39 ローカルニュース
俺と白川は昼食を済ませた後、再び小さな円いテーブルを挟んで腰を下ろした。
「海野洋には、どうアプローチする?」
俺が問うと、白川はお馴染みの連絡網を見つめて頬杖をついた。
「ストレートに本名を名乗って相手の反応を窺うつもり。もし本人が電話に出たら、応答の一つ一つが茶封筒かそうでないかのヒントになる。一も注意して聞いていてね」
「わかった。念のため今回も俺のスマホを使ってほしい」
俺は白川にスマートフォンを差し出した。
「ありがとう。じたばたしても始まらないから、早速覚悟を決めて実行よ」
白川は海野洋の電話番号を指で追い、テーブルにスマホを置いたまま電話を掛けた。もどかしい十数回の呼び出し音の後、メッセージが流れた。
『ただ今、留守にしております。恐れ入りますが、ピーッと鳴りましたら御名前と御用件をお話し下さい。……ピーッ……』
白川は一瞬戸惑った後、俺に目を合わせた。俺は急いで通話終了のアイコンを押した。
「伝言を入れるのも一つの手だけど、無理に急ぐ必要は無いと思う。また明日、放課後に掛け直してみてもいいんじゃないか?」
「OK。明日、自習同好会の教室で掛け直しましょう」
翌日はあいにくの雨だった。俺と白川は屋上での昼食を諦め、職員室で鍵を借りて、自習同好会の教室で昼食を取る事にした。
窓辺の席に向かい合わせに座ると、白川が二人分の弁当を取り出しテーブルに広げた。呼吸を整え、ゆっくりとした口調で言った。
「恐れていた事が起こったわ」
白川は朝から暗い顔をしていたが、終始無言で何も話そうとしなかった。俺は彼女の意向を汲みとり、訳を話す機会をじっと待っていた。息を呑んで、次に続く言葉に耳を傾けた。
「今朝のローカルニュースで火事の記事が載っていたの。何度も確認したから間違いない。昨日の真夜中に、渡辺さんの家が全焼したのよ」
「……本人と家の人たちは無事なのか? スマホの電話は繋がった?」
俺が問うと、白川は曲げわっぱの蓋を開けて食事を促した。今日のおかずはだし巻き卵と赤いウインナーを炒めた簡単なものだったが、致し方のない事だろう。
「電話は繋がらない。でも家族全員が火が回る前に脱出して、命に別状は無いみたい」
「いずれ出火の原因が判明するはずだ。茶封筒の仕業かどうか分からないけど、最悪の事態は避けられて良かったな」
「渡辺さんも今は気が動転しているのかも知れない。落ち着いたら必ず私に連絡して来るだろうと思う。茶封筒に私たちの動きが悟られているかどうかは分からないけど、今まで以上に警戒していたほうがいいわ。一も駅のホームで突き落とされないように気をつけてね」
白川は紙コップに熱い緑茶を注いで言った。
俺は頷いて、だし巻き卵を口に入れた。冷めてはいたが、舌と歯で噛み切ると、しっとりとした優しい食感、そして出汁の旨味が口一杯に溢れ出した。味の余韻が残っている間に、ごま塩の効いた白米を掻き込む。おかずの上品な味わいゆえに、白米の甘みが引き立っていた。
「今日の弁当も本当に美味しい。いつもありがとう」
俺はあえて言葉に出して伝えた。暗かった白川の表情が僅かに和らいだ。




