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神祇の彼方 -B.T.D.-  作者: VBDOG
■第一章:この身に三つの色を
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第十話 その2

能力説明 青編です。

 昼下がり、祠からの帰り道。

 皐月は、依月に向けて新たな力についてのレクチャーを始めた。


「依月、おまえが手に入れた新しい力『青の闢則』についてだけど、どんな力か、なんとなくでもわかる?」


 以前赤を手に入れた際はどういう力なのか、またどう使えば良いのかをぼんやりと概要だけ把握していた依月。今回も同様なのかを皐月はまず知りたかったらしい。

 しかし……。


「んーん、ぜんっぜんわかんない」

「光の出しかたくらい?」

「そだねー。てか使ってみて分かったけどさ、赤と青を一緒に使うのって、できないんだね」

「ああ……そうね。別の色を跨いで術の多重展開は無理」


 指先に灯した光を、赤と青に何度も入れ替えながら、依月はむんむん唸る。

 感覚的には出来そうな感じがするのに、どうしても出来ないもどかしさがある。例えるなら、右を見ながら左も見ようとする感じだろうか。

 しばらく試して諦めた依月は、息を吐きながら皐月に聞いた。


「で、これってどういう力なの? なんか、ぐちゃっとしててぜんぜん意味わかんないんだけど」


 自身の心奥に思考を向けて、青く渦巻く新たな力を感じとる。先ほどまでいた祠の試練のように、色んなものがごちゃごちゃと散らかって、やけに混沌としている印象がある。

 依月は、なんとなく床にばら撒かれたジグソーパズルを連想した。


「どこから話したものかな……その感想はある意味で青を端的に言い表してる」

「どういうこと?」

「赤や緑と違って、青は色んな力が寄り集まって作られた"集合体"の能力なの。雑多に色んなことが出来るぶん、力が混ざりすぎて術者のコントロールなしでは殆ど力を発揮できない……有り体に言えば、パソコンのプログラムみたいな感じかな」

「ぷろぐらむ?」


 そんな単語を授業で聞いたような、ないような。学校以外で触る機会のないパソコンを思い浮かべつつ、依月は疑問符を頭に浮かべる。


「厳密には違うと思うけど、パソコンには動かすための"言語"というものがあって、その文法に則ってどう動かすかを決める"プログラム"というものがある。青はまさにそんな感じ。巫参色には、青に対応した言霊が大量に用意されてて、それを好きなように組み合わせて多彩な術を生み出せる……それが『青の闢則』のおおまかな概要ね」

「んー? ……ごめんぜんぜんわかんない」 


 刻まれた力の記憶と皐月の説明を照らし合わせながら、依月は眉根を寄せて理解に努めるが、しかし即座に音を上げた。


 パソコンの授業は、基本寝ているか友達と話してるかのどちらかの思い出しかない。先生もやる気ないし。


「はぁ……じゃあもう少し噛み砕くかな。たとえば、青には『()』という言霊がある」

「えーっと、燃えてる火であってる?」

「あってる。『火』という言霊には、火を生み出す、或いはなにかを燃やす、という意味がある。そして、『(はなつ)』という言葉通りの意味の言霊がある。ものっっすごく省略するけど、この二つを適切な組み合わせかたをすると……」


 皐月は近くに落ちていた木の枝を拾って、片手に持つ。

 そして、もう片方でその枝に指を差した。


「闢則。祓火(はらび)


 指から青い炎が飛び、枝の先に燃え移る。

 炎はあっという間に枝を消し炭にして、皐月の手からほろほろと落ちていった。

 手を叩いて払いながら皐月は続ける。


「……こんな感じで、"炎を放つ"という術が完成するわけね」

「ほえー。さつ姉前もたたり神燃やしてたよね。それ使ってるの?」

「もっと高度な術かな。あれは祟り神しか燃えないように対象指定してる」

「そんなんもできるんだ」


 ふと自分に勝手に入ってきた知識のなかに、『祓火』という単語を見つける依月。

 だが、その中身を詳しく見ようとすると、"放"、"火"以外にもかなりの数の言葉で作られたものだとわかり、ちんぷんかんぷんだ。


「他にも、光を物質化して自在に操ったりとか、人の意思に干渉して移動させたりとか、言霊の組み合わせ……発想次第で本当に色々できるの」

「う、うーん。なんとなくは分かったし、すごそうなんだけど……」


 決まった型がない自由度の高さ、そしてそれに追従して必要な大量の知識。柔軟な発想力。


 これ、自分には向いてないのでは?


 あんなに苦労した先で得た力なのに、そう思えてならない依月だった。


 赤は四つの使い方を覚えればいいだけだった。でもこれは、ちゃんとした理解がいる。それが出来なければ、どうしようもない能力のようだ。


 ふと、依月は祠の世界で出会った幼い自分を思い出す。

 あの子は、四つの闢則を覚えていた。

 あれはなんと言ったか。依月は記憶を辿ってみる。


 ——あわふぶき、まといくさりかせ、おとしぼし、はしらまねき。


 頭の奥で、幼い声が響いたような気がした。

 思い出せてすっきりしたと、ひとり晴れた顔をして、力の記憶を検索する。

 そして、それらの闢則についての知識を発見した。


「あれ……?」


 3つは見つかったが、そのうち"はしらまねき"とやらだけ、どれだけ探しても見つからない。

 見つからないものは仕方ないので、適当にどれかひとつをよく見てみることにする。

 ……試すなら「泡」や「岩」よりは「紐」だろうか?


「あ、ふしぎ。なんかちょっと分かる」

「ん?」


 目を瞑って術を読み解く。他の術は見ても意味不明だったのに、まるで高校の英語の教科書のように、ある程度雰囲気で理解できる。

 皐月が急に静かになった依月を怪訝そうに見つめる中、依月は右掌を上に向けて、静かに唱えた。


「闢則。纏鎖枷」


 右手から細く頼りない、青い光でできた紐がひょろひょろと伸びていく。ところどころがほつれて、今にも千切れそうな粗末な紐だ。


 それでも、初めてちゃんと発動する依月の闢則だった。


「驚いた。纏鎖枷なんて使えるの?」


 皐月が珍しくも、目を見開いて驚く。

 依月は、紐をくるくる操作しながら、首を傾げて頷いた。


「うん、あと2個くらい、なんか使えそう」

「……へぇ、なんか聞いてた話と違うけど、御爺様?」


 皐月は前を歩いていた秦月に話しかける。依月の青の気配に目だけずっと向けていた秦月は、皐月のほうを向くと懐かしそうに言った。


「封印前、依月は僅かばかりの闢則を扱っておった。纏鎖枷はその一つじゃな……」

「小さなわたしが使ってたからいけるかなって。あといけそうなのは『泡風吹』ってやつと、『墜星』ってやつ」

「また微妙なラインナップね……」


 皐月は半眼になる。幼い自分に教えられたとき依月もそう思ったが、その感覚は間違いでなかったようだ。


「その今にも千切れそうな紐のクオリティを見るに、術への理解とか力の入れかたとか全然ダメそうね」

「やっぱそうなの? えい。……あ、ちぎれた」


 非力な少女の両手で引っ張るだけで、呆気なく切れて消えていく青い紐。これでは、何かの役には立たなさそうだ。


「本当なら、名前の通り鎖にして使うのが一番強いけど——闢則。纏鎖枷」


 皐月がお手本とばかりに唱えると、がっしりと頑丈そうな光の鎖が生まれ、そのまま近くの大岩に絡みついた。鎖はひとりでに岩を持ち上げて、いとも容易く遠くへ投げ飛ばした。

 ……力強さも頑丈さも、依月のそれとは雲泥の差だ。


「え、鎖にするのってどうやるの? 小さなわたしも紐でしか使ってなかったんだけど」

「知識」

「うへぇ……。じゃあ、これからはずっと青の勉強をする感じなの? やだなぁ」


 ものすごく嫌そうな顔を隠しもせず、皐月に言う。

 怒られるか呆れられるかするかと思っていたが、しかし皐月は、予想済みとばかりに肩をすくめるだけだった。


「いや。御爺様曰く、依月は青に向いてないらしい。なので、修行はしない」

「え? いいの?」

「使いこなすより、巫参色全部を取り戻すのがとりあえず大事なんだって。まぁ、力の出力調整は赤で練習したから、最低限は抑えてるんじゃない?」



 皐月の言葉に、依月は虚実の間の怒れる自分から言われたことをふと思い出した。



 そうだ、聞かなければ。大事なことを。



「ねえ、なんで取り戻さなきゃいけないの?」

ぎっちり書き込まれた知らないゲームのwikiを読み込んでいる気分…依月が青の力について感じとっている時、その感覚が近いでしょうね。目が滑るし、欠伸が出る。

なお皐月の説明は依月向けのやつなので、大事なことすらもかなり端折ってます。



●青の闢則について

天照や[-公開不可-]に比べ、[-公開不可-]由来の力が寄り集まって出来た権能です。これには赤緑のような明確な方向性・基盤がありません。

代わりに、凄まじい自由度を誇ります。術者の想像力次第で色々なことが出来ます。

まるでノードプログラミングのように、用意された各種言霊を組み合わせて多種多様な能力を発動します。[-公開不可-]によりこれが増えることがあります。

赤や緑に比べて汎用性が高い反面、術者の知識・センス依存度があまりにも高く、なんとなくで扱えるものではありません。

つまり理論派に向いた能力である一方、感覚派の術者には非常に扱いが難しい代物です。皐月はバリバリの理論派で、歴代最高峰の青の使い手です。


言霊は大別して3種、「元素式」「変化式」「発動式」に分けられます。

・元素式 …基本的な物理、自然要素を示す(火、水、土、金、風、光、命、測、躁)

・変化式 …元素にどう付帯効果を付けるかを示す(例:操る、歪める、曲げる、見る等)

元素を変化式として使うことも可(例:燃やす、濡らす、固める、光らせる等)

・発動式 …どう出力するかを示す(例:付加する、拡散する、収束する、連鎖する等)


術を組んだ際、言霊の組み合わせを馬鹿正直に唱えると長くなるので、任意の言葉をショートカットとして登録することが出来ます。

まあ言葉ならなんでもいいわけではなく、その術に対しての相性の良し悪しはあります。そして現実に実在する言葉もNGです。それらは既に意味を持っているので。

ショートカットされた術は「闢則」と呼び、発動の際は頭にそれを唱えることでトリガーとなります。

登録された「闢則」は巫の力の記憶に刻まれており、今では百を軽く超える術が存在します。限定的またはマニアックなものも多く、実戦で使うものはごく少数です。

尤も、記憶にはあるものの、その術の中身への理解/知識がなければ使用することはできません。

要するに、「闢則。◯◯.bat」というバッチファイルを叩くようなものと思ってもらえれば。

バッチの中身は大量の言霊群で構成されており、バッチを実行するのは自分の肉体なので、ゆえに中身への理解が必要、という感じです。


以下登場した能力の説明です。説明内の〈〉は使われた元素式です。

斎庭常世祓(ゆにわとこよばらい)…任意の空間に斎庭を開く。指定した生物を斎庭へ立ち入らせない。殆ど人払いとして使用。この場合の「斎庭」とは巫の業務執行空間を指す。〈土・命・躁・測〉

餐土御祓火(あえどみはらび)…祟り神を燃やす。そして祟り神しか燃えない。最も古い闢則とされる。〈火〉

纏鎖枷(まといくさりかせ)…光を曲げ固め、連鎖することで鎖をつくり、自在に操る。鎖でなく縄、蔓等にすることも可能(強度と消費値が変わる)。〈光・躁〉

帰灯魂切(かえりびたまぎり)…武器が意識のみにダメージを与えるようにする。ダメージを与えられた対象は一定以上食らうと意識を失う。〈光・命・金〉

巫蔵開(みくらびらき)…上凪家の武器庫を開く。血脈登録により宗家の巫しか開けない。〈躁・命・風〉

天環(あまたまき)…任意の空間座標を固定する。固定した空間は内部への影響なく他の闢則で動かすことが出来る。皐月考案。〈環境により変動。空中のみなら風・測〉

神籬久遠結(ひもろぎくおんゆい)…式紙を貼った物体のその時の形状を記憶し、回帰させる。どれだけ壊れても、術を発動すれば戻る。式紙を剥がすと効果は消失する。皐月考案。〈測・躁〉

籠鏡結(こもりかがみむすび)…光の鏡を呼び出し、光線、熱線などを反射する。緑が苦手な皐月が代用しようとして開発。「遮断」ではないので防御力は弱い。〈光・金〉

八咫響(やたひびき)…式紙を貼った対象の視界を歪める。緑が苦手な皐月が代用しようとして開発。「遮断」ではないので効果・持続力は弱い。〈光・命・躁〉

泡風吹(あわふぶき)…光の泡を作り出し、空中に浮かべる。泡の中にあるものの重力を考慮しないため、中に入って空を漂うことができる。〈光・水〉

堕星(おとしぼし)…土を凝固させて丸い岩を作り出し空から落とすという、燃費の悪い物理攻撃系の闢則。基本的には頭上10メートルから20センチの岩を落とすくらいのものだが、依月ほどの力の持ち主が本気になれば、成層圏から小惑星クラスの岩を落とすことができる。危険極まりないが、依月はこれを"何故か"覚えている。〈土・操〉


ショートカット登録しない場合、例えば右手から火を前方に放つ術を使いたいときは「元素式「火」・変化式「直」:術者の右手を基点・発動式「風」「放」:前方へ拡散・出力」というようなキーワードを頭の中で浮かべて繋げれば発動します。

が、思考が散ると失敗しますし、戦闘中にやるのは面倒くさすぎるのでほとんどやりません。皐月くらいになれば、或いは必要になったらやるかもしれませんが。

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