84 根本遥の独白⑬ 声明文
あたしは桐島努に計画の大枠を話した。
目的は、鈴木静に新たな犯罪を実行させ、言い逃れできないような物証を手に入れること。
あたしは白川瞳へのストーカー行為の動画をネタに脅しをかけ、海野洋を手懐けた。
そして、鈴木静が林間学校で怪我をしてから、裏で木田恵を操り白川瞳へのいじめを指示していた事、さらに恵を死に追い込み、吉田先生を事故に見せかけて轢死させた疑いがある事――鈴木静が起こした一連の流れを、すべて話してある。
「あたしは海野洋を使って、鈴木静に脅しをかけようと思う」
カチリとグレープジュースのプルトップを開けた桐島努に、あたしは言った。
「何をネタに? 鈴木静の弱みでも握ってるの?」
「鈴木静は些細な切っ掛けから足を怪我して、クラスメイトから除け者にされた。信頼していた担任の先生にも裏切られ、復讐の鬼と化した悲劇の少女。
弱みを握って服従させた同級生を死に追い込んだ後、心を踏みにじった先生を怒りに身を任せてホームから突き落とした……救いのない物語――。
その【物語】をネット上に拡散すると言って脅す。話の真偽は定かではないけど、同級生と担任の先生が立て続けに不慮の死を遂げているのは紛れもない事実。
ネットを通じてその噂が巷に広まれば、鈴木静本人どころか家族や親族にも少なからず影響が出る。
鈴木静がその脅しに屈して、海野洋に服従させる事ができれば……次の展開に駒を進める事ができる」
あたしは喉の渇きをパインの果汁で潤した。
「そんな事をしたら、海野君を危険に晒すことにならない?」
桐島努はゴクリと固唾を飲んで言った。
「フフフ。あんたは優しいわね。海野洋は犯罪予備軍のストーカーよ。ヤバい奴同士が殺り合って共倒れしてくれたら、それこそ余計な手間が省けるのにね」
あたしは予め印刷していた紙を桐島努の目の前で広げて見せた。
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わたしは、あなたがずっと嫌がらせを受けているのを知っていました。命令しているリーダーも、従っている仲間も、見て見ぬふりをする周りの人たちも、みんな、どうしようもなくひどいやつらです。
わたしはあなたに代わって、一人ずつ、いろいろなやり方でふくしゅうしていきたいと思います。
なぜかって?
わたしはわるいやつを許せないからです。いじめは決して許してはいけないことですから。
あなたが八年後に、このメッセージを読んだ時、このクラスの何人のふくしゅうが片づいているでしょうか。
あなたがよろこぶ姿を想像すると、わたしの心がはずみます。ふくしゅうのアイデアをいろいろと考えることが、わたしの生きがいなのです。
それではこの辺で。八年後を楽しみにしています。
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「これは……鈴木静じゃなくて……白川さんに宛てた手紙?」
桐島努は混乱した様子であたしに視線を合わせた。
「小学校の裏庭に埋めたタイムカプセルを覚えてる? あたしはこの声明文をこっそり紛れ込ませる。謎の差出人の正体は、白川瞳のストーカー海野洋。白川瞳の歓心を買うため、殺し屋の鈴木静を陰で操り、いじめの報復をやらせるの。
まずは海野洋の脅しが効くかどうか。それを見極めてからじゃないと話は進まないけど。どう? 面白そうじゃない?」




