47 同じ匂い
「私と一は手紙の差出人を茶封筒と名付けて、休日を返上して調べているの。現段階で、あなたが茶封筒かどうかは判断出来ないけど、クロに近いグレーとして警戒しておくわ」
白川はパインジュースを飲み干し、続いてオレンジの缶を振った。
「あたしの身から出た錆だから、何を言っても無駄なようね。これからもあたしは部屋から外へ出るつもりは無い。だけど茶封筒の正体が明らかになって、負の連鎖を断ち切る事が出来たら外の空気が吸えるかもね。他人任せだけれど」
根本遥は冷めた笑みを浮かべてクッキーを口に放り込んだ。
「フフフ。このクッキーの口溶けと後を引く美味さは癖になるわ」
「先日の日曜日の深夜、渡辺凛の家が全焼したわ。地域の出来事にアンテナを張っているあなたなら、情報はつかんでいるんじゃない?」
白川は根本遥から視線を外さず言った。
「ネットニュースで見たけど、新聞の地方版にも載っていたわ。怪我の程度は不明だけど、家族は皆逃げ出して無事だったみたいね」
「あなたはどう思う?」
白川はオレンジジュースのプルトップを開けた。
「火の不始末じゃなければ、当然放火でしょ。いずれ事実は明らかになる。続報が記事になるかどうかは分からないけど」
根本遥は脚を伸ばして両手を頭の後ろで組んだ。
「その日の夜、元学級委員長の海野洋が出掛けたまま家に戻ってないの。未だに行方不明だったら、親は警察に捜索願を出しているかも知れない」
「へぇ、いいタイミングね。安直に考えると、その日の晩に出掛けた海野洋が渡辺凛の家に放火して行方を眩ませている。そういう事?」
根本遥はじっくりと味わうようにグレープジュースを啜った。白川はテーブルに両肘を立てて、両手を口元で組んだ。
「私は同じ匂いを感じる。もしこの火事が茶封筒の引き起こしたものだとしたら、関与がバレないように口封じをするんじゃないかしら? 私は木田さんと同じような事が、再び起こる気がするの」
「あんたは恵と同じように、海野洋も茶封筒が裏で糸を引いていると言いたいの? でも一言言わせて。普通の人間なら人殺しや放火をやれって言われても、おいそれとは行かないでしょ?」
根本遥は背もたれを起こして、手を組んだままじっとしている白川に向かって言った。俺は尤もな意見だと思いながら白川に目を向けた。
「そうね。全ては仮定の話。でも現実に負の連鎖は続いてる。私は出来るだけ早くその流れを断ち切りたい。何もせず、じっとしているつもりはないの。
あなたも身の潔白を証明して外の空気を吸いたいなら、家の中で出来る事をやってみたらどう?」
白川の問い掛けに、根本遥はポカンとした表情をして言った。
「あたしに何をやらせるつもり? あんたたちと違って、あたしは責任ある仕事を抱えているの。ラノベも沢山読まなきゃいけないし、漫画も……とにかく色々と忙しいの!」
「あなたへの警戒は解かないけど、特別に自習同好会の会員にしてあげる。ここは西河市小鳩支部よ。私の小学校六年生当時の資料とタイムカプセルを宅配便で纏めて送るから、あなたなりの方法で時間を掛けてしっかりと分析する事。何か結果を出したら、あなたが茶封筒じゃないという証明になるから頑張ってね」




