9 候補者絞り
俺と白川は複数の文集をもとにして、作文の取り組みや内容から、クラスメイトたちの人格を分析した。
出席順に並べた名簿の一覧表には、【知性】【意欲】【性格】【備考】の欄を設けた。
「俺が考える茶封筒の人格は、【知性◎】【意欲〇】【性格:優等生で正義感が強い】【備考:自己中心的で警戒心が強い】だ。瞳はどう思った?」
「私は、【知性◎】【意欲◎】【性格:偽善者】【備考:人に良く思われたい。一方で、バレなければ悪い事も平気でする】よ」
俺は白川の意見を合わせて、茶封筒の人格を纏めた。
「茶封筒は頭が良くて主体的な行動が出来る。人に良く思われたいので外面はいいが、目立とうとはしない。自分に利があると判断すれば悪い事も平気でする。もちろんバレないように狡猾に。で、どうだろう?」
白川は頷き、改めて一覧表を確認した。
「その人格に近い人物が、茶封筒の候補に残るという論法ね。この絞り方が良いか悪いかは別として、やる価値はあると思う。推理が間違った方向に進んだとしても、後で間違いに気づけば、きっと次にやるべき事が見つかるはずだから」
俺は白川と目を合わせて頷いた。
「まずは消去法で。クラスメイトの中で、明らかに作文が下手で、やる気の無さそうな者を省こう」
俺と白川はテーブルの上で一覧表を突き合わせ、【知性】【意欲】が△と×の者を横線を引いて消した。名簿の名前は半分に減り、俺と白川の消した行はほぼ一致していた。
「食い違った人は、お互いに残しておきましょう。次はそうね……いかにも良い成績を取りたそうな、そんな作文を書いている人っていうのはどう?」
白川はニヤリと笑って言った。
「クラスメイトの中に茶封筒がいるとすれば、作文の中に教師が喜びそうなキーワード、例えば『美しい自然』『平和』『友情』とか、響きのいい言葉を意図的に盛り込んでいるかも知れない。いくつか心当たりがあるから、もう一度文集を確認してピックアップしてみよう」
俺と白川は再び文集を読み返し、一覧表にメモを書き込んで、茶封筒の候補者絞りを続けた。
窓の外が黄昏てきた。俺は絞り込んだ候補者の一覧表を白川に渡した。
「あまり人数を絞り過ぎても見逃す可能性もある。グレーな者も含めて、最終的に五人になった」
白川は受け取った一覧表を自分のものと見比べてから、掛け時計に目を遣った。
「私が最終的に絞ったのは六人。一が選んだ五人も全員含まれているわ。茶封筒の候補者を、この六人と担任の先生に絞って、次の検証に駒を進めるって事で構わない?」
俺は頷いて、床に置いていたボディーバッグを肩に掛け立ち上がった。
「遅くまでありがとう。次はいつ時間が取れそう?」
白川も腰を上げ、僅かに不安な顔をして言った。昨日までの強引な言動とは正反対の、しおらしい態度に絶句していると、乾いた表情に戻って胸ぐらをつかまれた。
「しばらく定期考査も無いし、どうせ寝転がってテレビを眺めているだけでしょう? 明日も午前十時に私の家に集合、昼食は必要ないわ。OK?」
慌てて首を縦に振ると、白川は手を離してニコリと笑った。少しはマシな服の胸元に、細かい皺が残った。