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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

愛を乞う魔法使い

掲載日:2026/05/18

「眠れる森の美女」に登場する魔法使いをモチーフにして書きました。

よろしければお読み下さい(´艸`*)

「よくも私をのけ者にしてくれたな! 王女に死の呪いを!」


 そう叫んで、十三番目の魔法使い、アルトゥールは木製の杖を振るった。杖の先からは雷のような赤い光が飛び出し、生まれたばかりの王女へと伸びる。


「お前を人殺しになんざ、させねえよ」


 そんな声が聞こえたかと思うと、青い波のような光が赤い光を巻き込んで消えた。アルトゥールは、苦虫を嚙み潰したような顔で青い光の出所を睨む。


 そこにいたのは、アルトゥールのものより古びた杖を構えた男性。ウェーブがかった短い黒髪に青い瞳が特徴的だ。


 アルトゥールは、唇を噛みながら呟いた。


「……リュディガーさん……!!」



       ◆ ◆ ◆



 ここは、魔法の存在が当たり前となったとある王国。アルトゥールは孤児だったが、孤児院にいた頃に魔術の才能を見出され、魔法使いを育てる教会で暮らしてきた。


 十七歳になると、アルトゥールは王宮に仕える魔法使いの十三番目に選ばれる。


 孤児院出身で、しかも十七歳の若さで選ばれるのは異例の事であり、アルトゥールの名はたちまち国中に広まった。彼の緩く束ねた長い銀髪やルビーのような赤い瞳も魅力的で、貴族令嬢との縁談も複数持ち上がる。


 しかし、アルトゥールの心にはいつも、ポッカリと穴が開いたような感覚があった。みな、自分を実力のある魔法使い、または見目の良い少年としか見ていない。


 アルトゥール自身を見てくれる者など、いなかった。


 しかし、そんな中でアルトゥールの心を慮ってくれる人物が一人。十二番目の魔法使いであるリュディガーだ。


 リュディガーは、魔術の実力だけなら他のどの魔法使いにも負けていない。しかし、忖度(そんたく)をするという事をしない為、貴族からは良く思われていなかった。

 そういう訳で、王宮に仕える魔法使いに選ばれるのが十二番目になってしまったという経緯がある。


 リュディガーはアルトゥールより十二歳年上だったが、王宮に選ばれた順番が近いからか、新人であるアルトゥールの面倒をよく見てくれた。

 アルトゥールの魔道具に不具合があれば、修理屋を紹介してくれる。忙しくてアルトゥールが食事を取れない時には、手づかみですぐ食べられる軽食を用意してくれた。




 ある日の昼、城の庭で魔術の訓練をしていたアルトゥールの所にリュディガーがやってきて言った。


「アルトゥール、お前、朝早くからずっと訓練してるだろ。いい加減休め」


 アルトゥールは、杖を振る手を止めずに答える。


「でも、私は新人です。魔術の腕も、先輩方には及ばない。自然災害や魔物に苦しめられている国民を助ける為にも、鍛練を続けなければならないのです」


 すると、いつの間にかアルトゥールの側に来ていたリュディガーが、彼の頭をポンと叩いて言った。


「大丈夫だ。お前は良くやっている。だから、今は休め。お前が倒れたりしないか心配だ」


 アルトゥールは、目を見開く。今まで、アルトゥールを憧れの目で見る人間や利用する人間は山ほど見てきた。でも、自分を心配してくれる人なんて、今までいただろうか。


「じゃあな、アルトゥール。ホントに無理すんなよ」


 そう言って、その場を後にするリュディガー。そんな彼の背中を、アルトゥールはいつまでも見つめていた。


 それからアルトゥールは、今まで以上に魔術の訓練に身を入れるようになった。リュディガーの側にいられるように。彼の隣に立つに相応しい魔法使いになる為に。


 いつの間にか、アルトゥールにとってリュディガーは、先輩以上の存在になっていた。




 そしてアルトゥールが二十歳になった時。国王夫妻の間に女児が生まれた。可愛らしい王女様だ。

 喜んだ国王夫妻は、王女様の誕生を祝う宴を催す事にする。宴にはトップレベルの魔法使い達を呼び、それぞれが王女に祝福の魔法をかけるという話が持ち上がった。


 その話を聞いたアルトゥールは、当然自身も宴に呼ばれるものだと思っていた。訓練を続け、魔術の腕も上がっている。王女に素晴らしい祝福を授け、リュディガーに認められたい。


 しかし、宴への招待状がアルトゥールに届けられる事は無かった。魔法使い達に与えられた離宮の自室で、アルトゥールは荒れた。


 自分以外誰もいない広い部屋で、テーブルに乗った花瓶を勢い良く床に落とす。ガチャンという大きな音が部屋に響いた。

 アルトゥールは、ハアハアと荒い息をしながら考えた。


 どうして自分は招待されない? 魔法使いの中では一番下っ端だからか? みんなして自分を馬鹿にして!


 許さない! 許さない! 許さない!


 ……そうだ、国王夫妻が愛してやまない王女。あの方の命を奪ってしまおう。そうすれば、皆は自分を恐れるはず。自分の力を認めてくれるはず!


 アルトゥールは、ギュッと拳を握り締めた。



       ◆ ◆ ◆



 そしてその数日後の夜。宴が催されている王城の広間にアルトゥールは乗り込み、王女に杖を向けるに至る。


「悪い事は言わねえ。その辺にしておけ、アルトゥール。今ならまだ死罪は免れるはずだ」


 アルトゥールの呪いを防ぎながら、リュディガーが落ち着いた声で言う。アルトゥールは、負けじと杖を振るいながら叫んだ。


「みんな、みんな私を馬鹿にして! 私は、認めてもらうんだ! 特別な魔法使いだと、認めてもらうんだ!!」


 国王夫妻、王女、その他貴族達は、既に広間から避難を始めている。王女の命を奪うなら、早くしなければならない。


 アルトゥールは、杖を持った右手を高く上げた。


「広範囲に雷を落とす気か!!」


 そう叫んだリュディガーが、即座に杖を大きく振る。しかし、アルトゥールは左手を黒いローブの内側に入れると、そこから二本目の杖を出した。そして、器用にその杖を振る。


 その杖から赤い光が飛び出したかと思うと、その光は曲がりくねりながら、王妃に抱かれた王女へと直撃した。


「キャアアっ!!」


 王妃の悲鳴が響き渡る。


「……チッ……!!」


 リュディガーは舌打ちをすると、即座に手首を返し、杖を王女へと向けた。


「呪いよ、消え失せろ!!」


 リュディガーがそう叫ぶと、彼の杖の先から青い光が飛び出て王女へと向かう。

 青い光は赤い光を取り込むが、完全に赤い光を消す事は出来なかった。二つの光は混じり合い、紫色の光となって王女の周りを取り巻く。


「邪魔を、するなあああああ!!」


 そう叫んで再び杖を振るおうとするアルトゥールだが、不意にその身体がグラリと揺れた。何が起こっているのかも分からないまま、大理石の床にドサリと倒れ込む。


 リュディガーが、コツコツと足音を響かせながらアルトゥールの方に近付き、しゃがみ込んで言った。


「……ったく、無茶しやがって。王女の呪いを緩和すると同時にお前に催眠魔法をかけたからな。ちゃんと反省しろよ」

「……やっぱり、私は、あなたには、敵わないん……です……ね……」


 気を失う直前、アルトゥールの目に映ったのは、寂しげな青い瞳で自分を見つめるリュディガーだった。



       ◆ ◆ ◆



 目を覚ますと、そこは薄暗く狭い部屋だった。アルトゥールは、固い簡易ベッドから上半身だけ起こして、辺りを見渡す。

 灰色の壁に鉄格子。家具らしきものはほとんど無い。そうか、ここは王城の側にある地下牢か。


 ……王女を殺害しようとした自分は、恐らく処刑されるだろう。その前に、もう一度リュディガーの顔を見たかった。

 いや、向こうは自分の顔など二度と見たくないだろうけれど。


 そう思った時、牢の向こう側から声がした。


「よお、アルトゥール。目が覚めたか?」


 見ると、鉄格子の向こう側にはニカッと笑うリュディガーの姿。アルトゥールは、少し戸惑いながら答える。


「……ええまあ。もうすぐ永遠の眠りにつきそうな気はしますが」


 そして、少し目を伏せてから、アルトゥールは尋ねる。


「……王女殿下は、無事ですか?」


 リュディガーは、穏やかな声で答えた。


「ああ、無事だよ。お前の呪いが完全に消えたわけじゃないけどな。俺が死の呪いを、眠りの魔法に変えたんだ。明日には、王女殿下も目覚めるだろうさ」

「そうですか……良かった」


 聞くところによると、今はあの宴から丸一日経った夜だと言う。つまり、王女殿下は約二日間眠る事になるらしい。


 牢の中で眠っていたせいか、アルトゥールの頭も少し冷えてきた。


 ……リュディガーに認められたいからと言って、何故王女殿下を手に掛けようなどと思ったのだろう。そんな事をしても、この人が自分を認めてくれるはずが無いのに。



 地下牢に静寂が訪れる。先に沈黙を破ったのは、リュディガーだった。


「……アルトゥール。どうしてあんな事をしたんだ?」


 アルトゥールは、ポタリと手に涙を落としながら答える。


「……宴に、招待されなくて……それで、私はまだ、魔法使いとして認められてないのだと思って……!! 頭に血が上ったんです……。あなたの隣に立ちたくて、あなたに認められたくて頑張って来たのに……!!」


 リュディガーは、目を伏せて言った。


「……悪かったな。お前が苦しんでいるのに気付いてやれなくて。……お前を宴に呼ばないよう陛下に進言したのは、俺なんだ」

「……え?」


 聞けばリュディガーは、相変わらずロクに休みも取らず訓練をするアルトゥールを心配していたとの事。


 もし王女の誕生祝いで祝福を授けるなんて事になったら、今まで以上にアルトゥールが無理をするかもしれない。

 だからリュディガーは国王陛下に進言して、あえてアルトゥールを招待しないようにしたらしい。


「お前の為だと思ってした事だが、逆にお前を苦しめてしまった。……本当に、済まなかった」


 リュディガーが、鉄格子の向こうから頭を下げる。それを見たアルトゥールの目からは、再び涙が零れ落ちていた。


「私の……為だったんですね……。それなのに、私は、私は……!!」


 リュディガーは、そんなアルトゥールに優しく声を掛ける。


「今、国王陛下にお前の助命を嘆願している所だ。だから……罪を償ったら、また俺と一緒に働こう。アルトゥール……愛してる」


 ボロボロと涙を零しながら、アルトゥールは答えた。


「私も……あなたの事を、愛しています。リュディガーさん、ありがとうございます、ありがとうございます……!!」



 その後、リュディガーが王国に出現する魔物を退治する事を条件にアルトゥールの減刑が認められた。

 二人がまた魔法使いとして一緒に働くようになるのは、もう少し先のお話。


リュディガーは、以前から真面目に訓練をするアルトゥールに惹かれていました。

周りの魔法使いは、天才肌で努力しない人が多かったので、アルトゥールが新鮮に見えたようです。


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