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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第四章『シークレット・スパイダー』
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『シークレット・スパイダー』 急

放った分身蜘蛛が戻って来た。蜘蛛の暴いた会議の全容、果たしてどのようなモノなのか。

 荘厳な雰囲気の中、部屋の奥の暗がりがぼおっと照らされ、その姿が浮かび上がる。この場にいる誰よりも豪奢で、かつ派手なローブ。口元すらも覆った不気味な仮面に、巨大な数珠を思わせる首飾り。変声機を使っているのか、くぐもった低い声が部屋中に響き渡った。


『今回皆の衆に集まってもらったのは他でもない。我々の崇高な目的を確認することと、そのためにすべきことを確認するためだ。皆の衆、仮面を外したまえ」


 ローブの男達は皆フードを降ろし、仮面に両手をかけた。外した仮面を円卓に置き、教祖の方を見る。一方の教祖は仮面を外そうともしていない。


「まずはドラッケン。暴走した教徒の粛清を行ったとのことだが、どれほどの数を粛清したのだ?』


「ハッ。以前にハイドロ島にて粛清された教徒は全部で30人ほど、他に暴走した教徒は他にも200人近くいた模様。これらは全て、アルカリア沖にて合流した所を全て秘密裏に撃沈いたしました」


「しかしドラッケンよ、ハイドロでの粛清を異端者に目撃されたのでありましょう? 何故そのまま沈めて来なかったのですかな?」


 ドラッケンの発言に一人が食いついた。


「お言葉ですがカラクサ博士、あの者は暴走した教徒からとりあげた爆弾を抱えておりました。撃ってしまえばこちらも巻き添え、ヤツが爆弾を抱えて離れたタイミングにて発砲したので御座います」


「ドラッケンの言う通りですな。ヤツらの使った爆弾は濃縮アルジウムを使用した強力なモノ、そもそも島を沈めるために使おうと持ち出したモノです。故にあそこで異端者を撃つのは間違いであるとしか言えませんぞ」


 もう一人の博士が口を挟み、カラクサは黙り込んだ。


『流石はヒノムラ博士、古代兵器の権威であるな』



 カレッタ号に向かって、6つの影が走り寄る。港に船を繋ぐ縄や固定装置を伝って、蜘蛛達は甲板に飛び乗った。そして窓に張り付くと、中にいる赤い目の女がそれに気が付いた。

 女が扉を開けると、蜘蛛達は次々に中に入り込む。ロッサは手に飛び乗った蜘蛛を、そっと胸の中に仕舞い込んだ。


「うらやま……ゲフン、情報確認といこうか」


 二人は作業室の机に向かい、琉はPCを開いてロッサに訊ねようとした。


「じゃあ聞くぜ。まずは、ヒトが何人いる?」


「……琉、そんなことするよりもっと手っとり早い方法があるわ。ちょっと手を貸して」


 琉は疑問を抱きつつロッサに手を差し出した。ロッサは琉の手首を掴むと額が開き、第三の目を出現させた。その部分に琉の手をかざすと、


「目を閉じて。わたしが良いって言ったら開けてくれる?」


 そう言われ、琉はその青い目を閉じた。一瞬だけ手に違和感を生じたが、あとは特に何も起きる気配がない。何が起こるのかと内心わくわくしつつ、琉はロッサの声を待った。しばらくして、


「……よし! 琉、目を開けて」


 うっすらと目を開ける琉。そこに広がっていたのは、なんと先程行った喫茶店のあるビルの屋上だったのである!


「ロッサ、これは一体どうなっているんだい!?」


 驚きを隠せない琉に、ロッサが説明する。


「これは蜘蛛達の見た光景。それをわたしの“目”を通して琉に伝えてるの。アルヴァンの千里眼を参考にしてみたわ、以前お風呂に入ってるわたしを見る時に使ったでしょ?」


「……すみませんでした。まぁとにかく、今俺が見てるのは蜘蛛達の見た光景ってワケだね。ってことは蜘蛛の見た光景がそのまま、経験した順番に見られるってことかい?」


「そういうこと。じゃ、始めるわね……」


 蜘蛛が糸を風に流したのか、琉の視線も宙から街中を見下ろすアングルへと変わって行く。島と島の間を隔てる海、行き来する舟と人々、点在する建物。上空から眺める絶景に、琉は思わず息を飲んだ。


「すげぇ……すごいよロッサ!」


「ふふ、ありがとう。あ、そろそろ着くよ!」


 ちょっぴり得意げな声を出すロッサ。一方琉の見る光景はハロゲニア上空から、やがて背の低い謎の建物へと移行した。


「あ、フードの人達だ! どうやらここが目的地のようね」


「ふむ。しかもあの派手なローブ、恐らく上級幹部だな」


 天井から見下ろす蜘蛛の視点。途中にダクトがあり、蜘蛛のうち二匹がそこに入って行った。後を付けられてるのも知らずに、ローブの集団は扉を開ける。開けた向こうに広がっていたのは、何枚もの絵が飾られた部屋であった。


「どうやらここは画廊らしいな。にしても実にいろんな絵が飾ってあるねぇ……ん? あの絵、何かあるのか?」


 豪奢なローブを着た一人が、一つの絵に近付いて行く。そしておもむろにその額縁に手をかけたのだ。


「お買い上げ……違ーう!?」


 そのまま絵を外すかと思いきや、その場で舵を切るように絵を回し始めるという奇行に琉は驚いた。するとどうだろう、絵の横の壁がガラガラと音を立てて開き始めたのである!


「絵の後ろに地下室を隠してたのね。地下聖殿を思い出すわ……」


 壁の向こうには長い長い螺旋階段が待っていた。所々灯された蝋燭が醸し出す不気味な雰囲気を物ともせず、蜘蛛達は一向に進んで行く。螺旋階段の手すりに糸を引っ掛け、そのまま中央を降りて行った。最深部に、蝋燭によって照らされた光が見える。やがて扉はギィ、と音を立てて開いた。つかさず蜘蛛達が入り込む。


「しばらくここで聞いたってワケだな。しかし皆仮面被ってて顔が分からん……。あと幹部は全部で13人か? ……あ、ダクトから来た蜘蛛だ!」


 ダクトの吹き出し口に、2匹の蜘蛛が張り付いているのが見えた。螺旋階段から来た4匹はそれぞれ4つに別れ、丁度正方形の対角線上の位置に待機した。これで盗み聞きの準備はバッチリである。 


「さぁて、洗いざらい聞かせてもらいますよ? メンシェ教の皆さん!」



『後は我らが教祖が席に着くのみ……しかし前回の会議から半年で欠員が二人も出てしまうとはな……』


 幹部たちの雑談にも耳を貸す琉とロッサ。円卓の空席のうち、二人は欠員で一人は琉達にとっての悪の権化、メンシェ教教祖の席だったのである。


「アイツはハイドロの時の! ビショップ・ドラッケンていうのか。それにあのローブを羽織ってる階級……ビショップはいわゆる“石板”を使う連中ってワケだな。ほほうなるほど、ワインダーもゴライアスも、俺達が警察送りにしたあの二人はかなり重要な幹部だったというワケか。だったらあっちにとってはかなりの痛手だねぇ……って今“教祖”だとぉ!?」


「わたしにもはっきりと聞こえたわ。どうやらわたしをいじめる首謀者が、ここに来るみたいね……」


「ようし、じゃあ文字通り拝んでやろうじゃないの。教祖サマの素顔ってモノをさ!」


 教祖を睨みつける二人。変声機を通したくぐもった声が部屋中に響き渡る。やがて教祖以外のメンバーが仮面を外したその時だった。


「……っておいおい!? あの顔はハルム生態学の権威の殻草博士、しかも隣にいるのは兵器考古学の火之村博士じゃねぇか!? ビッグネームが二人、こんな所で何をやってやがる!!」


「え、そんなに有名な人達なの!?」


「俺でも知ってるような大人物だぜ、ただメンシェ教との関係を噂されてたんだが……事実だったとはな、後でカズに連絡しよう。それにしても教祖とやら、仮面外さないんだな……」


 琉とロッサに見られているとも知らずに、彼らは話を進め始めた。その最中でも、教祖は一向に仮面を外そうとしない。睨みつける琉だったが、その直後に教祖の口から予想もしなかった事実が告げられ始めた。


『続いてカラクサ博士に聞く。脱走したアラニギンの行方は?』


「アラニギン? 脱走だと!?」 


 琉は自らの耳を疑った。まさかヒト族至上主義で、それ以外の生物に対しては容赦のないメンシェ教が、ハルムを囲うとは信じられないからだ。


『ハ、ハッ! アラニギンの行方は未だ知れず、こちらもまだ捜索中で……』


『もう遅い。これを見よ』


 教祖が片手を挙げると、円卓の中央にあるモニターにニュースが映し出された。


『読んでみよ』


『ハッ……オルガネシア領オキソ島付近にて目撃された三大ハルムの一種“アラニギン”が、ついに御用となった。撃退したのはラング装者の彩田琉之助(25)率いる遺跡探索船カレッタ号の面々であり……!?』


 殻草博士の口が止まった。同じニュースを見ている教徒達にも焦りの表情を浮かべている。そしてこれまたニュースを読んだ琉はしたり顔を浮かべていた。


『殻草博士、これが何を意味するか分かっておろうな? お前は貴重な三大ハルムを失っただけでなく、状況を異端者に有利な方へ持って行ったという大失態を犯したのだ。この責任はどうとるつもりであるかな?』


 怯え上がる殻草博士。教徒達の怒りの視線が彼一人に突き刺さる。ガタガタと震えながら、殻草博士は口を開いた。


『さ……幸いまだあと二体残っております! この二体を今いるハロゲニアに放ち、ある程度暴れさせた上で我々が駆逐、これを異端者の仕業とすれば……』


「ハァ!? ムリムリ、どうやって俺に罪を被せる気だよ!? しかしハルムを放たれたら困るのは事実、どうにかしないとな」


 呆れかえる琉。つまりそれだけ、メンシェ教は窮地に立たされているということを彼は知ったのだった。そして同時に、恐ろしい計画を練っているという事実も。


『なるほど、考えましたね殻草博士。ではその計画、私も便乗いたしましょう。この混乱に乗じて異端者を駆逐してしまうのです。彩田琉之助……一度顔を合わせてみたい者ですからな』


「なるほど、一筋縄ではいかないってか」


「あのテンタクルとかいう人、中々クセがありそうね。どうにか出し抜けないかしら?」


 計画は全て筒抜けである。しかし筒抜けであっても止めることの難しい計画というモノもあるだろう。事実、メンシェ教徒を総動員した今回の件はかなりの難問である。


『うむ、頼んだぞビショップ・テンタクル。殻草博士、次はないと思え。良いな? 我々がもたらすのは新たな秩序。我々ヒト族の、ヒト族による、ヒト族のための秩序。ヒト族が誰もが平等に暮らせる神の国。この目的のために我々は手をとった。しかし残念なことに一部の教徒が暴徒と化し、かえって無秩序を作り出す要因となったのは誠に遺憾である』


 俯く教徒達。教祖は言葉を続けた。


『かつてヴァリアブールの脅威と戦った一族、ヒト族の持つべき権利のために戦う活動家、各分野の専門家、ラングアーマー制度による貧富の差により虐げられた者達。皆で手を取り、理想とする社会を作り上げるために戦ってきたのであろう? 全ての教徒に向けて私は言いたい。今こそ、自分らの目的を見つめ直せと! そして今こそ団結し、これまで以上に活動に力を出せ!』


「ヴァリアブールの脅威? ラングアーマー制度による貧富の差!?」


 琉は思わず声を上げた。読者の方には分かるだろう、ラングアーマーとは琉が遺跡探索に使用する特殊な潜水装置のことである。


「ラングアーマー制度? 虐げられた? ……琉、これは一体どういうことなの?」


「……後で話そう。予想はついてはいたんだが……」


 目線を落とす琉。ラングアーマー自体が、メンシェ教と関わっているという事実を知ってショックを受けたのだ。


『殻草博士はハルムの用意を。ビショップ・テンタクルは異端者の始末を。ビショップ・ドラッケンは他の教徒と協力し、ハルム討伐の準備を。決行は明後日、良いな!?』


『ハッ! メンシェの神の、名のもとに!!』


 解散するメンシェ教徒達。会議が終わったようだ。蜘蛛達は踵を返してカレッタ号へと戻る道が眼の前に広がって行く。ロッサに言われて琉は目を閉じ、再びその目を開けた時、そこには見慣れたカレッタ号の作業室が広がっていたのであった。


更新が遅くなって申し訳御座いません。一応プロットなら決まっているのですが……。では、次回予告


~次回予告~

ラングアーマー制度とメンシェ教との意外な関係。琉の心に打ち込まれたクサビは、ロッサが思っていた以上に深々と突き刺さっていた。そしてメンシェ教の恐るべき計画が、刻々とカウントダウンを始めていたのである!


次回『ハロゲニア中を駆け巡れ』

駆けろアードラー。追い詰めろ、地獄の底の果てまでも!

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