教養としての日本近代文学史① 戯作文学、政治小説、写実主義
はじめに
この日本近代文学史は、大学入試対策としてまとめはじめたものです。高校生にも興味を持ってもらえそうな物語が多く、内容の紹介として<梗概>を付け加えました。おもしろそうだなと思っていただけたものがあれば、ぜひもとの作品をご覧下さい。
明治政府は西洋式の近代国家作りに努め、憲法・軍隊・議会などの近代化のしくみを、わずか20年ほどで整備した。
【黎明期】
〇戯作文学 (文学も急には変われない)
…江戸末期の戯作(娯楽小説)の継承。勧善懲悪。
仮名垣魯文
「西洋道中膝栗毛」
…十返舎一九の「東海道中膝栗毛」を模倣した物語。弥次郎兵衛と北八の孫がロンドンの万国博覧会に行く話。
「安愚楽鍋」
…明治維新後、東京に続々と開業した牛鍋屋を舞台に、あぐらをかいて牛鍋をつつきながら気楽なおしゃべりを交わす庶民の様子をスケッチした作品。
〇政治小説(自由民権運動の宣伝が目的)
矢野龍渓
「経国美談」…作者が所属した改進党の政治理想を描く。
東海散士
「佳人之奇遇」…作者の政治思想を語る。
末広鉄腸
「雪中梅」…青年政治家・国野 基の演説に感動したお春は、彼の政治活動を資金援助する。
〇写実主義 新文学への改良運動。勧善懲悪文学を否定。
坪内逍遥
「小説神髄」
…評論。単なる娯楽としての物語ではなく、人間の内面をあるがままに写し出す写実主義を提唱。
「当世書生気質」
…「小説神髄」の理論の実践化。小町田粲爾という書生と芸妓との恋愛を中心に、当時の書生や風俗を写実的に描く。
■「早稲田文学」…文芸雑誌。逍遥が創刊。逍遥は東大卒業後、早稲田大学で教鞭を執った。
二葉亭四迷
逍遥の成功に刺激を受ける。「小説総論」(評論)で、模写(写実)によって目に見える現象の背後に潜む本質を明らかにできると主張。
「浮雲」
…小説。「小説総論」の理論の実践化。言文一致体。日本近代小説の先駆。「だ」調。
<梗概>
内海文三は、父の死をきっかけに叔父の園田孫兵衛を頼って上京、その二階の下宿人となる。園田家の庇護の下、学業を終え、某省に奉職していた。隣家の官員の娘が私塾に入塾したことに刺激されて英学塾に入った従妹・お勢の人間評価の基準は、教育の有無にあった。お勢は、母親の無教養を露骨に侮蔑し、教育ある文三を婚約者として受け入れる。
しかし、文三は免職となる。それを打ち明けた途端、文三は、家族の一員からただの下宿人へと転落してしまう。
題名は、世渡りの下手な文三の不安定な境遇・優柔不断な性格や、世間の軽佻浮薄な西欧化の風潮をあらわしている。
●二葉亭は、ツルゲーネフの小説「あひびき」・「めぐりあひ」を翻訳
□二葉亭のペンネームの由来
「浮雲」は当初、坪内逍遥の本名「坪内雄蔵」の名で発表され、「浮雲」執筆を指導していた逍遥は、その報酬として印税の半分を受け取っていた。二葉亭が、逍遥の名を借りて「浮雲」を出版した自分に対し、「くたばってしめえ」と罵ったことがペンネームの由来。