45 連鎖
「次はあたしの番ね。質問をする前に、木田恵の事を少し話しておくわ」
根本遥は飲み干した缶ジュースをパソコン机に置いて、白川を見据えた。
白川は崩していた両足を正座に変え、姿勢を正した。
「自転車で吹っ飛ばされた時、隣りにいたのが恵だった。信じたくなかったけど、あの時前輪に棒か何かを差し込む事が出来たのは恵しかいない。車輪に挟まったはずの棒も見つからなかった。証拠隠滅が出来るのも、その場にいた恵だけ。その後立て続けに駅のホームから突き落とされて、あたしの恵に対する不信感が一層募っていった」
「あなたも、質問に行き着くまでしばらく掛かりそうね。私の手作りクッキーと一の買って来たチョコがあるから、果汁100%のジュースと交換しない?」
白川は足が痺れたのか、足の裏を解しながら両足を崩した。
「いいわ。一、あんたの出番よ。空き缶は資源ゴミのゴミ箱に入れておいて」
根本遥は手を伸ばして、俺に飲み干した缶を手渡した。
俺は再び急いでダイニングへ行き、資源ゴミと書かれたゴミ箱に空き缶を捨てた。冷蔵庫を開けると、パイン、グレープ、オレンジ、アップル、ピーチ、五種類のジュースが盛り沢山に詰まっている。
俺は全種類を二組抱えて部屋に戻り、テーブルに十本のジュースを並べてニヤリと笑った。
「二度目は労働の対価だ。文句は無いだろ?」
根本遥は悔しがると思いきや、机に広げた一口チョコを口に入れ、フフフと静かに笑った。
「ただのモブではないようね。気に入ったわ」
「早く話の続きを聞かせて」
白川がジュースの缶を勢いよく開け、飛沫が飛んだ。座ったまま仰け反った根本遥は、顔に掛かったジュースを袖で拭きながら話を続けた。
「恵があたしを事故に見せかけて殺す動機が分からないし、信じたくもなかった。だけど、どう考えても最初の自転車事故の疑惑は晴れなかった。その事故以降、恵はお見舞いの一言も無く一度も連絡して来ないし、あたしとの接触を避けていたのも不自然だったわ」
「そしてあなたが籠城した後、しばらくして木田さんが学校の屋上から転落して亡くなったのね」
「そう。あたしは時折り連絡を取って来た、安藤芹と渡辺凛の言うように、自殺の線も考えた。だけどその後、あたしと同じように、ホームで人が突き落とされる事故が起こったの」
「担任の吉田先生の轢死?」
白川は口の中でチョコを溶かしながらクッキーを噛み砕いた。根本遥は頷いて続けた。
「あたしがもし列車に轢かれていたら、六年二組の卒業生と先生が立て続けに三人も死んでいた事になる。あたしを狙ったのが恵だとしても、恵が亡くなった後に、吉田先生を轢死させたのは誰?
全てが有耶無耶なまま、静かに三年が過ぎて、世間が二人の死を忘れかけた頃に、近くの川で桐島努が水死体で発見された」
「事故だったとしても、命を落としているのは元六年二組に関わる人物ばかり。とても偶然とは思えないわね」
白川は根本遥の心境を補足するように言って、果汁100%のアップルジュースを舌で味わい、渋い表情を浮かべた。
「あたしは再び身の危険を感じ始めた。そんな時に、卒業生の山本と名乗る女から住所を聞き出そうとする怪しい電話が掛かってきた。
あたしはカナダ留学をしている事にして質問を躱した。二度目の電話で、あんたは白川瞳と名乗った。あたしの脳裏に『復讐』の二文字が過ったけど、あんたは昔から長身黒髪美少女で異様な存在感を放ってた。町中で犯罪を引き起こすには不向きなんじゃないかと思い直したの。
そしてあんたは電話で、恵を犠牲にした悪い奴を見つけ出すためだとか、恵を誰かが操っていたとか、あたしの想像の斜め上を行くような事を言ったわ」
「その通りよ」
白川が短く答えると、根本遥は呼吸を整え、背もたれを直角に起こして言った。
「あたしが知りたいのは、その根拠よ。あたしに分かるように、順を追って説明して」




