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教養としての日本近代文学史⑦ 新興芸術派、新心理主義、新戯作派(無頼派)

【新興芸術派】

 新感覚派を継ぎ、反マルクス主義(反プロレタリア文学)と芸術の自立を唱えた、井伏鱒二、小林秀雄、梶井基次郎ら。


井伏鱒二(いぶせますじ) 

山椒魚(さんしょううお)

…岩屋から出られなくなった山椒魚に人間の孤独や愚かさを描く。

冒頭「山椒魚は悲しんだ」

「屋根の上のサワン」

「ジョン万次郎(まんじろう)漂流記」…激動の中を懸命に生きる人間像

「黒い雨」…広島の被爆体験をもとに小説化


梶井(かじい)基次郎(もとじろう)

「城のある町にて」「冬の蠅」   

檸檬(れもん)

…「不吉な(かたまり)」に悩まされる「私」は、レモンを爆弾に見立てて書店にそれを置き去りにし、爆発の瞬間を想像する。


【新心理主義】 人間心理を描く

堀 辰雄(たつお)

「聖家族」

…青年が、敬愛する師(芥川がモデル)の葬儀で、師と互いに思いを寄せあっていた女性とその娘に出会う。師と夫人の関係に、青年自身と娘の恋愛を重ねる。

「風立ちぬ」

…美しい自然に囲まれた高原で、重い病に侵された婚約者に付き添う「私」が、婚約者の死を覚悟しながら残された日々を生きる。


伊藤 (せい) 

「幽鬼の街」

…「僕」は街を彷徨し、自分を断罪する男女の幽鬼に襲われる。十数年ぶりに訪れた小樽の町で、元不倫相手は老女となって迫り、親切だった先輩は死臭を漂わせながら宗教を語る。

「鳴海仙吉」

…終戦直後、家族と離れて疎開先の北海道の郷里にひとり残った中年の文学者鳴海仙吉の思想と心情と行動を、詩・小説・評論・戯曲などさまざまな形式で描く。

「小説の方法」評論

「若い詩人の肖像」

…「私」の成長を、梶井基次郎、小林多喜二、萩原朔太郎ら多くの詩人・作家の実名と共に客観的に描く、自伝的長篇小説。


【新戯作派(無頼派)】 既成のモラルへの反逆と現実への絶望

●石川 (じゅん)「黄金伝説」、「焼跡のイエス」

坂口(さかぐち)安吾(あんご)堕落論(だらくろん)

織田(おだ)作之助(さくのすけ)「土曜夫人」


太宰(だざい) (おさむ)

「晩年」…遺書として残そうとした短編をまとめた第一作品集

富嶽(ふがく)百景(ひゃっけい)

…井伏鱒二と富士山麓の茶屋に山ごもりした体験の小説化

「走れメロス」、「斜陽」、「人間失格」

「津軽」…津軽半島旅行の小説化

「ヴィヨンの妻」…苦悩に酔う者を、妻の立場から批判的に描く


□NHK歴史秘話ヒストリアより(リンク切れ)

「エピソード1 芥川龍之介になりたい

 太宰治の憧れは人気作家の芥川龍之介。芥川と同じ東京帝国大学に進学すると、作家気取りで芸者と同棲、実家から勘当を言い渡され、ショックを受けた太宰は心中未遂事件を起こし、相手の女性を死亡させてしまう。

 昭和10(1935)年、日本最初の文学賞・芥川賞が創設されると、その受賞に執念を燃やす。1回目は、候補者の一人に選ばれるが落選。選考委員の川端康成には作品ではなく、私生活の乱れを指摘されて大喧嘩。3回目に有力候補の一人として太宰の名前が上がると、喧嘩を売った川端へ長い手紙をしたため受賞を懇願するが、落選。芥川になりたいと肩に力が入れば入るほど、太宰の空回りが続く・・・。 


エピソード2 「人間失格」 誕生秘話

敗戦後、太宰は大きな違和感を覚える。多くの文化人が簡単に民主主義を唱え出したことに対し、太宰は自分を含む日本人が戦争に協力し、その罪の自覚をすることが必要であると主張。「罪を深く自覚する者が謙虚でやさしい人間になれる」と太宰は考えていたからだ。その思いを作品「斜陽」に込めて発表。

続けて、これまで犯してきた自分の罪を洗いざらい吐き出す「人間失格」の執筆に取りかかると、太宰の生活は激変。家庭を顧みず、愛人を囲って、毎晩、浴びるように酒を飲む。それは太宰が人間の悪や醜さを描くとき、自分が幸せな家庭生活を営んでいてはいけないと考えたからだ。太宰は「罪」を描くために、また「罪」を重ねるという矛盾を繰り返す・・・。

 昭和23(1948)年5月、「人間失格」全206枚、脱稿。そのおよそ1ヶ月後、太宰は玉川上水に愛人とともに身を投げて帰らぬ人となる」


□NHK 100分de名著より 太宰治「斜陽」(http://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/47_shayo/)

「太宰治の代表作「斜陽」は、敗戦直後の混乱の中で没落しゆく貴族階級の人々の心情や人間模様を、情感豊かに描きだした作品。出版当時「斜陽族」という言葉を生み出すほど爆発的なブームを巻き起こした。

物語は、旧体制を象徴するような「最後の貴族」母と、その母を尊敬する娘・かず子の暮らしから始まります。つつましいながらも安定していたかにみえたその暮らしは、GHQによる急激な民主化政策によって基盤を奪われます。弟・直治の戦地からの復員、直治を退廃の道へ巻き込む作家・上原との恋、母の死。さまざまな出来事に遭遇する中で、かず子は、既存の価値観を突き破り、「恋と革命」という無謀ともいえる生き方を選びとります。「戦闘、開始」という掛け声は、時代に押しつぶされそうになっていたかず子が、新しい生き方に向かって走り出す「のろし」でもありました。

この小説に描かれている人物たちは、太宰治自身の分身だともいわれています。「滅びゆく階級」に身をおく母、かず子、直治。そして無頼の作家、上原。それぞれが、「既存の価値観と新しい価値観」の狭間で葛藤し、自分の生き方を見つけようともがき苦しみます。

あらゆる仕草が生まれついての優雅さをもつ「最後の貴婦人」と呼ばれた「母」。娘のかず子はそんな母を尊敬しながらも疎ましく思う心を芽生えさせていた。やがて「お母さまのお命をちぢめる気味わるい小蛇が一匹はひり込んでいる」と感じ始め、母に象徴される旧い価値観から脱出したいと願うようになる。

かず子は、母の死をきっかけに、「恋と革命」に生きることを目指す。「古い道徳とどこまでも争い、太陽のように生きる」と宣言して、不義の子を産み一人で育てていくことを決意する。最初は、常識も生活力もまるでなかったかず子だが、誰かのいいなりになるだけの「人形」から「人間」へと目覚める。

かず子の弟・直治は貴族という生まれを呪い、麻薬や酒に溺れようとする。しかし彼の願いは受け入れられず、「ぼくは貴族です」と書き遺して自殺。一方、作家の上原は、社会に反抗するかのように退廃的な生活にひたり、札つきの不良として振舞う。自らの悪を白日の下にさらけ出す二人は、大きな罪や矛盾をごまかし見ないふりを続ける世間の欺瞞に対して、「ほんとうのこと」を突きつけようとしている。」


【戦後派】 戦中・戦後の混乱を描く

野間(のま) (ひろし)「暗い絵」、「真空地帯」(人間性を破壊する軍隊)

●梅﨑春夫(うめさきはるお)「桜島」、「日の果て」

(はら) 民喜(たみき)「夏の花」(自身の被爆体験を描く)、「原爆小景」、「心願の国」

●中村真一郎「死の影の(もと)に」、「空中庭園」

福永(ふくなが)武彦(たけひこ)「草の花」、「死の島」、「海市(かいし)

島尾(しまお)敏雄(としお)

(しゅつ)孤島記(ことうき)」…南海の孤島にたてこもり、ベニヤ板で作られた自殺艇による絶望的な特攻作戦に従事する若い指揮官と部下たち。出撃命令を待つ極限状況を描く。

「死の(とげ)」…夫の浮気によって狂った妻は、夫に暴言を吐き暴行する。夫は贖罪として耐える

堀田(ほった)(よし)() 「広場の孤独」(朝鮮戦争下の知識人の不安)、「インドで考えたこと」(随想)


三島(みしま)由紀夫(ゆきお)

「仮面の告白」…男性を好む性的傾向に悩む男が、自分を客観的に認識していく告白の物語。

潮騒(しおさい)」…三重県にある島を舞台に、若く純朴な漁師と海女が、障害を乗り越え結ばれるまでを描く。

「金閣寺」…金閣寺放火犯となる青年僧の物語。吃音きつおん・どもりというハンデを背負った青年は、金閣の美の魔力に魂を奪われ、ついには幻想と心中する。幼少期から父親に「金閣寺ほど美しいものは地上にはない」と教えられていた青年は、金閣寺に預けられる。友人に紹介された女を抱こうとした時、突然その脳裏に金閣寺が現れ、その美に圧倒される。ふたたび友人に紹介された女が乳房をさらしたとき、またもや金閣寺が出現する。


大岡(おおおか)(しょう)(へい)

俘虜記(ふりょき)」…マラリヤを病む兵士が仲間から見捨てられ、フィリピン山中を彷徨し、米軍捕虜となる。極限状態におかれた人間心理。

野火(のび)」…太平洋戦争の敗北が決定的となったフィリピンで結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。米軍の砲撃を受け、野火の燃えひろがる原野をさまよう田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向けるが、それを食べることに踏み切れない。

「レイテ戦記」…太平洋戦争で、日本軍84000人もの犠牲者を出したレイテ島における米軍との死闘。


安部(あべ)公房(こうぼう)

「赤い繭」…帰る家のない「おれ」が、日の暮れた住宅街をさまよううちに、足から絹糸がずるずるとのびていく。足はどんどんほころび、やがて「おれ」は消滅。一個の空っぽな、夕陽に赤く染まる繭になる。


「壁 S・カルマ氏の犯罪」

…名前を名刺に奪われ、他人との接触が難しくなった男は、ついに壁となる。

「ぼく」は食堂でつけをしようとするが、自分の名前が書けない。身分証明書を見てみても名前の部分だけが消えている。事務所の名札には、「S・カルマ」と書かれているが、しっくりとこない。驚いたことに、ぼくの席に、「S・カルマ」と書かれた名刺がすでに座っていた。空虚感を覚えたぼくは病院へ行くが、そこにあった雑誌の砂丘の風景を胸の中に吸い取ってしまい、帰されてしまう。ぼくは動物園に向かうが、ラクダを吸い取りかけたところを、グリーンの背広の大男たちに捕らえられ、窃盗の罪で裁判にかけられる。法廷にはその日会った人々が証人として集まっていた。そこを同僚のタイピスト・Y子と逃げたぼくは、彼女と動物園で会う約束をして、アパートに帰る。翌日、ぼくは靴やネクタイに反抗され時間に遅れて動物園につく。するとY子はぼくの名刺と語りあっていた。よく見るとY子はマネキンだった。やがてぼくは、壁に変形していく。


「砂の女」

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。さまざまな方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。砂の世界からの逃亡と失敗を繰り返していた男がやがて砂の生活に順応し、脱出の機会が訪れても逃げない姿に、市民社会の日常性と人間を象徴的に描く。


【第三の新人】

 日常を軽妙に描く。安岡章太郎、吉行淳之介、庄野潤三、遠藤周作、阿川弘之、小島信夫ら。

安岡(やすおか)章太郎(しょうたろう) 

「悪い仲間」、「海辺(かいへん)の光景」(海辺の病院で危篤の母を看取る九日間)

遠藤(えんどう)周作(しゅうさく) 

「海と毒薬」…米軍捕虜生体解剖事件

「沈黙」…キリシタン禁制下の日本に潜入した宣教師ロドリゴは、迫害に苦しむ信徒に対し沈黙し続ける神に疑問を抱き、踏み絵に足をかけようとした時、「踏むがいい」との神の声を聞く。

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