31 告知
白川と渡辺凛のテーブル席に、注文した料理が運ばれて来た。店員とやり取りをしている間に、俺はドリンクバーの設置場所へ行き、アイスコーヒーを注いで戻って来た。シロップとミルクを入れてストローで掻き回していると、背もたれの後ろから再び二人の会話が聞こえてきた。
「桐島君とは同じ高校だったの。白川さんも知っているだろうけど、南小に一番近い、市立西河南高校よ。事故の話は全校集会で先生から報告があったわ。川でソロキャンプ中に溺れたんだってね」
「元六年二組のクラスメイトで、同じ高校に入学した他の生徒はいない?」
白川が尋ねると、少し間をおいてから渡辺凛は答えた。
「極端に頭がいい人と悪い人、それと引っ越した人以外はほとんど入学しているんじゃないかな。ちゃんと調べていないから詳しくは分からないけど」
「そう……。現在把握しているだけで、六年二組に関係している人が三人も亡くなってる。三人とも事故らしい扱いだけど、私は繋がりがあるんじゃないかと疑っているの」
「繋がり? ……どういう事? 確かにクラスメイトと担任の先生が立て続けに亡くなるのは少し不自然だけど、桐島君の事故に連続性は無いんじゃない?」
ミックスグリルランチが到着した。店員は会計伝票を丸めて伝票立てに挿して戻って行った。俺は背後に耳を澄ませながら、チキンステーキを一口サイズに切って口に入れた。皮はこんがりと香ばしく、ふわりとしたモモ肉を噛みしめて舌で転がすと、甘辛い醤油の旨味と肉汁が弾けて口一杯に広がった。
「なかなか美味い」
呟いた後、慌てて口を塞いだ。
「本題に入っていい? 渡辺さんの様子を探った理由を話すわ」
「聞かせてくれる?」
「小学校六年生の卒業式の日に、皆で埋めたタイムカプセルを覚えてる?」
「……確か、学校の裏庭のどこかに埋めたような覚えがある。わたしは手紙とその頃流行ってたお菓子を一緒に入れたかな」
背もたれの隙間から窓ガラスに映った渡辺凛の表情を窺うと、不自然な様子は無い。手元にも目を遣ったが、ぎこちなさは見当たらず、美味しそうに食事を取っていた。
「実はこの夏休みに、私は皆に内緒でそのタイムカプセルを掘り起こしたの」
「え!? どうしてこの時期に?」
「理由を細かく話すとまどろっこしいから、簡単に言うと、当時私をいじめてたクラスメイトたちに仕返しをしたかったの。中の手紙を盗み見て、嘲笑ってやろうと思ってね」
「それで? ……まだ何か続きがあるんでしょ?」
窓ガラスに映った渡辺凛は好奇心たっぷりな眼差しで身を乗り出した。
「そのタイムカプセルの中に、差出人不明の茶封筒が紛れ込んでいたの。この封筒に見覚えはない?」
白川は予め用意していた茶封筒のレプリカを見せた。中には三つ折りの手紙のコピーが入っている。俺はアイスコーヒーを音を立てずに啜りながら、渡辺凛の横顔を垣間見た。
「ありきたりの封筒ね。中身を見てもいい?」
渡辺凛はナイフとフォークを置いて茶封筒を受け取り、中の手紙を開いた。窓ガラスに映り込んだ表情が次第に強張って、眉間に皺が寄り口元を手で押さえて呟いた。
「何よこれ……。誰がこの手紙を書いたの?」
「分からない。この手紙の内容がただの悪戯じゃないとしたら、亡くなった三人の死に繋がりがあるかも知れない。私は当時の連絡網を使って、六年二組のクラスメイトたちの安否確認をする事にしたのよ」




