが、教徒の後をつけた先で事件は起こったのである。

 三大ハルムの一つ、ガルメオン。保護色によって姿を消し、その巨大な角や鋭い鉤爪で獲物を追い詰め、長い舌によって捕食するという生態を持つ。姿を消すために都市部にでも出現し、多くの者が犠牲になったとされているのだ。


「しかしロッサ、何故ガルメオンが分かったんだい?」


「いくら姿を消すといっても、天敵であるわたしの目だけはごまかせないわ。あ、そこの角を右に回って!」


 アードラーに跨り、ガルメオンを追う琉とロッサ。一方のガルメオンはいともたやすく街中に侵入、パニックを引き起こしていた。見えない何者かによって蹂躙される街。建物に爪跡を付け、まるで二人をあざ笑うが如く暴れ回る。


「アギジャベ! 俺には見えんぞ!?」


「大丈夫、わたしの言う通りにして。……どうやら、“アレ”を使う必要がありそうね……。琉、陸に上がって! アードラーをバイク形態に!!」


「了解、チェィンジ・マシンアードラー!!」


 変形し、水上から陸上に飛び移るアードラー。しかし琉の頭には疑問が。


「……ロッサ、君が飛んだ方が早くない?」


「ヤツを見るには常に第三の目を開かないといけないの。それも、翼に使う分を削ってでも目に回さないと見えないのよ」


「なるほど、そっちもギリギリなのか。じゃあ仕方ないな」


 ガルメオンの擬態を見破ることは、実はロッサにとっても難行である。ロッサは翼や尻尾に使う分のエネルギーを全て額の目に回すことで精度を高めていたのだ。


「琉、なるべくヤツに近付いて。擬態を解く方法があるから!」


「あるのか!? じゃあとにかく近付こう、って今ヤツは何処に!?」


「岸壁よ! ……あ、今向こう岸に!!」


 姿を消して縦横無尽に駆け回るガルメオンに苦戦を強いられる二人。そのためか、アードラーが中々加速することが出来ない。


「ヤツは今、あっちの岸壁沿いに真っ直ぐ飛んでいる!」


「え、飛べるの!? チェィンジ・マリンアードラー!」


 再び海に飛び込むアードラー。周りに舟がないことを確認し、琉はパルトネールを構えて更に加速させる。


「あと少し……あと少し……今だ!!」


 ロッサがその赤黒く染まり切った腕を突きだすと、その指先から大量の赤い液体が噴出した! すると液体のかかった何かがジュウジュウという音を立て、大きな音を立てて水中に落下した。


「ロッサ、今の赤いの……まさか!?」


「わたしの体の一部……これで表皮を溶かせば擬態出来なくなるはずよ……」


 肩で息をするロッサ。彼女の放った赤い液体は、強力な消化酵素を分泌する“溶解細胞”と呼ばれるモノである。この溶解細胞で溶けないハルムはそうそうおらず、場合によっては金属などの無機物ですら溶解してしまう。鉤爪での攻撃の際にも指先から分泌することで非常に鋭い切れ味を発揮するだけでなく、今のように手から放射することで中距離攻撃を図ることも可能である。しかしこれは、文字通り自らの身体を削る、諸刃の剣でもあるのだ。


「おい大丈夫か!?」


「大丈夫……そんなモノ、食べて回収すれば良いんだから! あ、上がって来たよ!!」


 ザパァ、という音を立てて陸地にその姿を現したガルメオン。表皮の一部が溶かされたショックのせいか、擬態が完全に解かれていた。頭部に生えた巨大な角。その手に備えた、ヴァリアブールのそれを遥かに凌駕する大きさの鉤爪。その背に生えた翼竜を思わせる翼に、あちこちを向く独特な目。琉がアードラーを陸に上げ、バイク形態に変形させると、ロッサはアードラーから降りてその鉤爪をガルメオンに向けた。


「ほっほっほ……麻呂の擬態を破るとは、流石我らの天敵を名乗るだけあるのぉ」


「って、コイツも喋るのかよ!?」


 口を利き始めたガルメオンに驚く琉、そして通行人達。ロッサの赤い目とガルメオンのカラフルな目が睨みあい、対峙する。街は緊迫した空気に包まれた。


「皆さん! ここは危険です、早く!!」


 ロッサとガルメオンが睨みあう間、琉は通行人達を避難させた。このままでは被害が出る、被害を出せばロッサの信用が落ちる、ロッサの信用が落ちればメンシェ教にのさばられる。一通り通行人がいなくなると、琉はロッサの元へ戻った。


「ハァッ! ……何!?」


「鈍いのぉ。そのような速さで麻呂を仕留められると申すか?」


 琉が見た光景。鉤爪を振るうロッサに対し、あざ笑うかのようにそれをかわすガルメオンの姿だった。やはり自身の細胞を消耗したのが原因か、ロッサの動きには今一つキレがない。琉はパルトネールとトリガーパーツを取り出した。


「パルトパラライザー!」


 琉はガルメオンの背後から近付き、引き金を引いた。だが、


「何じゃ? 背中がむず痒いの?」


「んな、効かない!? ……ぐへぇ!?」


 ガルメオンの動きは止まることがなく、そのまま振り向きざまに翼で打たれた琉は近くの建物に叩きつけられた。


「あまたのハルムを食らったヴァリアブールの肉。その味はいかなる人類やハルムの味をもしのぐという。だが後回しじゃ、まずは威勢の良いこの男を、前菜として食ろうてやろうかのぉ」


 ロッサに背を向け、ガルメオンが琉に近付く。近付いて来たガルメオンに対し、体勢を立て直した琉は相手を睨みつけ、そして言った。


「へぇ、ハルムにも前菜とか主菜といったモノが分かるんだな、初めて聞いたぜ。ハルムの味覚は知らんが、俺自身は旨いモノをかなりたくさん食っている。だからひょっとしたら旨いかもしれんなぁ。……だがね、食われるつもりなんてハナからないぜ! 食われるのは……お前自身だガルメオン!! アードラー!!」


 琉はパルトネールを構えると、その場でアードラーを呼んだ。ガルメオンを横から跳ね飛ばして登場したアードラーに琉は跨ると、パルトネールをサーベル形態にして正面から構えた。


「麻呂に機械をぶつけるとは良い度胸……お主、命が惜しくないな?」


「惜しいさ。だから機械を呼んだんだよ! 行くぜ!!」


 アクセルを握り、凄まじい爆音を上げる琉。それに対し、翼を広げて滑空するガルメオン。走り出したアードラー、琉の手にはパルトネールの刃が光る。交差する二つの影。次の瞬間、そこにあったのはアードラーから放り出された琉と、片翼となったガルメオンの姿であった。無人となったアードラーは水中に没した。


「おのれおのれ! 貴様を食ろうて、この翼を再び生やしてくれようぞ!!」


 怒り心頭のガルメオン。爪を振り上げ、琉に再び襲い掛かる! だが琉の顔は大胆かつ不敵な笑みを浮かべていた。


「アードラー・フィンスラッシュ!」


 琉はパルトネールに声を入れ、海面を指した。すると通常形態のアードラーが海面より飛び出し、そのヒレから出現させた刃でガルメオンを袈裟がけに切り裂いたのである! 起き上がると同時に琉はアードラーを抱え上げ、その3本の棘をガルメオンに向けると間髪入れずに、


「アードラー・バックスティング!!」


 無数の針状の光線が、弱ったガルメオンの体に降り注ぐ。弱り目に祟り目、致命的なダメージをガルメオンはフラフラとその場から去ろうとしていた。


「麻呂はまだ死なぬ……。より多くの輩を食って、また……」


「その必要はないわ」


「その声、もしや……うがぁッ!?」


 逃げ出そうとしたガルメオンの体に、無数の黒い触手のようなモノが突き刺さった。その根元には、満身創痍になりながらも立ち上がったロッサの姿があったのである。ロッサの伸びた指が、ガルメオンの体をしっかりと捕えていた。


「逃がさないわよ……! わたしの一部、利息付きで返してもらうから!!」


「こんなはずじゃ……麻呂が……食わ……れ……」


 内部を溶かされ、徐々にしぼんで行くガルメオン。同時にロッサの血色が良くなってゆく。やがてガルメオンの体は跡形もなくなり、次いでロッサがうずくまり始めた。


「後は、ガルメオンがロッサの体に順応するのを待つだけか……ん?」


 琉はアードラーをバイク形態にして、ロッサの体の変化を見守っていた。すると避難していた通行人たちが、彼らのもとへ集まって来たのである。


「やった! やっつけたぞ!」 


「貴方達は一体!? せめてお名前を……」


 迫りくる拍手喝さいの嵐の中、琉はロッサと共にすり抜けた。あまり目立つとメンシェ教によるマークが激しくなる。なので琉は挨拶もそこそこに、反応中のロッサをかばいつつその場を去ったのである。




「……ロッサ、もう大丈夫なのかい?」


「うん、何とか収まったみたい。しかしメンシェの人達は驚いてるだろうね」


 本来なら明日決行するはずだったハルムの解放。しかし当のハルムが暴走を始めたため、メンシェ教は思わぬ痛手を被ることとなったのである。


「全くだ。しかし皆どこまで付いてくるのやら」


 アードラーが走る水路の岸壁を、たくさんの人達が追いかける。


「サイン下さーい!!」


「おっぱいおっぱい!!」


「……何か変なの混じってない?」


 そう言いつつも笑いあう二人。あまり目立っても困るが、少なくともここでもロッサの信用は得やすくなったモノだと思われる。


「まぁこれで、あっちの勢力はガタガタだな! 俺に罪を被せようにも目撃者は多数だし、これでアイツらは潰れたも同然! あぁ愉快愉快……」


 メンシェ教に大打撃を与えることに成功し、笑いの止まらぬ琉。だが平穏な空気はいつも突然に壊されるモノであることを、この時の二人には知る由もなかった。


「それはどうだろうね?」


「えっ、ロッサ今何て言った?」


「わたし知らな……琉、前見て前!!」


何だかロッサの性格が琉に似て来てしまいました。まぁ長期間一緒にいるもんだから仕方ないですねw

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