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【第1章 異世界転移】

挿絵(By みてみん)

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プロローグ

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「うわああああああ!」


田中悠斗は叫び声と共に意識を失った。


最後に覚えているのは、深夜までゲームをしていて、そのまま机に突っ伏して寝てしまったことだった。そして気がつくと、空中を落下していたのだ。


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「……痛い」


悠斗がゆっくりと目を開けると、そこは見覚えのない森の中だった。頭上には青い空が広がり、鳥のさえずりが聞こえてくる。


「ここは……どこだ?」


立ち上がろうとして、悠斗は自分の体に違和感を覚えた。服装が変わっている。いつもの学校の制服ではなく、中世ヨーロッパ風の服を着ていた。


「何だこれ……まさか、転移?」


悠斗はゲーム好きだったため、異世界転移という概念にはなじみがあった。しかし、まさか自分の身に起こるとは思ってもみなかった。


森の奥から、何かの唸り声が聞こえてきた。悠斗は反射的に身を隠す。茂みの向こうから現れたのは、見たことのない巨大な狼のような生物だった。


「魔物……?」


狼は悠斗の匂いを嗅ぎつけたのか、こちらに向かって歩いてくる。逃げようにも、足がすくんで動かない。


「やばい、やばい、やばい……」


狼が飛び掛かろうと身構えたその時、空から光の矢が降り注いだ。狼は光に貫かれ、塵となって消え去った。


「大丈夫ですか?」


振り返ると、金髪の美しい少女が杖を持って立っていた。青い瞳が心配そうに悠斗を見つめている。


「あ、はい……ありがとうございました」


「こんな森の奥で何をしているのですか? とても危険ですよ」


少女は悠斗を見回しながら言った。


「実は……道に迷ってしまって」


嘘ではない。悠斗は確かに道に迷っていた。ただし、異世界でだが。


「そうでしたか。私はエリナです。エリナ・フォン・エルドリア。あなたは?」


「田中……いえ、ユートです」


とっさに偽名を名乗った。本名を言うのは危険かもしれないと直感したのだ。


「ユートさんですね。お怪我はありませんか?」


エリナは優しく声をかけてくれた。その瞬間、悠斗の心臓が大きく跳ねた。


「はい、大丈夫です」


「それは良かった。ところで、ユートさんは魔法が使えますか?」


「魔法……ですか?」


「ええ。さっき魔物に襲われた時、微かに魔力を感じたのですが」


悠斗は困惑した。魔力など感じたことがない。


「よく分からないです……」


「そうですか。でしたら、一度魔力を測定してみませんか? 近くにアルカディア魔法学園があるので、そちらで」


「魔法学園……」


悠斗の目が輝いた。ゲームの世界でよく出てくる設定だ。


「もしよろしければ、案内いたします。身寄りがないようでしたら、学園で保護してもらえるかもしれません」


エリナの提案に、悠斗は迷わず頷いた。


「お願いします」


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魔法学園への道

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森を抜けると、美しい街並みが見えてきた。石畳の道に、中世風の建物が立ち並んでいる。しかし、よく見ると魔法らしき光や、空飛ぶ箒に乗った人影も見える。


「すごい……」


悠斗は感嘆の声を上げた。


「初めて王都エリュシオンを見るのですね。確かに、地方から出てきた人はよく驚かれます」


エリナは微笑みながら説明してくれた。


街を歩いていると、人々が振り返った。エリナの美貌もあるが、悠斗の服装も注目を集めているようだった。


「エリナ様、お疲れ様でした」


向こうから、緑の髪をした小柄な少女が駆け寄ってきた。


「リリア、お疲れ様。魔物の討伐は終わりましたか?」


「はい! 無事に森の魔物を退治できました。あの……その方は?」


リリアと呼ばれた少女は、悠斗を見て首をかしげた。


「森で魔物に襲われているところを助けました。ユートさんです」


「はじめまして、リリア・シルフィードです」


リリアは元気よく挨拶した。


「ユートです。よろしくお願いします」


「ユートさんは学園に入学希望なのですか?」


「それはまだ……」


悠斗が答えに困していると、エリナが助け船を出してくれた。


「まずは魔力測定からですね。アルトリア先生にお願いしてみましょう」


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アルカディア魔法学園

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学園の正門は壮大で、まさに魔法学校という雰囲気だった。大きな門扉には魔法陣が刻まれ、光っている。


「すごい……」


「アルカディア魔法学園は、大陸でも最高峰の魔法教育機関なんです」


エリナが誇らしげに説明した。


学園内部は更に圧巻だった。高い天井、美しいステンドグラス、そして至る所で魔法の光が踊っている。


「エリナ、リリア、おかえりなさい」


向こうから青い髪の美しい女性が歩いてきた。見た目は20代後半だが、雰囲気に神秘性がある。


「アルトリア先生、お疲れ様です」


「この方は?」


アルトリア先生は悠斗を見て、少し目を細めた。


「森で魔物に襲われているところを助けました。魔力測定をお願いしたいのですが」


「そうですか……」


アルトリア先生は悠斗をじっと見つめた。その視線に、悠斗は何か見透かされているような感覚を覚えた。


「分かりました。こちらへどうぞ」


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魔力測定

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魔力測定室には、水晶でできた大きな球体が置かれていた。


「この測定器に手を置いてください。魔力値が数値で表示されます」


アルトリア先生の指示に従い、悠斗は恐る恐る手を水晶球に置いた。


水晶球がぼんやりと光り、数値が表示された。しかし、数値が不安定に揺れている。


「80……いえ、85? 78?」


アルトリア先生が困惑した表情で数値を見つめた。


「測定器が不安定ですね。もう一度試してみてください」


再び測定すると、今度は別の数値が表示された。


「今度は82……でも先ほどとは微妙に違います」


悠斗は不安になった。


「僕の魔力に問題があるのでしょうか?」


「いえ、問題というより……興味深いですね」


アルトリア先生は悠斗を見つめながら続けた。


「通常とは異なる魔力の性質を持っているようです。数値は平均的ですが、その本質は……もしかすると、従来の測定方法では正確に測れない種類の魔力かもしれません」


「でも、僕は魔法なんて使えません」


「それは当然です。この世界の魔法理論を学んでいないのですから。ただ……」


アルトリア先生の目が光った。


「あなたからは、とても興味深い『何か』を感じます。この不安定な測定結果も、その証拠かもしれません。もしかすると、既存の魔法理論とは異なる視点をお持ちかもしれませんね」


「学園長にお会いいただく必要がありそうですね」


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学園長との面談

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学園長室は、まさに魔法使いの書斎といった趣だった。古い書物が並び、不思議な器具や標本が所狭しと置かれている。


奥の椅子に座っていたのは、白いひげを蓄えた初老の男性だった。


「初めまして、ユート君。私はこの学園の学園長、ドルイド・セージです」


学園長の眼光は鋭く、悠斗を見透かすような力強さがあった。


「よろしくお願いします」


「アルトリアから話は聞いています。魔力値は80と平均的でしたが、彼女は君に『異なる視点』を感じると言っていました。そして記憶があいまい……」


学園長は悠斗を見つめながら続けた。


「君は、もしかして転移者ではありませんか?」


悠斗は息を呑んだ。図星だった。


「転移者……ですか?」


「稀に、異世界から人が転移してくることがあります。彼らの多くは、必ずしも強大な魔力を持っているわけではありません。しかし、この世界にはない知識や発想を持っていることが多い」


学園長は立ち上がり、窓の外を見ながら話した。


「転移者の中には、魔力は低くても、独創的なアイデアで既存の魔法理論を覆す者もいます。魔法具の改良、新しい魔法陣の設計、戦術の革新……」


「僕が転移者だとして……どうなるんですか?」


「まず、この世界で生きていくための知識と技術を身につける必要があります。幸い、君はまだ若い。学園で学ぶことができるでしょう」


学園長は振り返って微笑んだ。


「アルカディア魔法学園への入学を許可します。特待生として、学費は免除です」


「本当ですか?」


悠斗は信じられなかった。


「ただし、条件があります」


学園長の表情が厳しくなった。


「君の持つ『異なる視点』は、時として既存の秩序を揺るがす可能性があります。その力を正しい方向に導くため、必ず真面目に学び、この世界の常識も理解することを約束してください」


「はい、約束します」


悠斗は力強く頷いた。


「それでは、明日から2年生として編入していただきます。エリナ君と同じクラスですね」


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新たな始まり

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その夜、悠斗は学園の寮に泊まることになった。一人部屋を与えられ、ベッドに横になりながら一日の出来事を振り返った。


「異世界転移、魔法学園、そして新たな可能性……」


まるで夢のような話だが、現実だった。


窓の外を見ると、二つの月が夜空に浮かんでいる。間違いなく、ここは地球ではない。


「これからどうなるんだろう……」


不安もあったが、同時にワクワクした気持ちもあった。子どもの頃から憧れていた魔法の世界で生活できるのだ。


そんな時、部屋の扉がノックされた。


「ユートさん、大丈夫ですか?」


エリナの声だった。扉を開けると、彼女が心配そうな表情で立っていた。


「はい、大丈夫です」


「本当に? 今日は色々なことがありすぎて、驚いているのではないかと思って」


エリナの優しさに、悠斗の胸が温かくなった。


「ありがとうございます。確かに驚きましたが……楽しみでもあります」


「そうですか。それなら良かったです」


エリナは安心したように微笑んだ。


「明日からよろしくお願いします。同じクラスになりますね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


エリナが去った後、悠斗は再びベッドに横になった。


「頑張ろう」


新しい世界での生活が、明日から始まる。悠斗は決意を新たに、静かに目を閉じた。


二つの月が、彼の新たな門出を優しく照らしていた。


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第1章 了

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