【第8章 真の敵との対決】
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束の間の平穏
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古代魔法覚醒の事件から一ヶ月が経ち、学園には再び平穏が戻っていた。
「創造魔法の制御、だいぶ安定してきましたね」
アルトリア先生が悠斗の訓練を見守っていた。
「ありがとうございます。でも、まだ完全ではありません」
悠斗は光の剣を創造し、それを自在に操る練習をしていた。破壊ではなく創造による戦闘技術の習得だった。
「焦る必要はありません。あなたのペースで進めれば十分です」
「はい」
しかし、悠斗の心には一抹の不安があった。ヴィクターが最後に言った言葉が気になっていた。
『また会おう、転移者よ』
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不穏な前兆
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その不安は的中した。学園近郊で再び異常事態が発生し始めたのだ。
「魔物の大量発生が報告されています」
朝の職員会議で、グレゴリー教官が深刻な表情で報告した。
「しかも、今度は知能の高い魔物が指揮を取っているようです」
「組織的な攻撃ということですか?」
学園長が眉をひそめた。
「その可能性が高いです。そして……」
教官は地図を広げた。
「包囲網が学園に向かって縮小している形跡があります」
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最後通告
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その日の夕方、学園の正門に一通の手紙が届いた。
「ヴィクターからです」
アルトリア先生が手紙を読み上げた。
『転移者ユート・アルフォードへ
君の成長は見事だった。創造魔法まで習得するとは予想以上だ。
しかし、我々の計画はまだ終わっていない。
三日後の新月の夜、最終決戦を挑む。
場所は学園北の古戦場跡。一人で来い。
仲間を連れてきても構わないが、その場合は学園全体を攻撃対象とする。
君の判断を待つ。
闇の教団幹部 ヴィクター・ナイトシェード』
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仲間たちの決意
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「一人で行くなんて、絶対にだめです!」
エリナが真っ先に反対した。
「そうです。僕たちも一緒に戦います」
リリアも決意を込めて言った。
「戦術的に考えても、単独行動は不利です」
ルーカスが冷静に分析した。
「みんな……」
悠斗は仲間たちの気持ちに胸が熱くなった。
「でも、学園が危険にさらされる」
「そのために私たちがいるのです」
セレナが図書館から駆けつけてきた。
「古代魔法の研究で、新しい発見がありました」
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古代の最終兵器
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「これを見てください」
セレナが持参した古代文献には、驚くべき記録があった。
「『七人結集の大魔法』……転移者を中心とした七人で発動する究極の創造魔法です」
「七人……」
悠斗は数を数えた。自分、エリナ、リリア、ルーカス、マーク、セレナ……六人だ。
「あと一人足りませんね」
「僕が加わろう」
振り返ると、ダミアンが立っていた。
「ダミアン……」
「俺は君を認めない。しかし、この学園を守るためなら協力する」
彼の表情は真剣だった。
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最終兵器の代償
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「しかし、この魔法には大きなリスクがあります」
アルトリア先生が警告した。
「発動には全員の魔力を限界まで消費します。失敗すれば、全員が魔力を失う可能性があります」
「それは……」
「永続的にです。二度と魔法が使えなくなるかもしれません」
一同に緊張が走った。
「でも、やるしかありません」
悠斗が決意を示した。
「この世界を守るために」
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決戦前夜
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決戦の前夜、悠斗は一人で学園の屋上にいた。
「明日は大丈夫でしょうか……」
「きっと大丈夫です」
エリナが隣に立った。
「みんながいますから」
「エリナさん……もし僕たちが魔力を失ったら」
「その時はその時です。魔法が使えなくても、私たちの絆は変わりません」
エリナの言葉に、悠斗は勇気をもらった。
「ありがとうございます」
二人は静かに夜空を見上げていた。
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古戦場での対峙
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新月の夜、古戦場跡に七人が到着した。
「よく来たな、転移者よ」
ヴィクターが現れた。しかし、今回は一人ではなかった。
「闇の教団、総力を挙げての最終決戦です」
数十人の黒いローブの魔法使いが現れた。
「卑怯な……」
「戦いに卑怯も何もない。勝者こそが正義だ」
ヴィクターが冷笑した。
「我々の目的は、この世界の魔法秩序を再構築することだ」
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真の目的
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「魔法秩序の再構築?」
「そうだ。現在の魔法社会は停滞している。古い価値観に縛られ、真の進歩を阻んでいる」
ヴィクターが語り始めた。
「我々は新しい世界を作る。強い者が支配し、弱い者が従う。それが自然の摂理だ」
「それは間違っています」
悠斗が反論した。
「力だけが全てではありません。協力し、支え合うことで、もっと素晴らしい世界を作れます」
「理想論だ」
「理想ではありません。現実です」
悠斗は仲間たちを見回した。
「僕たちが証明します」
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七人結集魔法の準備
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「みんな、準備はいいですか?」
悠斗が仲間たちに確認した。
「いつでも」
エリナが答えた。
「任せてください」
リリアも力強く頷いた。
「理論は完璧です」
ルーカスが確信を込めて言った。
「実践で証明しましょう」
セレナが古代魔法書を握り締めた。
「頑張ります」
マークが緊張しながらも決意を示した。
「……行くぞ」
ダミアンも覚悟を決めていた。
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戦闘開始
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「始めるか」
ヴィクターが合図すると、闇の教団員たちが一斉に攻撃を開始した。
「七人陣形、展開!」
悠斗の指示で、七人が円形に並んだ。中央に悠斗、その周りを六人が囲む。
「魔力共鳴、開始!」
七人の魔力が一つになり始めた。
「させるか!」
敵も必死に攻撃を仕掛けてくるが、共鳴した魔力が防壁を形成する。
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波長同調の困難
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しかし、七人での波長同調は予想以上に困難だった。
「うまく合いません」
マークが苦しそうに言った。
「ダミアンの魔力が……」
リリアも困惑していた。
ダミアンの魔力は他の六人とは性質が大きく異なっていた。
「俺が足を引っ張っているのか……」
「そうじゃありません」
悠斗がダミアンを見つめた。
「あなたの魔力は強すぎるんです。制御してください」
「制御?」
「みんなのレベルに合わせて、出力を調整するんです」
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真の協調
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「分かった」
ダミアンが魔力を抑制すると、七人の波長が合い始めた。
「これです!」
完璧な共鳴が達成された瞬間、空中に巨大な魔法陣が現れた。
「七人結集魔法『クリエイト・ハーモニー』!」
悠斗の詠唱と共に、七色の光が天に向かって伸びた。
「何だ、あの光は……」
敵も攻撃の手を止めて見上げた。
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調和の力
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光は空中で巨大な翼を形成した。それは破壊ではなく、創造と調和を象徴する美しい翼だった。
「これが……創造魔法の真髄」
翼から放たれる光は、敵の攻撃魔法を全て無効化した。それだけでなく、闇の魔法を浄化し、光に変換していく。
「ありえない……我々の魔法が効かない」
教団員たちが動揺した。
「これは攻撃魔法ではありません」
悠斗が説明した。
「調和の魔法です。争いを和解に、憎しみを理解に変える力です」
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ヴィクターの心境変化
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「調和だと……」
ヴィクターの表情が変わった。
光に包まれた彼の心に、忘れていた記憶が蘇る。
「そうだ……私も昔は、世界の平和を願っていた」
「思い出してください」
悠斗がヴィクターに歩み寄った。
「あなたも最初は、この世界を良くしたいと思っていたはずです」
「しかし、現実は厳しかった。理想だけでは何も変わらない」
「理想だけでは確かに不十分です。でも、理想を諦めてしまったら終わりです」
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過去の傷
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「私は……多くの仲間を失った」
ヴィクターが語り始めた。
「魔物の大侵攻で、故郷が滅ぼされた。力が足りなかったからだ」
「それで力を求めるようになったのですね」
「そうだ。絶対的な力があれば、大切なものを守れると思った」
悠斗は彼の痛みを理解した。
「でも、力だけでは本当に大切なものは守れません」
「では、何が必要だというのだ」
「信頼と協力です」
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真の力とは
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「今日、僕が学んだことです」
悠斗は仲間たちを振り返った。
「一人では到底不可能だったこの魔法も、みんなの力を合わせることで実現できました」
「それぞれが違う個性を持ちながら、共通の目標のために協力する」
エリナが続けた。
「それが本当の強さです」
リリアも微笑んだ。
「数値で測れる魔力より、心の絆の方がよっぽど強力です」
マークが実感をこめて言った。
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和解への道
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「君たちの言うことも、一理あるかもしれない」
ヴィクターが歩み寄った。
「しかし、私は多くの罪を犯した。許されることではない」
「罪は償えばいいんです」
悠斗が手を差し伸べた。
「一緒に、本当の意味でこの世界を良くしていきませんか?」
ヴィクターは長い間考えていた。そして……
「分かった。君たちに賭けてみよう」
彼は悠斗の手を取った。
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教団の解散
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「皆、聞け」
ヴィクターが教団員たちに向かって言った。
「闇の教団は今日をもって解散する」
「ヴィクター様……」
「私たちは間違っていた。力による支配ではなく、協調による発展を目指すべきだった」
教団員たちも困惑していたが、徐々にヴィクターの言葉を理解し始めた。
「今後は、この学園で正しい道を学び直そう」
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七人魔法の余韻
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魔法の効果が収まると、七人は疲労で膝をついた。
「魔力を使い切りました……」
マークがふらつきながら言った。
「でも、魔力は失われていません」
アルトリア先生が駆け寄ってきた。
「調和の魔法だったからでしょう。破壊ではなく創造だったため、魔力の消失は免れたようです」
「良かった……」
エリナが安堵の表情を見せた。
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新たな仲間
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「ヴィクター・ナイトシェード」
学園長が現れた。
「君の過去の罪は重い。しかし、今日の改心は評価する」
「ありがとうございます」
「条件付きで、学園での研究を許可しよう。ただし、監視つきだ」
「承知しています」
ヴィクターが頭を下げた。
「よろしくお願いします」
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真の勝利
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「これで本当に終わったんでしょうか?」
リリアが不安そうに尋ねた。
「ええ。でも、これは終わりではなく始まりです」
悠斗が微笑んだ。
「新しい時代の始まりです」
七人は互いを見つめ合い、そして笑顔になった。
長い戦いが終わり、真の平和がもたらされた。
しかし、彼らの冒険はまだまだ続いていく。
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エピローグ
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戦いから一週間後、学園には新しい研究科が設立された。
「統合魔法学科」
現代科学と古代魔法を融合させる新しい学問分野だった。
「主任研究員は、もちろんユート君です」
学園長が発表した。
「そして副主任にヴィクター君」
元敵だった二人が、今度は協力して研究に取り組むことになった。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
新たな物語が始まろうとしていた。
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第8章 了