29 考査明け
中間考査が終わった。『自習同好会』の効果があったのか、全ての科目でまずまずの点数が取れた。無理をして詰め込み過ぎると逆効果になりそうだったので、俺は不得意科目に重点を置き、白川にアドバイスをもらって対策を講じたのだった。一方の白川は、危なげも無く全科目で首位をキープしていた。
放課後、俺と白川は職員室の真上の階に向かった。室名札には【自習同好会】の札が入っている。窓辺に向かい合わせに六つの机を並べ、ベニヤ板を載せた上にテーブルクロスを敷いていた。右側の黒板近くにはコンセントが設置されていたので、机を並べた上に電気ケトルを置き、ティーバッグの詰め合わせやインスタントコーヒー、紙コップの束を収納出来るカラーボックスを持ち込んでいた。
俺と白川は床の荷物籠に鞄を置き、窓辺のテーブルに向かい合って座った。
「頼まれていた物を持って来た」
「ありがとう。私の嗜好品だから、経費とは別で支払うわ」
白川は生協で買った一口チョコを二袋受け取った。一つを鞄に入れ、もう一つは早速開封し、鷲づかみして机の上に広げた。
「明日の午前十一時に渡辺さんと灘波駅で待ち合わせる事になった。混み始める前に駅前のファミレスに入るから、私たちのすぐ後ろに並んで。会話が聞こえる範囲で席を取れたらいいけど、ダメなら後で様子を話すわ。それでOK?」
「わかった。でも渡辺凛に、どの程度まで話をするつもりなんだ?」
俺が問うと、白川はチョコレートを口に入れ、溶かしながら答えた。
「一連の調査の流れを話していくつもり。もし渡辺さんが茶封筒だったら、八年後に公開されるはずの手紙が、私にバレてしまった事に動揺するはず。茶封筒じゃなかったら、標的になる危険性がある事をちゃんと話しておいた方がいいと思う。不安にさせるかも知れないけれど」
「あとは、当時のいじめグループの実態を聞き出せるといいな。本当に木田恵がリーダーになって嫌がらせを指示していたのか。木田恵と特に近かった友人はいなかったのか」
「渡辺さんから他のクラスメイトの現況も聞き出せるといいわね。住所を探す手間が省けるから」
「渡辺凛への質問は瞳に任せる。もし茶封筒じゃないという確信が持てたら、仲間になってもらうのも一つの手じゃないかな?」
俺はペットボトルの天然水を電気ケトルに注ぎ、スイッチを押した。
「そこまで信用出来るかどうかは分からない。今のところ私が気を許せるのは一だけよ。渡辺さんに情報を出すにしても、探り探り小出しにしていくつもり。もし途中で変な反応が返ってきたら、全てを明かすつもりは無いわ」
白川はティーバッグの詰め合わせに指を差して言った。
俺は紙コップにティーバッグを入れ、白川の前に置いた。自分の紙コップにインスタントコーヒーとミルクパウダーをに入れ、お湯が沸くのを待った。
翌日、俺と白川は伊波駅で落ち合い、灘波駅行きの列車に乗り換えて、待ち合わせの場所へ向かった。
灘波駅の改札を出ると、朝から降り続く雨で肌寒い空気が流れ、人通りは疎らだった。
俺は駅前でぽつんとビニール傘を差した、すらりとした白川の姿を眺めながら、少し離れた駅の出入り口で雨宿りをしていた。広い通りを挟んで向かいに大手チェーンのファミリーレストランが見えていた。
しばらく待っていると、白川がスマートフォンを取り出して電話に出た。振り返った白川の視線の先に、電話を持ち右手を上げながら改札から出て来た、渡辺凛と思しき女子を確認した。




