1-2
佐里への告白が出来ずにいる公平。
ある日ようやくそのチャンスのめぐり合うが・・・
公平は彼女への告白をできずにいた。
あの日以来2人の都合が合わないらしい。
といってもほとんどは佐里のほうが
なにかと用事が入っているのだ。
公平は彼女の家がどこかは知らない。
というか、ほとんど何も知らない。
名前、年齢ぐらいのものである。
それでも一目惚れなのだからしかたない。
公平は早く告白したくてたまらない。
かといって、相対すると緊張して
あまり話せなくなるのである。
今日は火曜日で公平はバイトを終えて
とくにすることもなかったので
団地近くの川沿いを歩いていた。
するとそこには風太がいた。
「おう、風太」
「あ、公平」
風太は少年とキャッチボールしていた。
公平には誰なのかわからなかった。
「この子誰?」
「あぁ、こいつは隣の岸田さん家の
猛-タケル-だよ。
よく相手してやってんだ。
こいつんち母子家庭だからさ」
「へぇ~」
岸田猛(9)は
風太の隣の家に住んでいて
母親との2人暮らし。
母親は岸田洋子-ヨウコ-旦那さんとは
4年前に別れたらしい。
それ以来女手ひとつで猛を育ててきた。
そんな猛のキャッチボールの相手を
風太はかってでているのだ。
「たける~、今日はもう帰ってらっしゃい」
「ほら、猛呼んでるぞ」
「うん、また遊んでね」
「おう、もちろんだ」
「ばいば~い」
「ばいばい」
猛は満面の笑みで走っていった。
猛は父親の顔をうっすら覚えているらしい。
仕事人間の夫に洋子が
耐え切れなくなって別れたのだそうだ。
今父親はどこにいるのかはわからない。
公平と風太は虹のカナタに向かった。
カランカラン
「いらっしゃい。おう、風太に公平じゃない」
「俺ビール」
「じゃぁ、俺も」
2人以外に客はいなかった。
普段でもそこまで客がいるほうではないが
まだ夕方ということもあるからだろう。
「この前はほんとにありがとな、真由」
「いいよ、もう15万も返してもらったし。
別にあんなに急がなくてよかったのに」
「どうしてそんなに金早くあつまってんだよ」
「いやぁ、実は・・・」
なんと風太は以前公平が勤めていた
ホストクラブに入ったらしい。
しかも予想外に人気で
ものすごくもうかってるらしい。
「あ、そうなんだ・・・」
「残念だったね公平、風太の方が人気みたいだね」
「くそ~、俺のときなんかほとんど・・・
だから借金までして・・・」
「どんまい」
「それはおいといてさ、告白したの?」
「まだなんだよ」
「告白!?なんのこと」
風太は事情をしらなかったため、
驚いて口に含んだビールを噴き出してしまった。
事情を風太に説明した。
「俺、悪いことしたな・・・」
「別に風太は悪くないって」
「それよりどうすんのさ」
「なかなか都合合わないんだよな・・・」
「わざと拒否られてんじゃないの」
「そーかなー・・・」
真由の冗談にかなり落ち込んだ公平。
さすがの真由も冗談だよと言って慰めた。
そのとき公平の携帯にメールが入った。
「佐里さんからだ!今週の金曜日いかがですか?だって!」
「よかったじゃない」
「よっしゃ~今度こそ!」
さっきまでのテンションからは一転
今度はおおはしゃぎで
真由はあきれた顔でため息をついた。
それを見て風太はまぁ、いいじゃんと言った。
「でさ、その佐里さんてどんな人なの?」
「う~んとね」
髪はロングでとにかくきれいらしい。
いかにも金持ち育ちという感じなのにも関わらず
団地のことをいいなぁと思っているらしい。
団地をよく通りかかるらしく
団地のことを良く知っているらしい。
「なんか理沙とは真逆な感じかな」
「へぇ~、でもなんかわかるわ」
カランカラン
「呼んだ?」
ものすごいタイミングで理沙が入ってきた。
予期していない来訪に
話を聞いていた風太はまた噴き出した。
きゃーきったなーいといつものテンションで理沙が言う。
「ほんと、真逆だ」
「ん?なんか言った?」
「いや、別に。じゃあ、俺帰るわ」
「おう」
「えーもう帰っちゃうの~」
公平は帰っていった。
なんの話してたの?と理沙が聞いてきたので
風太は答えていた。
もちろん理沙とは真逆という表現は使っていない。
そんなこといったらその場にいる自分が
危ないと思ったからである。
そのあとは別の話題を続け
しばらくして風太も理沙も帰っていった。
翌、水曜日
この日公平はバイトもなく
暇だったので昼から散歩をしていた。
といっても、団地のなかである。
団地の中にはA棟からE棟まであって
各棟は5階建てで各階には10の部屋がある。
虹のカナタはC棟とD棟の間の道を
まっすぐ川のあるほうに向かうとある。
公平はA棟に住んでいる。
風太はC棟、理沙はD棟に住んでいる。
A棟とB棟の間にはやや大きめの公園がある。
公平はその公園の近くを歩いていた。
するとそこには昨日の少年猛が1人でいた。
「おい、少年どうしたんだ?」
「・・・?」
「あ、俺風太の友達」
「お兄ちゃんの友達?」
「そうそう」
猛の顔に笑みが浮かんだ。
「どうしたんだ、こんなとこで1人で」
「う~んとね、お母さんがね
ちょっとの間外にいときなさいって。」
「なんで?」
「わかんない」
「そっか・・・。遊ぶ?」
「うん」
猛はさらに笑顔になった。
2人はキャッチボールを
しばらくの間していた。
猛が疲れたようなので
休憩することにした。
しばらくすると、猛の母親が呼びに来て
猛は帰っていった。
それと入れ違いになる形で風太がやってきた。
「おう、公平」
「おう、風太。今俺猛と遊んでたんだ。」
「あ、そうなんだ。どうりでいなかったわけだ。
いやさ・・・」
風太は暇だったので猛と遊ぼうと思って
インターホン押したら
猛の母洋子が出てきて今はいないといわれたらしい。
風太はそのまま戻ろうとしたけれど
奥に見知らぬ男性が見えたというのだ。
「いったい誰だったんだろう?さっき帰っていったけど。」
「さぁ、そんなのわかんねぇ」
「まぁ、そりゃそうか」
しばらくの間2人は公園のベンチで語り合った。
そのあと風太は仕事に向かった。
公平はまた暇になってしまった。
しかたなく家に戻ろうと思ったけれど
ただ戻るのも、と思い遠回りして帰ることにした。
ちょうどD棟のところを通りかかったとき
長髪の見覚えのある女性がD棟の建物に入っていった。
「佐里さん・・・?」
そんなはずはないと思い追いかけることもなく
また歩き出した。
しかし、やはり気になってしまう。
仮に佐里だったとしてなぜ団地にいるのか。
よく通るとは言っていたけれども
建物に入っていくのはどう考えてもおかしい。
もしかして、知り合いがいるのか。
いや、やっぱり見間違いだ。
あれこれ考えていると自分の部屋に着いた。
翌日、昨日見た人のことはすっかり忘れ
公平はバイトへと出かけた。
そのころ虹のカナタでは、
カランカラン
「いらっしゃい、
おや、初めて見る顔だね。」
「あぁ、自分ここの住人ではないもんでね」
「そうなんだ。で、何する?」
「じゃあ、ビールで」
「はいよ」
店にやってきたのは若い男だった。
いかにも仕事をバリバリやってそうな雰囲気。
特になにもしゃべることもなく
ただゆっくりとビールを飲む男性。
「どうして団地に?」
「あ、いやちょっと知り合いがいてね」
「そうなんだ」
少しだけ会話をして
また、無言でビールを飲み続けた男性。
そして、ビールを飲み終えると
「実は自分バツ1でね」
「へぇ」
いきなり話をしはじめた男性
4年前に別れて子供もいたらしい。
その子供は自分のことをどう思ってるだろう
そもそも自分のことを覚えているのだろうか。
そんなことを語りだしたのだ。
真由はただ聞いていた。
「・・・といわけなんすよ」
「ここにきたのはそれと関係あるのかい?」
「あぁ、まぁ・・・そんなんだけど」
「そうかい」
それからしばらく男性はだまったままでいた。
その後男性は帰って行った。
ちょうど男性が出て行くときに
風太がやってきた。
風太は入れ違いになった男性に見覚えがあった。
「今の誰?」
「あぁ、なんか別れた奥さんに会いに来たとか言ってたよ」
「別れた奥さん!?ってことはあれが・・・」
「どうかした?」
「いや、別に」
そこからは別の話題になり
さっきの男性の話はしなかった。
風太には男性の正体がわかった。
そこにバイト帰りの公平が合流した。
さらに理沙もやってきて
あれこれ話しているうちに時間は流れた。
翌、金曜
この日は公平が佐里と会う約束をした日である。
約束は夕方で、それまではバイトである。
風太は昨日あれから仕事に向かって
かなり遅くまで働いていたようで昼まで寝ていた。
起きてしばらくするとインターホンが鳴った。
ドアを開けてみると猛がいた。
その後ろにはあの男性が立っていた。
「お兄ちゃん、僕のお父さんだよ。」
「初めまして、猛の父です。
いつもお世話になっていたみたいで。」
「いえいえ」
「今日ねお父さんと出かけるの」
「へぇ~よかったな」
それだけ言うと猛は走っていった。
猛の父は軽く会釈をして猛の後を追った。
夕方
約束の時間よりも早く待ち合わせ場所についた
公平は緊張が高まっていた。
今日こそ告白するんだという気持ちでいっぱいだった。
「公平さん」
「佐里さん!」
佐里がやってきた。
公平は緊張のあまり少しおどろいた。
このとき、あの疑念が公平の中で再び起こった。
「あの、佐里さん。実は佐里さんそっくりな女性が
団地の建物に入って行くのを見たんですが。」
「えっ」
佐里はすこし驚いた声を出した後に
「人違いですよ」
「そうですか、そうですよね」
「そうですよ、それより・・・」
佐里がお腹がすいたということなので
少し早いが食事に向かうことにした。
公平は告白のチャンスをうかがうも
なかなかそのチャンスに恵まれなかった。
食事も終わり落ち着いたところで
話を切り出そうとしたが、佐里の
少し外を歩きませんかという誘いに
阻まれてしまった。
2人は店を出て団地の近くを歩いていた。
今度こそと意を決した。
「あの、佐里さん」
「はい、なんでしょう」
「あの・・・」
「あ!」
佐里が大きな声でいうので驚き
後ろを振り返ってみると
車道の真ん中に見覚えのある少年がいた。
猛だ。向こうのほうから車がやってくるのが見えた。
「危ない!」
次回も出来次第更新します。
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