37 再確認
俺は以前に白川が纏めたクラスメイトの一覧表を確認した。青のチェックを入れた(茶封筒に指紋が残っていた)五人のうち、木田恵と桐島努は既に亡くなっていて、渡辺凛は茶封筒の正体を知らないようだった。安藤芹は電話越しの声しか聞いていないが、茶封筒が醸し出す、異常性を示すような怪しい雰囲気は感じられなかった。
残る一人。小学校を卒業後、中学校入学当初から不登校だったという根本遥に、白川は再び連絡を取ろうとしていた。
「以前電話に出たのが根本遥本人だった場合、息を吐くように自然に嘘をつける人物かも知れない。そう考えると、茶封筒の可能性もありえる。警戒のレベルを上げた方がいいと思う」
白川に声を掛けると、彼女は缶コーヒーを少し口に含んで答えた。
「それはクラスメイトの名簿を握っている海野洋も同じ。もし相手が茶封筒であっても、どういう反応が返って来るかを知る事が出来るわ」
「自分の身を危険に晒しても?」
「私は覚悟を決めたの。遅かれ早かれ、茶封筒はこちらの動きに気づくと思う。先延ばしにすれば、それだけ決着も遅れる事になる」
「わかった。心配事が早く片付くといいな。一緒にいる時は出来るだけ瞳の周りを警戒するようにするけど、一人で外出する時は今以上に気をつけるようにしてほしい」
俺が釘を刺すと、白川は微笑して言った。
「OK、気を抜かないようにする。それじゃあ早速、根本遥に電話してみるわ。一は相手の返答を一緒に聞いて、見守っていてね」
俺は黙って頷き、噛み砕いたクッキーをゴクリと飲み込んだ。
白川は大きく深呼吸をした後、根本遥の電話番号を指で追いながらテーブルに置いたスマートフォンの液晶をタップし、発信アイコンを押した。こもった呼び出し音が数回鳴った後に、受話器を取る音が聞こえた。白川は口に人差し指を当て、音声出力をスピーカーに切り替えた。
『はい。根本ですが、どちら様?』
白川が前に言った通り、若い女の声が聞こえた。
「私は白川瞳と申します。根本遥さんに伝えたい事があって電話をしました」
『…………』
「もしもし? もしもあなたが根本遥さんだったら、お願いだから電話を切らずに話だけでも聞いてほしいの。ダメかな?」
『…………』
「木田さんを犠牲にした悪い奴を見つけ出すために、あなたの力を借りたいの。お願い!」
『……本当に白川さん? この間の山本って名乗った怪しい人じゃないの?』
「それは偽名よ。私の名前を出すと警戒されると思って偽名を使ったの」
『……ふうん。カナダ留学の嘘はバレてたんだ?』
「声が若かったし、本人が電話に出て嘘をついているんじゃないかと思ったの」
『誤魔化さなくてもいいわ。どうせ渡辺凛が安藤芹に聞いたんでしょ? 中学から不登校だってね。で、あんたは恵を殺した悪い奴を見つけ出すために、あたしの力を借りたいと言ったわね。何かつかんでいるの?』
白川は無言で俺に目を合わせた。俺は走り書きしたメモを白川に見せた。
「木田さんを誰かが操っていた事は分かってきた。詳しい事はあなたと直接会って話がしたい。外に出るのがダメなら、あなたの部屋に入れてほしい。腹を割って話がしたいの」
『……あたしを恨んでないの?』
「もう恨んでない。もちろん木田さんの事も」
白川はゆっくりと息を吐き出すように言った。
『……わかった。あたしの家に来て。あんたは高校生だろうから、いろいろ忙しいんじゃない? あたしはずっと家にいるから、あんたの都合のいい日に会ってあげる。住所はもう知っているんでしょ?』
「ええ。それじゃあ今週の土曜日の正午はどう? お昼はあるの?」
『いつもはレンチンか宅配ピザだけど』
「私の手作り弁当を持って行ってあげる。料理には自信があるの。一緒に食べながら話をしましょう」
『フフフ。楽しみに待ってるわ』




