46 作り話
白川は八月の下旬にタイムカプセルを掘り起こし、その中に差出人不明の茶封筒が紛れ込んでいた経緯を話した。
「これがその茶封筒のレプリカよ。中に手紙のコピーが入っているから読んでみて」
根本遥は茶封筒を受け取り、中の手紙を広げた。俺は静かに横目で表情を窺った。
「状況からみて、この手紙は白川さんに宛てたものに間違いはなさそうね。誰かがこの声明通りにいじめの復讐を実行している。あんたは、そう考えているのね?」
根本遥はやや硬い表情を浮かべ、白川に目線を合わせた。
「その手紙と茶封筒には出所がバレないように、ちょっとした細工がされていたの。その慎重さが裏目に出て、差出人に繋がるヒントを見つけ出したわ」
白川はアップルジュースを飲み干し、続いてパインの缶を振り、プルトップを開けた。
「飲み比べでもするつもり? 結構高いんだから、ちゃんと味わって飲みなさいよ!」
根本遥はテーブルからグレープの缶を奪い取り、再びゲーミングチェアに座った。
「その茶封筒には、あなたを含めたいじめグループ五人の指紋が付いていた。渡辺さんの話によると、木田さんはよくお菓子を封筒に入れて学校に持って来ていたようね。
その茶封筒はその内の一つ。つまり手紙の差出人は木田恵か、彼女から封筒を手に入れた人物、という事になるわ」
「策士策に溺れるとはこの事ね」
根本遥は静かに笑った。
「木田さんが亡くなった後も、担任の吉田先生や桐島努は事故のような形で亡くなっている。それが手紙の差出人による事故に見せかけた報復だったとしたら、自ずと選択肢は無くなる。差出人は木田恵と密接な関係をもっていた人物に間違いないわ」
白川は根本遥をじっと見つめて押し黙った。
「あたしを疑っているの?」
根本遥は僅かに怯んだ表情を見せて言った。
「私は当時、外見と表面的な態度に騙されて、あなたをずっと見くびっていたわ。今日会って話を聞いて、実際は頭が切れる行動力のある人物だと思った」
白川は鋭い眼差しで根本遥を見つめたまま、パインジュースをグビリと飲んだ。
「フフフ。長身黒髪美少女に褒められると、照れるわね」
根本遥は不敵な笑いを浮かべた。
「あなたが遭ったと言う、自転車事故とホームでの転落。どこにも客観的な記録が残ってなくて、全てあなたの作り話だったとしたら?
小学生の頃から十分にPCを使いこなす人物なら、活字の文書を打ち出し印刷するのもお手の物。家の中で報復の計画を考える時間はたっぷりあるし、家に閉じ籠っている振りをして、密かに外出する事も可能。どう? 反論する事は出来る?」
白川は根本遥に答えを迫った。
「……あたしは確かに学校で恵やグループの人たちと連んでた。だけど、あんたが思っているほど深い付き合いは無かった。
あんたへの嫌がらせも、くだらなくて加わらなかった。それよりも、意に介さず立ち振舞って凛としているあんたが、いつ弱音を吐くのか注目していたわ」
「……悪趣味ね。あなたも同じ目にあえば、どれほど辛かったか分かるのに」
白川は怒りを抑えるように、ゆっくりと息を吐いた。
「ホームで突き落とされた事はどこかの記事に残っているかも知れないけど、あたしは当然匿名よ。自転車の事故は、残念だけど今となっては肘の痣以外に証明する術が無いわ」
根本遥は背もたれを倒して天井を見上げた。




