59 謎を解くカギ
月曜日の昼休み。十一月も後半に入り、屋上は寒くなってきた。俺と白川は職員室で鍵を借り、自習同好会の教室で昼食を取る事にした。
「明後日の勤労感謝の日に、根本遥と会う約束をしたわ。お互いの進捗状況を確認する事で話が纏まったの」
白川は粉末緑茶を入れた紙コップに熱湯を注ぎ、マドラーで掻き混ぜた。
「俺も行っていいのかな?」
「もちろんよ。一は私の相棒だから。癪だけど、彼女もあなたを気に入ったみたいなの」
白川は熱い緑茶の湯気を吹き飛ばすように、溜め息を吐いた。
「話は変わるけど、母親から瞳に、弁当代を渡すように言われた。ついでに作ると言っても、手間もお金も掛かるからって」
俺は【十一月/21日分】と書かれた封筒を白川に渡した。
「受け取れないと言ってもダメ?」
「塵も積もれば山となるって。元々俺の弁当代が浮いた訳だから、気にしないで受け取ってほしい」
「OK。このお金は一のために貯めておくわ。必要な時に出せるようにするから遠慮なく言って。でも、引き出すには私の許可が必要よ。わかった?」
白川は澄ました顔を俺に向けて言った。
白川の一存で、弁当代が別の用途に流用される事になったが、いずれ飲食代に使う事もあるかも知れない。俺は頷きながら食事を続けた。
「十二月に入ると、一週間後に期末考査が始まるわ。それまでに出来るだけの事はしておきたいの。焦るのはダメだと思うけれど」
白川は時計を確認し、タコ型ウインナーと白米を立て続けに口の中に入れた。
放課後。自習同好会の教室で、窓辺の席に向かい合わせに座った俺と白川は、電気ケトルのスイッチを入れ、早速打ち合わせを始めた。
「一は淡路島へ行く前に、ここで私に言ったわね? 亡くなった四人の周辺を地道に探っていけば、茶封筒に繋がる糸口が見つかるかも知れないって」
話を切り出した白川に、俺は相槌を打った。
「木田さんのグループだった安藤芹は、私たちに新たな情報を伝えたわ。
小学校六年生に学年が上がる前、木田恵、桐島努、根本遥の三人は同じ五年一組のクラスで、担任は吉田先生だった。
安藤芹は、このクラスの中に茶封筒がいるんじゃないかと推理していた。それを聞いて一はどう思った?」
お湯が沸いた。俺は二つの紙コップに熱湯を注いで、一つを白川に差し出した。スティックシュガーを溶かした後、使い捨てのマドラーで掻き混ぜる。白川も全く同じ動作をして、出来上がったコーヒーを口に含んだ。
「五年一組の児童だった木田恵と桐島努、担任だった吉田先生が死亡して、根本遥は過去に二度も危ない目に遭ったと言っている。
茶封筒が五年一組に関わりが無いと否定する方が、かえって難しい。そして安藤芹の言葉通り、茶封筒の狙いが吉田先生だったとすると、手紙をタイムカプセルに紛れ込ませた理由や、その後に起こった事件事故の筋道を論理的に組み立てる事が出来る」
俺は言葉を切り、喉の渇きをコーヒーで潤した。
「つまり?」
白川もゴクリと喉を鳴らして俺の返答を待った。
「元五年一組の児童で、死亡した木田恵、桐島努、吉田先生、そして他のクラスメイトと関わりがあった人物――根本遥の証言が、謎を解くカギになる」




