【第4章 闇の教団の影】
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不穏な兆候
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研究発表会から一週間が経った頃、学園周辺で奇妙な事件が起き始めた。
「また森で魔物の異常行動が報告されています」
朝の全校集会で、学園長のドルイド・セージが深刻な表情で発表した。
「当面の間、学園外への外出は禁止とします。特に森林地帯には絶対に近づかないように」
生徒たちの間に不安の声が広がった。
「魔物の異常行動って?」
リリアが心配そうに尋ねた。
「普通なら人間を避ける魔物が、積極的に人を襲うようになっているらしい」
ルーカスが情報を整理して説明した。
「まるで何かに操られているみたい……」
エリナが不安そうにつぶやいた。
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セレナの調査
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その日の放課後、セレナが悠斗たちを図書館に呼び出した。
「皆さんに相談があります」
普段冷静なセレナの表情に、珍しく緊張の色が見えた。
「実は、独自に調査を進めていたのですが……」
セレナは古い地図を広げた。そこには学園周辺の詳細な地形が描かれている。
「魔物の異常行動が報告されている場所を点で結ぶと……」
彼女が線を引くと、ある図形が浮かび上がった。
「これは……魔法陣?」
悠斗が驚いた。
「そうです。しかも、かなり大規模な召喚魔法陣のようです」
「召喚魔法陣って、何を召喚するつもりなの?」
リリアが震え声で尋ねた。
「分かりません。しかし、この規模となると……」
セレナは言葉を濁した。
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古代文献の調査
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「似たような魔法陣を古代文献で見たことがあります」
悠斗は前に借りた『古代魔法工学概論』を取り出した。
「これです。『災厄召喚の大魔法陣』」
一同は息を呑んだ。
「災厄召喚……」
「古代において、強大な魔物や呪いを召喚するために使われた禁断の魔法陣です」
エリナが青ざめた。
「そんなものを現代で再現するなんて……」
「誰がそんなことを?」
マークが震え声で尋ねた。
「闇の教団」
セレナが静かに答えた。
「以前から噂はありました。禁断魔法の研究を続ける秘密結社が存在するという……」
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アルトリア先生への相談
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翌日、悠斗たちはアルトリア先生に調査結果を報告した。
「よく調べましたね」
先生は地図を見ながら深刻な表情を浮かべた。
「実は、私たち教師陣も同様の懸念を抱いていました」
「先生方もご存知だったんですか?」
「ええ。しかし、確証がなかったので生徒たちには伏せていました」
アルトリア先生は窓の外を見た。
「闇の教団……彼らは長い間、この学園を狙っていました」
「学園を? なぜですか?」
「この学園の地下には古代遺跡があります。そこに眠る古代魔法の力を狙っているのです」
悠斗は驚いた。学園の地下に古代遺跡があるとは知らなかった。
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地下遺跡の存在
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「古代遺跡について、詳しく教えてください」
悠斗の質問に、アルトリア先生は少し躊躇した。
「本来なら学生に話すべきことではありませんが……今の状況では仕方ありませんね」
先生は魔法で部屋に結界を張った。
「この学園は、古代アルカディア文明の神殿跡地に建てられています」
「神殿跡地……」
「その神殿には、強大な魔法の封印が施されています。転移者たちが残した、この世界を守るための最後の砦です」
悠斗は息を呑んだ。転移者たちが残した遺産があるのか。
「闇の教団は、その封印を解こうとしているのです」
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夜襲の予兆
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その夜、悠斗は寮の部屋で古代文献を読み返していた。
「転移者が残した封印か……」
突然、窓の外で何かが動く影を見た。
「誰だ?」
悠斗は窓に近づいた。月明かりに照らされて、黒いローブを着た人影が複数見える。
「闇の教団……」
悠斗は急いで廊下に出た。他の部屋にも知らせなければならない。
「みんな起きて! 学園が襲撃されます!」
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夜襲開始
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悠斗の警告から間もなく、学園全体に警報が響いた。
「全生徒は大ホールに避難してください!」
教師陣の声が魔法で拡声されて聞こえる。
悠斗は急いで仲間たちと合流した。
「ユート、大丈夫?」
エリナが心配そうに駆け寄ってきた。
「はい。みんなも無事ですね」
リリア、ルーカス、マークも集まってきた。
「セレナ先輩は?」
「図書館にいたはずです」
「危険です。急いで迎えに行きましょう」
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図書館での戦闘
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図書館に向かう途中、黒いローブの男たちと遭遇した。
「生徒発見。排除する」
男たちが魔法を構えた瞬間、ルーカスが風魔法で攻撃した。
「エアロカッター!」
風の刃が敵を襲うが、相手も手強い。
「こちらも応戦します!」
エリナが光魔法で援護する。
「ライトニング!」
悠斗は戦闘中も冷静に状況を分析していた。
「敵の目的は図書館の特定の本かもしれません」
「古代魔法の文献を狙っているのね」
エリナが理解した。
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セレナとの合流
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図書館でセレナを発見した時、彼女は必死に何かを隠していた。
「セレナ先輩!」
「皆さん……助かりました」
セレナの手には古い書物があった。
「これは?」
「『封印解除の秘術』です。絶対に敵の手に渡してはいけません」
その時、図書館の扉が破られた。
「本を渡せ」
現れたのは、威圧的な雰囲気を持つ男だった。
「ヴィクター・ナイトシェード……」
セレナが名前を呟いた。
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ヴィクターとの対峙
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「闇の教団の幹部と聞いていましたが、まさか直接現れるとは」
セレナが冷静に対応した。
「その本を渡せば、君たちに危害は加えない」
ヴィクターの声は冷たく、有無を言わせぬ迫力があった。
「お断りします」
悠斗が前に出た。
「転入生か。君のような小物は相手にしていない」
「小物でも、やるべきことはあります」
悠斗は改良した魔法杖を構えた。
「面白い。その程度の魔力で私に挑むとは」
ヴィクターが闇魔法を放った瞬間、悠斗は咄嗟に本棚の影に隠れた。
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連携戦術
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「皆さん、連携しましょう!」
悠斗が指示を出した。
「リリア、風で本を舞い上げて視界を遮って!」
「はい!」
リリアの風魔法で図書館中の本が舞い踊った。
「エリナさんは光で目くらましを!」
「分かりました!」
強烈な光がヴィクターを襲った。
「ルーカス、今です!」
ルーカスの風魔法がヴィクターの足元を狙った。
「小賢しい……」
しかし、ヴィクターは余裕で攻撃を防いだ。
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古代魔法の力
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「皆さん、下がって!」
セレナが前に出た。彼女の手には古い魔法書が握られている。
「まさか、その本を使うつもりか?」
ヴィクターの表情が変わった。
「古代封印魔法……『束縛の鎖』!」
セレナが詠唱すると、光の鎖がヴィクターを縛り上げた。
「ぐっ……古代魔法を使えるとは」
「今のうちに逃げましょう!」
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教師陣の到着
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図書館から脱出した時、アルトリア先生とグレゴリー教官が駆けつけてきた。
「皆さん、無事でしたか?」
「はい、セレナ先輩のおかげで」
「よくやりました。しかし、まだ終わりではありません」
グレゴリー教官が厳しい表情で言った。
「敵の本当の目的は地下遺跡です」
「地下に向かいましょう」
アルトリア先生が先導した。
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地下遺跡への道
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学園の地下には、確かに古代の遺跡があった。石造りの廊下が続き、壁には古代文字が刻まれている。
「これが古代アルカディア文明の遺跡……」
悠斗は感嘆した。
「封印の間はもう少し奥です」
アルトリア先生が案内する。
途中、魔法で動く石像や、古代の守護魔法が行く手を阻んだが、先生の力で次々と突破していく。
「先生、すごい力ですね」
「私も元々はこの遺跡の研究者でした」
先生は複雑な表情を浮かべた。
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封印の間
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遺跡の最深部にある封印の間は、巨大な魔法陣に覆われていた。
「これが転移者たちが残した封印……」
中央には大きな水晶があり、その中に何かが封じられているのが見える。
「あれは?」
「災厄の魔王です。古代において世界を滅ぼしかけた存在」
アルトリア先生の言葉に、一同は身震いした。
「それを転移者たちが封印したのですね」
「そうです。そして我々にはそれを守る義務があります」
その時、後ろから拍手の音が聞こえた。
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最後の戦い
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「見事にここまで辿り着きましたね」
振り返ると、ヴィクターが立っていた。
「どうやってここに?」
「古代魔法程度で私を止められると思いましたか?」
ヴィクターの魔力は圧倒的だった。
「さあ、封印を解く時が来ました」
「させません!」
アルトリア先生が立ちはだかったが、ヴィクターの力は想像以上だった。
「先生!」
悠斗たちが駆け寄る中、ヴィクターは封印に向かって歩いていく。
「止まれ!」
グレゴリー教官の土魔法もヴィクターには通用しない。
「もう遅い」
ヴィクターが封印に手をかけた瞬間、魔法陣が激しく光った。
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封印の一部解除
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「ぐあああああ!」
封印が部分的に解けると、災厄の魔王の咆哮が響いた。
「完全ではないが、一部の力は解放された」
ヴィクターが満足そうに笑った。
「これで第一段階は完了です」
「第一段階?」
「完全な解放にはもう少し時間が必要。しかし、これで我々の計画は大きく前進しました」
ヴィクターは闇の中に消えていった。
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危機の始まり
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「大変です……」
アルトリア先生が封印を調べながら呟いた。
「封印が弱くなっています。このままでは……」
「どうなるんですか?」
悠斗が尋ねた。
「魔王の力が少しずつ漏れ出します。それが原因で魔物の異常行動が起きているのです」
「では、封印を修復すれば……」
「簡単ではありません。転移者の特殊な魔法が必要です」
先生の視線が悠斗に向けられた。
「まさか……」
「あなたの力が必要かもしれません、ユート君」
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新たな使命
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地上に戻った一行は、夜明けの光に照らされていた。
「今夜の襲撃は退けましたが、これは始まりに過ぎません」
学園長が厳しい表情で言った。
「闇の教団は必ず再び攻撃してきます」
「僕たちにできることはありますか?」
悠斗が尋ねた。
「君たちには特別な訓練を受けてもらいます」
「特別な訓練?」
「古代魔法と、転移者の技術を組み合わせた新しい戦術です」
学園長の言葉に、悠斗の心は決まった。
「やります」
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仲間たちの決意
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「私も参加します」
エリナが真っ先に名乗り出た。
「僕たちも!」
リリア、ルーカス、マークも続いた。
「セレナ先輩も?」
「もちろんです。この学園を、そして世界を守らなければなりません」
仲間たちの決意を見て、悠斗は力強く頷いた。
「分かりました。みんなで力を合わせましょう」
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エピローグ
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その夜の事件は、悠斗たちの学園生活を大きく変えた。平和だった日常は終わり、本格的な戦いが始まろうとしていた。
しかし、悠斗は恐れていなかった。信頼できる仲間がいる。そして、自分にしかできないことがある。
「現代知識と魔法の融合……きっと新しい可能性が見つかるはず」
窓の外では、既に次の朝が始まろうとしていた。長い戦いの始まりを告げる朝だった。
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第4章 了