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【なんで?】勇者の俺、魔王城に突っ込んだら四天王の一人になった

作者: 雨宮 叶月
掲載日:2026/03/01

「あ、お母さん見て!勇者様だ!」

「すごいわね。強い盗賊を倒して村を守った、ですって。」

「いつか勇者様に会いたいなあ!」


 ざしゅっ、と血しぶきが頬に飛んだ。

「がはぁっ!どう、して、俺の誘いを断った……?」

「あのな、俺は生きることに興味がないんだよ。」

  盗賊は地面に崩れ落ちながら、縋るような目でこちらを見る。勇者である俺は、軽蔑した目を盗賊に向けて立ち上がった。

「お前はこの村を襲い、罪のない人を殺そうとした。だから殺される。ついでに言ってやるけどな――」

血の匂いだけが残った。

「俺が魔王城へ向かうのは、魔王に殺されるためだ。それが、救いなんだよ」

 盗賊の目が大きく見開かれた。その口が動く前に、爽やかな笑顔で再度胸に刃を突き立てる。

「良かったなあ」

 呼吸が止まったのを確認して、俺は大きく息を吐いた。

 

 幼い頃、俺は勇者として選ばれた。その頃はパーティーとして剣聖、聖女、魔法使いがいたが、剣聖と魔法使いは恋仲になり駆け落ちした。魔王城で死にたくないとでも思ったのだろう。俺は頼りないからな。

 聖女はいわゆるツンデレだった。「べ、別に手伝うのはあんたのためじゃないからね!?あんたは馬鹿だから!」と言っていて、一時は可愛いとも思っていたがなんだか対応に疲れた。しかも俺は国の偉い人たちに好かれていないから、聖女は教会へふらっと送られた。噂を聞くと、豪華な生活らしい。羨ましいな。

 ということで、俺は一人だ。勇者とは国民の光でなければならないのに、俺はそんな存在にはなれていない。頑張ることだって、もう疲れてしまった。

 だから、俺は魔王に殺されることにした。


 そして、今日から俺は魔王城に向かう。

「勇者よ、魔王を倒して、国民を守るのだ。」

「御意」

 形式的なセレモニーをして、無駄に豪華な馬車で町を通り、辺境で質素な馬車に変えられ国境付近まで送られる。

「……変だな、今日は魔物が全然いないですね」

「偶然ですよ」

 御者が首をかしげていた。だから兵などいらないと言ったのに。

 馬車から降りた。

「長い間ありがとうございました」

「いえ。勇者様こそ、頑張ってください」

 御者が遠ざかり、その姿が完全に見えなくなったそのとき。俺は前方の道ではなく、森を突っ切って走った。何をしているのかというと、魔王城までのショートカットだ。

「はぁっ、はぁっ」

 魔法で身体強化。これで疲れは感じない。

 途中で休憩を取り、走った。20時間ほどで、魔王城が視認できるようになった。空は淡い紫色に染まっており、その禍々しさとは反対に俺の気分は最高潮だった。

 門の前には誰もいなかった。真っ赤な通路を通り、扉の前に立つ。

「やっべ」

 コンコン、と無意識にノックしてしまって慌てた。適当に扉を蹴る。

 目の前は広間だった。そして頂上には、魔王が脚を組んで座っていた。

「来たか、勇者よ」

 淡々とした声。気配がそこだけ違う。そして、思ったよりも若かった。黒髪、細身、紫の目。端から見ても美しい。

「ああ。俺は勇者だ。魔王、お前を倒しに来た」

「そうか」

 魔王は立ち上がった。一歩、一歩と俺に近付く。目が離せなかった。

「では遠慮なく攻撃させてもらう。」

 魔王が詠唱しようと言葉を練りだしたところで、俺は剣を抜いて切りかかった。

「ファイアーボール」

 魔王なんだからてっきり闇魔法を使うのかと思った。

「ファイアーボール!」

 剣と比べて威力は落ちるものの、俺もすかさず追撃する。

 俺と魔王は、剣と魔法を駆使しながら暴れ回った。

 全力で攻め、隙を突かれて死ぬ。予定通り――すぐに一瞬で俺は魔王の背後に回ることができた。その首に剣先を突き付けられそうになったとき、勝った、と思った。でもまあそれでもいいや、とどうでもよくなった。

 しかし、それはただの思い上がりだった。

「え」

 魔王は目に追えない速さでしゃがみ、脚で俺の足を払った。視界が傾く。

 あー、終わったな。俺、これ死ぬわ確実に。

 悔しいようで、でも体からどっと力が抜けた。痛いかなあ。いや、でも今までの苦痛に比べたらそんなことないか。

 諦めて目を瞑ったそのとき、体がなぜかぐるんと一回転した。

「やあ、勇者。魔王城へようこそ」

 顔にふわりとかかったのは、ミルクティー色の長い髪。その次に飛び込んできたのは、八重歯があるとんでもない美少女の顔だった。

 そして気付けば、ダンスの終わりのような体勢だ。俺は美少女に腰を掴まれ、手を上にあげられている。

「私はエル。魔王だ」

「え……じゃああちらの方は」

 俺は魔王だと思っていた男のようを見やる。腕を組んで壁にもたれていた。

「ああ、あのイケメンはシクラスだ。彼も魔王だよ」

 手を離されたと思ったら、ぐいっと引き寄せられた。

「ちなみに私がトップだからね、覚えておいて」

 エルの顔が至近距離にあって、心臓がばくばくと動いた。美しすぎる。

 ちなみに背丈も年齢も俺と同じように見える。清楚、というよりミステリアスな雰囲気だ。

「おっと」

 清らかな爆風が横を突き抜けた。エルがさっと避ける。

「嘘を吐くな。トップは俺だろう」

「いや、どう考えても私じゃないか」

 言い合いを始める魔王二人の横で、俺は気まずそうに声を上げた。

「あの、なんで俺は殺されてないんですか?」

 エルがこてんと首を傾げた。

「勇者さん、貴方のことは事前に調べました!それに、貴方も分かっているでしょう?自分の行動の目的が」

 ドキッとした。まさか、バレている?俺が魔王に殺されようとしていたことが。

「ついて来い。魔王城の奴らを納得させなければならないからな」

 恐る恐るついて行った先は、先ほどよりも遥かに広い場所だった。そして、魔王の手下らしき奴らがたくさん集まっている。立食パーティーのような雰囲気だ。

「聞け。今日からこいつが仲間に加わった」

「え?」

「そいつ、勇者じゃないですか!?」

 魔王の手下と同じように、俺もブーイングに加わる。

「ちょっと、俺聞いてないですよ!それに、俺は魔王を倒しに来たんです」

「無理だなあ」

「無理だ」

「嘘ぉ」

 俺は崩れ落ちたくなる衝動をこらえた。

「いや、お前は素質も強さも十分ある。ただ、目が死んでいてかつそんなに細ければ私たちには勝てない」

 フォローできていないぞ。

 シクラスが手下のほうを向いた。

「お前ら、安心しろ。勇者はすごく頭が切れる。この地の発展に、大いに力を貸してくれるだろう」

 エルがぱちん、と指を鳴らすと同時に、画面が現れた。スライド、か?

「よって、今から断罪を行う。」

「は?」

 意味が分からなかった。

 シクラスが指を指した。

「まず、勇者は魔王に敗れるという可能性を考えていた。もし勇者がいなくなった場合、国は混乱に陥り、魔物も十分に倒されなくなる。よって、勇者は部屋にこもっているふりをして、魔界と国の国境を訪れた」

「ここで一つ補足!勇者は国に好かれていなかったから、街のパレードとかは全部影武者。その間、部屋にこもるよういわれていたの」

 調べたとは、そういうことだったのか。

 なんだか恥ずかしくて、近くの肉を頬張った。

「ああ、それゴブリンの肉だぞ」

「ゴㇹッフェ!」

 むせた。そういうことは早く言って欲しい。

 シクラスが話を進めた。

「勇者はそれから、国境付近の魔物を狩りつくしていった。魔物は7割そこから出るからな」

「ここ2,3年はそこから魔物、出ないんじゃないかと思う。私たちも助かってるよ。ありがとう、勇者さん」

「いや……」

 俺は恥ずかしくなって目をそらした。

「しかも勇者は念のため、国境に結界をつくった。悪意のあるものは通せないように。まあ、ほとんどは魔物対策だが」

「駆け落ちした過去の仲間のことも突き止めて、国民に何かあったときは助けてやってほしい、って頼んでたぞ。勇者直々に家を用意してやったりして」

 そんなことも分かっていたのか……。

「聖女にも同じように言っていた。聖女が勇者を引き止めようとしたが、気付かなかった……というより、気付かないふりをしていたっぽいな」

「面倒くさいと思うじゃありませんか」

 聖女に呼ばれて嬉しかったことなんてないしな。

「勇者はそれ以外にも、国民の悩みを解決したり、積極的に人助けをした。それなのに、国は勇者の価値に気付いていない。だから……」

 一拍、間が開いた。

「あの国より、俺たちの魔界が発展してもおかしくないよなあ!?」

「うおおおおお!」

 先ほどまでは乗り気でなかった手下たちも、なぜか今では空気が熱気を帯びている。

「と、いうことで!勇者さんには、四天王の一人になってもらう」

「待て」

 俺は心を落ち着かせた。

「なんで俺が仲間に加わるのが前提なんだ?」

「え……だって、そんなことするってことは、あの国に未練はないってことでしょう?つまり、魔王城で死ぬか、仲間に加わるか、どっちかを考えていたってことじゃない。」

「そこでなんで後者になるんですか」

「まあまあ。魔王城はホワイトだから。三食部屋つき!どう?」

「ええ……でも」

 俺に選択権はないですし、と言おうとしたところで、最も魅力的な言葉が次いだ。

「休みは周3日以上、定時は必ず守ります」

「やります」

 俺は即答した。

「ふふ、じゃあ決まり。さあ手下共、パーティーの始まりだ!」

「うおおおおお!」

 さらに盛り上がり、手下たちは各々立食を楽しんだ。

「ほら」

 シクラスが俺に、食べ物でいっぱいの皿をくれる。

「ありがとうございます……」

 とりあえず、ロールパンらしきものから口に入れる。

「美味しい……!」

 俺は目を輝かせた。

 シクラスはふっと笑う。

「これからはそれが三食食べられるぞ」

「夢ですね」

 俺は再度パンを口に運ぶ。

 俺ははっとした。

 魔王を倒しに来たはずが、なんで仲間に加わって、楽しんでるんだよ!

「あの……あの国に危害を加えたりって、するんですか?」

「しない。攻撃して勝つよりも、魔界が発展して人がたくさん集まったほうが悔しいでしょう」

 エルが悪い笑みを浮かべた。

「魔王城は本当に楽しいから。ここにずっといたい、ここで生きたいって思ってもらえるよう、私たちも頑張るから」

「はあ」

 もう、いいのかもしれない。正義とか、今までの気持ちとか、このめちゃくちゃな魔界でどうでもよくなった。

「俺も、魔界を観光スポットにできるよう頑張ります」

「期待してるぞ」

 シクラスが透明な液体が入っているグラスを傾けた。

「そのうち誰がトップかも決めなければな」

「私でしょう」

「いや、俺だ」

「やっぱりやめようかな」

 誰もが上を目指す中で、一人だけ降りたい俺。

「お前ら食べるの早すぎだろ……作るのが追いつかねえよ!」

「上手いから仕方ないだろ」

「頑張れ」

 手下たちが笑い合っている。

「そうだ、勇者。お前料理はできるか?」

「できます」

「なら、ぜひあいつらに振る舞ってやってくれないか」

 シクラスとエルにそう頼まれる。

「いいですけど……オムライスでいいですかね」

 一番の得意料理だ。

「任せた」

「私のも作ってほしい」

「分かりました」

 厨房に案内されると、俺は袖をまくった。

 包丁、フライパン、卵、米。どれも、驚くほど質がいい。

 フライパンを温め、油を引く。

 じゅっ、と心地いい音が立った。

 刻んだ具材を入れると、香ばしい匂いが一気に広がる。

 ケチャップを回し入れ、木べらで返すたびに、甘酸っぱい香りが湯気に乗った。

火を止める。次は卵だ。

 ボウルで溶いた卵を一気に流し込む。

 じゅわぁ、と柔らかな音。

 表面がとろりと半熟になった瞬間を逃さず、フライパンを揺らす。

 薄く、均一に。破らないよう、慎重に。

「できました」

「え、早くない?」

「しかも一人分じゃ……?」

 俺は答えず、皿を両手で持ったまま広間へ出た。

「腹減ってる奴は注目!」

 ほぼ全員がこちらを向いた。

「今から芸術を見せてやる」

 俺はナイフを魔法で呼び寄せ、しゃがんだ。エルに、その様子を画面で示してもらう。

 スッ、と切っ先を生地に入れた。

 そして、一直線に素早く手を引く。

「おぉ……!」

「めっちゃ上手そう!」

  中から現れたケチャップライスを、黄金色の卵が羽のように包み込む。

 湯気が立ち上り、甘い匂いが爆発した。

「さあ、食べたい奴は来い!」

 いつもの口調で喋ってしまったことに気付いたが、そんなことは気にせず手下たちが駆け寄ってくる。

 俺は複製魔法でオムライスを増やし、その場にいるほぼ全員に分けた。

「わぁ美味しそう」

「ありがとう」

 ちなみにシクラスとエルにも分けた。

「いただきます……」

 どこかで声が聞こえてくる。

「やっば!」

 数々、コメントが聞こえてくる。

「熱っ、でもうまっ!」

「卵ふわふわだぞ!?」

 あちこちから、声が弾ける。

「こんなの初めてだ……」

「毎日食いてえ……」

「ほっかほかで美味しい!」

「俺、こんなに美味いやつ食べた事ねえ!」

「隊長!」

「隊長!!」

「隊長万歳!」

「俺は隊長じゃねえ」

 ため息を吐きながらも、純粋に嬉しかった。人に頼られ、自分の作ったものを美味しいと言ってもらうことは、こんなにも満たされるのか。

「魔王様、勇者様を食堂にください!」

「それなら俺のところに!」

「私も!」

 いつしか俺の取り合いが始まっている。

「分かった。なら、勇者経営の料理店を作るか」

「やったあ!」

「隊長!!!」

「隊長~!」

「俺は隊長じゃねえ」

 魔王城に来て数時間。

 なぜか、魔界で料理店を経営することになった。

「勇者が料理店オーナーとかおかしいだろ……」

 俺はふっと笑う。

 ああ。笑えたことなんて、いつぶりだろうか。

「隊長!俺、絶対隊長の店に行きます!」

「毎日通います!」

「楽しみ~!」


「まあ、そんなに言うなら……」

 俺はおかわりを食べているシクラスとエルのもとに向かう。

「魔界って、優しい人ばっかですね」

「だろう。だいたいが人懐っこい」

 エルが笑った。

「勇者さん、貴方はここで新しい人生を始めるんだよ」

「人生……」

 自分に似合わなくて、でもずっと欲しかったもの。


「そういえば名前を聞いていなかったな。」

「ああ、名前はないです」

「えっ!?ないの!?」

「なら、私たちが考えてやる」

 シクラスとエルが、真剣な顔で考え、ひそひそと話し合う。


 やがて、笑顔になった。

「勇者、決まったぞ。貴方の名前は__」


 口が、弧を描いた。








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