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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第一章『怪奇毒蜘蛛地獄』
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『怪奇毒蜘蛛地獄』 序

ハイドロ島を出発した琉とロッサ。次なる巡礼地やいかに。

※前作『Mystic Lady ~邂逅編~』の続きとなっております。未読の方はこちらへどうぞ→ http://ncode.syosetu.com/n2630u/1/

どこまでも広がる海の青。この世界の9割を覆うこの色を切り裂いて、白い船体が駆け抜けていく。


「この調子なら、今日の夕方には着きそうだぜ」


「ねぇ琉、今度は何処へ行くの?」


 琉と呼ばれたこの男。浅黒い肌に背が高く筋肉質な体格、それに不釣り合いな幼い顔立ちが特徴であった。青みがかった黒髪は天を突き、澄んだ海を思わせる群青の目が遠くの海域を見据えている。黄色い縁の入ったロイヤルブルーの上着に身を包み、深紅のスカーフがその首に彩りを加えていた。


「ロッサ、まずはこの間話した通りにオキソ島に行く。そしたらそこからちょっと北……ハロゲニアに向かう予定だぜ」


 琉にロッサと呼ばれた女。琉とは対象的に雪のような白い肌を持ち、赤みがかった長い黒髪とこれまた赤いドレスによって強調された胸元からは魅惑の谷間が覗いている。服の上からでも分かるむっちりと豊満な胸に細くくびれた腰、背中から尻にかけてが実に妖艶なラインを描いていた。


「ハロゲニア?」


「そう。あの国の近海には海底遺跡の一つ、エリアγがある。これで、今確認されている遺跡は全部回れることになるかな」


 ハロゲニア。フルル島、クロリア島、ブロム島、イオド島の4つの島からなる国であり、赤道からかなり北に行った所にある。


「あそこは同じくらいの大きさの島が集まって複雑に入り組んでいる。島と島が離れているオルガネシアや、一つの島だけが大きいアルカリアと違ってあそこの人達は島同士を互いに行き来して暮らしているんだ。アードラーみたいな水陸両用のサポートメカがあると便利なんだよね」


 現実世界における、ヴェネツィアの街を想像していただけると分かりやすいだろう。ハロゲニアは国中がそうなっているのである。


「あそこは旧ラディア帝国領だった上に激戦区だったらしくてね。エリアγからは中々胡散臭いモノが出て来るんだ。例えばガス室とか、壊れたエアハッカーとかな。更にはでっかいクレーターがいくつか見つかっていてね……」


「ということは、メンシェ教の武器はあの遺跡から見つかったモノが多いってこと?」


「恐らくな。確かなことは言えんが、俺もカズもそこが怪しいとは思っている。だから4つの遺跡の中ではなるべく避けてはいたんだが……ビビってばかりはいられないぜ。でもまぁ、あの国はディアマン以外の種族が一通り揃ってるからね、メンシェもあまり表には出て来れないんだそうだ」


 決意を新たに舵を切る琉。そのためにも一端オキソ島に向かい、電池や装備をそろえて船の整備をする必要があったのである。


「ねぇ琉、ハロゲニアって何か美味しいモノはある?」


 琉の話を聞いて、ロッサの興味は完全に新天地へと向いていた。


「んー、そうだな。あの島の中でもブロム島は農耕が盛んでね。あそこで出来る豆を使用した味噌はかなりの絶品だぜ。寄ったらいつも買うんだけどね、あれ旨いからすぐ使っちゃうんだよなぁ……。そして今、あの国は冬の季節に入ってると言う」


「冬?」


 ロッサは“冬”という季節を知らない。赤道直下のオルガネシアや熱砂の国アルカリアにいては“季節”というモノに疎くなるのは当然であろう。


「あの国は暑い季節と寒い季節が交互に来るんだ。そんで暑い季節を“夏”、寒い季節を“冬”というんだそうな。そしてあっちから見れば、ハイドロは“常夏の島”となるらしい」


 寒い季節の潜水作業は厳しい。深海作業を想定して作られたこの世界のウェットスーツは高い保温性を持つが、それでも冬季の深海の水温は身に突き刺さるような冷たさとなり、特に指先が動き辛くなる。南国育ちの琉にとって、これはかなりの痛手であった。


「しかし作業の後にすする味噌鍋は最高の味でな……。本当に何て言うか、“生き返った気分”が体験出来るぜ。……ってそうだ、一つ忘れてた。ロッサ、今の格好だと怪しまれるぜ」


 琉は重要なことを思い出し、ロッサに言った。


「え、怪しまれるって? わたし何処からどう見てもヒトの姿だよ?」


「違う、服装だ。その格好じゃ寒々しい、何で冬なのに肩や胸元を出してるんだということになるからな。何か別なモノを羽織った方が良いぜ。オキソに着いたらファッション誌を買って来るから、それを参考にすると良いかもしれんな。……いや、むしろアッチに着いたらコートを買った方が良いかもしれん」

 ロッサはまだ、寒い季節というのを体感していない。砂漠地帯のアルカリアでも、夜はカレッタ号の船内にいたため実感が湧かないのだ。そして彼女の服装だが、琉に渡されたケープとサッシュ以外は全て彼女自身の体から作られたモノである。つまりロッサは、ほぼ全裸で出歩いているような状態だったのだ。

 これまでロッサは暑い気候の中にいたから良いモノの、寒い冬の季節に入ったハロゲニアは流石にキツいと考えられる。とは言え冬用のコートなどオルガネシアには置いておらず、買おうと思ったらハロゲニアに着いてからでなければムリであった。


「まぁ、いざとなったら俺の上着の予備を着れば良いよ。……っておや?」


 懐から音が鳴り、振動が来る。携帯電話に着信が入ったようだ。琉は舵を片手に携帯電話を取り出した。液晶をなぞり、耳に当てた。


「ハイサイ琉!? 緊急情報だ!!」


「どうしたカズ、言ってみろ」


 電話をかけて来たのはカズであった。何があったんだろうか。


「良いか琉、落ち着いて聞けよ。……かの有名な三大絶滅ハルムが、各地で見つかったそうだ」


「三大絶滅ハルムだとぉ!? しかし何で今更出るんだ?」


「三大絶滅ハルム? ジュルリ……」


 思わず大きな声を上げる琉に、ハルムと聞いて目の色を変えるロッサ。カズの話は続く。


「声でけぇよ琉、耳が痛くなるじゃねえか! ……写真が掲示板に上がってるんだ。それだけじゃないぜ、被害も出ているらしい。幸い一匹ずつしか確認されてない上に誰も食われちゃいないようだが……」


 三大絶滅ハルム。アラニギン、バジリゼル、ガルメオンの三種類のハルムのことを指し、これらは皆三千年前の海面上昇による環境の変化に耐えきれずに絶滅したとされるハルムである。しかしただそれだけなら有名にはならない。


「今日の夕方にはニュースになるはずだ。くれぐれも気を付けてくれよ!」


 三種のハルムはどれも数多くの人類を捕食したとされる種類である。危険な能力を持ち、今よりもテクノロジーが進んでいたとされる旧文明ですら多くの被害者を出したとされているのだ。


「ねぇ、そのハルムは今何処に?」


「おいおい、今出られても困るぜ! ……ロッサ、確かに相手は旨いハルムかもしれない。しかしね、それだけのリスクを背負うことになるとだけは言っておこう。それに君にとってハルムは食べモノかもしれないが、俺にとってはむしろこっちが食べモノになってるってことも忘れないでくれ」


「……分かった」


 何処かショボくれた表情のロッサ。キツいこと言っちゃったかな、と思いつつ琉は携帯電話を仕舞おうとした。


「あ、そうだ! せっかくケータイ出したんだ、オキソに寄るんだったらアイツに連絡しておこう。確かあと一カ月で先生になるんだよな、元気にしてっかなぁ……」


 琉は液晶をつつき、再び耳に当てた。


「彩田君!? 丁度良い所に電話くれたね、大変なことになったよ!!」


「どうしたジャック、妙に慌ててるじゃねぇか」


 電話に出たのは、琉と同期のラング装者のジャックであった。オキソ島に住んでおり、実に復活編以来の登場である。


「大変なんだよ! 訓練用の海域としてさっきエリアαに下見に行ったらなんか変な蜘蛛に襲われて、それで皆バタバタと倒れて! 今港に着いたんだけど……とにかく気を付けて!」


 ジャックが事件に巻き込まれたようだ。変な蜘蛛、そのフレーズに琉は引っかかるモノがあった。


「変な蜘蛛ォ? ……まさかアラニギンか!?」


「バカなこと言わないでくれよ、アラニギンなんか今時いるワケが……」


「琉ッ、窓見て、窓!!」


遂に完結編に入りました。二人の物語は果たしてどう収束するのか、最後まで見届けてくれたら幸いです。そしてサブタイは相変わらずネタですw

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