43 質疑
「あたしの部屋へ案内するわ」
昼食を終え、根本遥は席を立った。空になった弁当箱を仕舞い、白川も席を立つ。俺は白川に目で合図を送り、根本遥の後に続いた。
型板ガラスがはめ込まれた引き戸を開けると、八畳ほどの殺風景なリビングが見えた。根本遥に続いて中に入る。フローリングの床に小さな正方形のテーブルがぽつんと一つ。右の壁際に三十二インチの薄型テレビ。正面の窓辺に電話台があり、小さなコードレス電話と黒い双眼鏡が見えた。
「生活感の無いリビングね。根本さんはミニマリスト?」
俺の隣りに並んだ白川が前を行く根本遥に言った。
「掃除がしやすいように不必要なものはおかないようにしているの。それだけよ」
根本遥は左にあるドアを開け、部屋の明かりをつけた。ドアの向こうに、六畳ほどの窓の無い部屋が見えた。
奥の壁際にハイスペックと思しき大きな筐体のPCと大画面のモニター。座り心地の良さそうなオットマン付きのゲーミングチェアがあった。右の壁全体が本棚になっていて、漫画とライトノベル、薄い本で八割が埋め尽くされていた。
左の壁にはドアがあり、まだ先に部屋はあるようだ。
「悪いけどテーブルや座布団は無いから、適当に絨毯に座って。あんたたちがここに来た初めての客なのよ」
根本遥は壁際のゲーミングチェアにドカッと座って言った。
「OK。あなたに見てもらいたい資料を幾つか持って来たから、テーブルがあった方がいいかも知れないわ。リビングのテーブルをここへ持って来てもいい?」
「資料? 何だか分からないけど面白そうね。いいわ。テーブルを持って来て。リビングのドアは開けっ放しで構わない。密室で三人なんて息苦しいからね」
根本遥は椅子にふんぞり返ったまま言った。
それなら広くて明るいリビングで話し合えばいいのに、と思ったが、本人はこの部屋が落ち着くようだ。俺はテーブルの天板を持ち、白川はこたつ付きの脚を部屋に運び入れた。
「さて、一体何から話す? 美味しい弁当をくれたお礼に、まずあんたからの質問に答えてあげる。その後からは交互に質問よ」
根本遥は足元のオットマンを引き出して、背もたれを倒し、目一杯寛ぐ体勢で言った。俺は本棚を背に胡坐をかき、白川は壁際の根本遥と向かい合わせに腰を下ろした。
「あとで詳しく話す事になるだろうけど、私はある些細な切っ掛けから、記憶の外に追いやっていた小学校六年生当時に受けていたいじめを思い出したの。
改めて当時の事を調べていくうち、まずは担任の吉田先生が卒業式の数か月後に電車に轢かれて亡くなっている事が分かった。その後、つい最近クラスメイトだった桐島努の水死体が発見された。そして順番は前後するけど、木田さんが卒業後、中学に入学する前に小学校の屋上から転落死していた事を知ったの」
「質問をするまでの前段階が長いけど、あたしが聞きたかった事も含まれているからまぁいいわ。それで?」
「私は木田さんのお母さんと会って、転落死の真相を明らかにしてみせる、そう約束したのよ」
「それで、何やかんやあって、あたしに行きついた訳ね」
根本遥は腕と足を同時に組んで言った。
「根本さんは当時、木田さんのグループにいた。そして木田さんが転落死した後、中学校の入学当初から不登校になっていたと聞いているわ。何か関連性があるの? いろいろ山ほど訊きたい事があるけど、まずはそこから教えてくれない?」
白川は根本遥の表情を窺いながら、単刀直入に言った。