わたくしに悪役を望むのであれば……全力で演って差し上げますわ♪
参加しろと命令されたとある夜会でぼへ~っと過ごしてたら、
「アイシア! お前は義妹とは言え、縁あって家族となったシュガーを虐げているそうだな! お前みたいな可愛げも、情も無いような非道な女と結婚するなど耐えられない!」
大声でいきなりわたくしへと啖呵を切ったのは、婚約者のフレムだ。その腕に、義妹のシュガーを引っ付かせている。
「優しくて愛らしいシュガーを少しは見習ったらどうなんだっ!? お前に無視されようと、一生懸命お前の心配をしてくれる、健気で可愛くて優しいシュガーをな!」
「あ、あたしは……あたしと母さんが、お姉様とお義父様との間に割って入ったことは事実ですけど、あたしは、お姉様と仲良くしたいんですっ! ダメ、ですか?」
わたくしへ言っている……風を装って、婚約者と義妹の視線はお互いに見詰め合っています。
ああ、この茶番を大勢へ見せるための夜会参加の命令だったのね、と納得しました。
まあ、あれです。よくあるお話。わたくしの母が亡くなり、父が愛人を連れて来て再婚。わたくしは、愛人とその娘に虐げられています。
父は……普通にクズでしょう。で、本日の夜会参加は父の命令です。詳しいことはなにも知らされず、義妹の引き立て役になれ、とのこと。
それが、この茶番ということなのでしょう。疲れますわね……
「ああ、シュガー。君が俺の婚約者だったら、なにを置いても大事にするのに……現実はなんて残酷なんだ。あんな、家族への情の欠片も無いような無情な冷血女が俺の婚約者だなんて……」
「そんな、フレム様……そんなことを言っては、お姉様が可哀想ですわ……」
と、更に二人の世界に没入する二人。
「あ、婚約は解消で全く構いませんし。わたくしの後釜にそこの義妹を据えたいというのでしたら、お好きにどうぞ。ですが……わたくし、そこの義妹を見習いたくなんてありませんわ」
うちは、わたくしが一人娘で後継ぎ予定。婚約者が婿入りする予定でした。けれど、父がわたくしの後継ぎ予定を撤回。わたくしの弟妹が生まれたら、その子を後継ぎにするつもりなのだとか。
つい先程、この夜会の前に告げられました。
でしたら、わたくしにはなにも残らない。後を継ぐ家も、領地も。
なんでしたら、どこぞの家……それも、あまり宜しくない噂のある家などに高値で売られることになるのでしょうね。そんなの、ごめんですわ!
ならば、もうわたくしも後腐れなく捨てられるというもの。
父が、義妹が、わたくしに悪役を望むのであれば……全力で殺って差し上げますわ♪
「なにを言うんだっ!? シュガーのこの愛らしさは、全ての女性が見習って然るべき愛らしさだぞ! それを……ハッ! さては、このシュガーの可愛らしさへ醜い嫉妬をしての憎まれ口だな!」
「ごめんなさい、お姉様……あたしが、フレム様と仲がいいから……」
「あ、それは本当にどうでもいいの」
だって、その男は高位貴族のぼんくら息子で、領地持ちの家に婿入りさせたいという家からの、うちの息子養ってくれる? という感じのゴリ押し婚約でしたし。
まあ、高位貴族子息だけあって顔はいいですけど。逆を言えば、それ以外の取り柄がありません。少なくとも、わたくしには取り柄と思えるものを彼に感じませんでした。
なので、要りません。欲しいというなら、義妹に差し上げましょう。
「でも……そこの義妹を見習うのだけは勘弁ですわね。見目のいい殿方へ擦り寄って、胸の谷間にその腕を挟み込み、上目遣いで見上げながらのおねだり。そんなの、淑女として教育されている礼儀正しい貴族子女にはとてもとても……真似できることではありませんもの」
むしろ、そんな真似をしろ、見習え、とは淑女足る女性への侮辱ではないかしら?
「さすが、娼館でも売れっ子だった娼婦の娘。きっと、小さい頃からお義母様にそういう教育を受けて育ったのでしょうね」
「なっ、なにを言ってるんだ貴様はっ!?」
「事実ですが? 更に言うと、わたくしがそこの義妹を無視している、とのことですが。では、教えてくださいませね? 夜に、寝巻き姿で父の膝に座って、上目遣いでおねだりをしている義妹の姿を目撃してしまった場合の対処法を」
「え?」
と、婚約者がぽかんとした表情で義妹を見下ろす。
「しかも、それを見せ付けられて、勝ち誇った顔をする義妹と、どういう関係を築いて行けばいいのでしょうか? 自分で言うのもなんですが、わたくしも多感なお年頃ですもの。非常に戸惑っているのですけど……フレム様なら、わかりますでしょうか? まあ、義妹とは仲が宜しいようですし?」
「もう、お姉様ったら! あたしがお義父様と仲がいいからって嫉妬して!」
ぷぅと頬を膨せる義妹を見ていた婚約者の表情が、段々と凍り付いて行きます。
「その義妹を見習え、と仰るの? 嫌ですけど。では、わたくし達の婚約は解消でいいですね。わたくし、これから忙しくなりますので失礼しますわ」
「え? あ、ちょっ、待ってくれ!」
待たずに、彼らを笑顔で祝福しましょう。
「ああ、そうですわ。言い忘れましたが、おそらく父はあなた達二人の婚約を認めることでしょう。おめでとうございます。けれど、我が家の後継は、これから生まれて来るわたくしの弟か妹にするとのことです。あなたは中継ぎになるでしょうね。そして……お二人に似た子供が生まれるといいですわね」
意訳すると……『これから義妹が産む子供がお前の子だといいな?』なのですが、ちゃんと伝わったでしょうか?
ああ、どうやら会場にいた方々には無事伝わったみたいですわ。凍り付いた皆様を見渡し、満足した気分で会場を後にした。
さぁて、我が家はこれから大変なことになるでしょうねぇ?
うふふ……父と義妹が、わたくしに義妹の引き立て役になれと仰ったんですもの。
わたくし、存分に悪役を演じて差し上げましたわ。まあ、あの二人……というか、我が家と婚約者諸共、社会的に抹殺してしまいましたけれど。
幾らぼんくらで、養ってくれる? と、押し付けられたような無能婚約者とは言え、彼は紛れもない高位貴族子息。
婚姻前から彼を蔑ろにするも同然なことを、なんなら結婚相手から婿入り先の義父の子を托卵される……という、ある意味悍ましい可能性をわたくしが示唆して差し上げましたもの。父は確実に、元婚約者の家一門を敵に回しましたわ。
でも、仕方ありませんわよね?
わたくし、悪役なのですから。全力で……まあ、自滅覚悟ですが、殺し切りましたわ♪
さぁて、これからどうしましょうか?
第一にすべきことは、我が家の貴族籍から抜けること。縁切り最優先ですわね!
それから、当面はお母様の親族を頼って、その後はさっさと他国へ渡って、教会に保護でも求めましょうかねぇ?
うふふ……あははははははははっ! 久々に最っ高の気分だわっ♪
読んでくださり、ありがとうございました。
暑くてやる気が出ない……( っ゜、。)っ
とりあえず、なんかゾッとしたいなぁと思ったら、こんなん浮かんだので書いてみた。
全力悪役オーバーキルの第二段。
前の天然姉ちゃん、『わたくし、愛する二人を引き裂く悪女なのですって。ならば、全力で務めさせて頂きますわ!』とは違って、こっちの主人公ちゃんは確信犯。
実家と父親、義妹、元婚約者を自滅覚悟でぶっ潰しました。
義姉妹が婚約者と~は、割とよう見る話。
でも、義妹がマジの義妹で、主人公ちゃんと血の繋がりは無い。婚約者も婿入り予定の他人。で、なぜか二人の婚約が認められて、結婚するとしたら普通に家の乗っ取り。でも、父親が了承してたら……よくよく考えるとこんなんもあり得るよなぁ? と。
義妹が産むのは婚約者の子か、それとも主人公ちゃんの弟か妹か……って、考えたらちょっと涼しくなるような気がした。:( ; 'ㅂ';):ヒェ…
そしてこのあと、父親は愛人と義妹と婚約者とでド修羅場を繰り広げることになる……はず!(*`艸´)
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