【第2章 学園生活の始まり】
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初登校
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「おはようございます、ユートさん」
寮の部屋を出ると、エリナが廊下で待っていてくれた。昨夜は興奮して眠れなかったが、彼女の笑顔を見ると緊張が和らいだ。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ。一緒に教室に向かいましょう」
学園の廊下を歩きながら、悠斗は改めてこの建物の壮大さに驚いた。高い天井には魔法の光が浮かび、絵画が勝手に動いている。
「あの絵、動いてますね」
「ああ、それは魔法絵画です。学園の歴史を物語っているんです」
エリナの説明を聞きながら、悠斗は現代とのあまりの違いに感嘆した。
「エリナ様、おはようございます!」
向こうからリリアが駆け寄ってきた。彼女の後ろには銀髪の美少年が続いている。
「おはよう、リリア。ルーカスも」
「おはようございます」
ルーカスと名乗った少年は、悠斗に向かって軽く会釈した。
「昨日お会いできなかったので、改めて自己紹介を。ルーカス・ウィンドソードです」
「ユートです。よろしくお願いします」
握手を交わすと、ルーカスは少し驚いたような表情を見せた。
「珍しい握手の仕方ですね。どちらの地方の作法でしょうか?」
「あ、えっと……」
悠斗は慌てた。現代日本の習慣をうっかり出してしまった。
「遠い地方の習慣で」
エリナが助け船を出してくれた。
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2年A組
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教室に入ると、すでに多くの生徒が席についていた。悠斗の登場に、皆の視線が集まる。
「皆さん、今日から新しい仲間が加わります」
アルトリア先生が悠斗を紹介した。
「ユート・アルフォードです。よろしくお願いします」
拍手と共に、あちこちでささやき声が聞こえる。
「魔力80って本当?」
「転入生なんて珍しいな」
「どこの貴族の出身だろう」
悠斗は用意された席に座った。エリナの隣、リリアの前の席だった。
「ユート君」
後ろから声をかけられて振り返ると、茶髪の少年が手を振っていた。
「僕はマーク・ブラウン。平民出身だよ。君も貴族じゃないよね?」
「はい、平民です」
「そうか! 同じだね。この学園は貴族が多いから、平民組は結束しないと」
マークの気さくな態度に、悠斗は安心した。
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魔法理論の授業
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最初の授業は魔法理論。アルトリア先生が黒板に複雑な魔法陣を描いていく。
「魔法とは、魔力を媒介として自然の法則に介入する技術です。基本的な4属性の組み合わせによって……」
悠斗は興味深く授業を聞いていたが、ふと疑問が浮かんだ。
「先生、質問があります」
「はい、ユート君」
「この魔法陣の効率なんですが、もしここの回路をもう少し短縮すれば、魔力の損失を減らせるのではないでしょうか?」
悠斗は電子回路の知識を応用して指摘した。教室がざわめく。
「興味深い視点ですね。しかし、この魔法陣は何百年もの研究で完成されたものです」
「でも、理論的には……」
悠斗が説明を始めようとした時、教室の後ろから冷笑が聞こえた。
「平民風情が何を偉そうに」
振り返ると、赤髪の男子生徒が腕を組んで見下すような目をしていた。
「ダミアン・フォン・クリムゾンだ。覚えておけ、転入生」
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昼食時間
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「あいつがダミアンです」
食堂でリリアが教えてくれた。
「公爵家の長男で、学園でも有数の魔力の持ち主。でも性格が……」
「傲慢で残酷なのです」
エリナが暗い表情で続けた。
「私に求愛してくるのですが、断り続けているので……」
「だから新入生のユートに当たり散らしているのか」
ルーカスが冷静に分析した。
「気をつけた方がいいよ」
マークが心配そうに言った。
「ダミアンは決闘を仕掛けてくることがある。断れば臆病者扱いされるし……」
その時、食堂の扉が勢いよく開かれた。ダミアンが取り巻きを連れて入ってくる。
「おい、転入生」
ダミアンが悠斗のテーブルに近づいてきた。食堂が静まり返る。
「午後の実戦魔法の授業で勝負しろ。逃げるなよ?」
悠斗は立ち上がった。
「分かりました」
「ユート!」
エリナが心配そうに声をかけたが、悠斗は微笑んだ。
「大丈夫です。やってみます」
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実戦魔法の授業
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午後、広い訓練場にクラス全員が集まった。グレゴリー・アイアンフィスト教官が厳しい表情で立っている。
「今日は実戦形式の模擬戦闘を行う。まずはダミアン・クリムゾンとユート・アルフォード」
生徒たちがざわめく中、二人は訓練場の中央に向かい合った。
「魔力80の雑魚が、俺に勝てると思うな」
ダミアンの手に炎が宿る。魔力850の圧倒的な力だった。
「始め!」
グレゴリー教官の号令と共に、ダミアンが炎の弾を放った。悠斗は咄嗟に横に跳ぶ。
「逃げ回るだけか!」
ダミアンが連続で攻撃を仕掛けてくる。悠斗は必死に回避を続けた。
「やはり力の差は歴然だな」
観客席から声が聞こえる。しかし、悠斗は冷静に状況を分析していた。
「パターンが見えてきた……」
ダミアンの攻撃には一定のリズムがある。そして、連続攻撃の後には必ず一瞬の隙ができる。
「今だ!」
悠斗は懐から小さな鏡を取り出し、太陽光をダミアンの目に反射させた。
「うっ!」
ダミアンが目を眩ませた瞬間、悠斗は地面の砂をすくい上げて投げつけた。
「卑怯な!」
「卑怯じゃありません。戦術です」
悠斗はダミアンの足元に向かって低い位置から突進した。上段への攻撃を警戒していたダミアンは反応が遅れる。
「しまった!」
悠斗はダミアンの足を払い、バランスを崩したところを押し倒した。
「勝負あり! ユート・アルフォードの勝利!」
グレゴリー教官の宣言に、訓練場が静まり返った。
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勝利の後
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「やったー! ユート君の勝ち!」
リリアが跳び上がって喜んだ。他の生徒たちも驚きの表情を見せている。
「魔力で劣っていても、戦術と観察力で勝利を掴んだ。素晴らしい」
グレゴリー教官が悠斗を評価した。
「ただし、これは模擬戦闘だからこそ通用した戦術だ。魔法での直接対決になれば、魔力差は絶対的な差となる。実戦ではもっと危険が伴うことを忘れるな」
「はい、承知しています」
悠斗は教官に敬礼した。
「貴様……」
地面に倒れたダミアンが憎悪の目で悠斗を見上げた。
「覚えていろ」
立ち去るダミアンを見送りながら、ルーカスが悠斗に近づいた。
「見事でした。あの戦術、どこで学んだのですか?」
「えっと……本で読んだことがあって」
「どの戦術書でしょうか? 興味があります」
ルーカスの鋭い質問に、悠斗は冷や汗をかいた。現代の格闘技の知識だとは言えない。
「古い本だったので、題名は忘れてしまって……」
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放課後
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授業が終わり、悠斗は図書館に向かった。この世界の常識を学ぶ必要がある。
図書館は荘厳な造りで、無数の本が魔法で宙に浮いていた。
「お疲れ様でした」
振り返ると、セレナ・ブラックソーンが立っていた。黒髪に紫の瞳を持つ美しい上級生だ。
「図書委員長のセレナです。本をお探しですか?」
「基礎的な魔法理論の本を」
「こちらにあります」
セレナに案内されて、悠斗は基礎魔法学の棚に向かった。
「今日の決闘、見させていただきました。とても興味深い戦術でした」
「ありがとうございます」
「あなたのような発想は、この学園では珍しい。もしよろしければ、古代魔法の文献なども紹介できます」
セレナの提案に、悠斗の目が輝いた。
「ぜひ、お願いします」
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夕食と友情
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夕食の時間、悠斗のテーブルには多くの生徒が集まっていた。
「すごかったよ、ユート!」
マークが興奮して語りかける。
「ダミアンを倒すなんて、誰も予想してなかった」
「本当にすごかったです!」
リリアも目を輝かせている。
「でも、これでダミアンから狙われることになるかもしれません」
エリナが心配そうに言った。
「大丈夫です。一人じゃありませんから」
悠斗は仲間たちを見回した。
「そうだ、僕たちがついてる」
マークが力強く言った。
「平民組、結束です!」
「私も協力します」
エリナが微笑んだ。
「僕も」
ルーカスも頷いた。
「ありがとうございます、皆さん」
悠斗は温かい気持ちに満たされた。この世界に来て良かった、と心から思えた瞬間だった。
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夜の反省
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寮の部屋に戻った悠斗は、一日を振り返っていた。
「今日は何とかなったけど、これからもっと困難な場面があるだろうな」
窓の外を見ると、二つの月が静かに輝いている。
「でも、一人じゃない。仲間がいる」
悠斗は机に向かい、今日学んだことをノートに整理し始めた。魔法理論、この世界の常識、そして仲間たちの特徴。
「明日からも頑張ろう」
新しい生活への決意を新たに、悠斗は眠りについた。
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第2章 了