28 和解
予想外の反撃に白川は絶句して、スマートフォンを耳に当てたまま俺と目を合わせた。
『電話番号も記録しているし、会話の内容も録音しているわ。市役所の消費者相談室に通報してみようかな? フフフ』
「その場しのぎは出来なさそうね。このまま話を続けていい?」
白川は覚悟を決めたようだ。
『どうぞ』
「私の名前は白川瞳。小学校六年生の時、六年二組であなたと同じクラスだった。覚えてる?」
『え? ……あの白川さん?』
「そうよ。あなたが渡辺凛さん本人なら少しは記憶に残っているはず。私はあなたを含めた同じグループの面々に散々酷い嫌がらせを受けていた、あの白川瞳よ」
『…………』
「私の名前を聞いて、あなたがどう思ったのか分からないけど、謝罪をしてほしいわけじゃない。仕返しをするつもりもないから安心して」
『……じゃあ、一体何のために?』
「それだけど、内容的に電話では話せない。録音されていたら尚さら。もし叶うなら、あなたと直接会って話がしたいの。ダメかしら?」
俺は白川と渡辺凛の会話を息を呑んで見守っていた。しばらく間をおいて、スマートフォンから声が聞こえた。
『……そこまで言われたら内容が気になるわ。本当に、わたしに仕返しするためじゃないのね?』
「もう済んだ事だから。私と会って話を聞いてくれるなら、全てを水に流すと約束する」
『……わかった。わたしも直接会って白川さんに謝りたい。話の内容も知りたいし』
白川は中間考査が迫っている事を踏まえ、テスト期間が終了している再来週の土曜日に落ち合う事で合意した。
「地元で会うのは出来るだけ避けたいの。私の住んでいる場所は西河市から二時間ほど掛かるから、出来れば中間地点の灘波駅辺りのファミレスか喫茶店で話さない? お昼代は私が出すわ」
『謝りに行くのに昼食を奢ってもらうなんて変だけど、往復で交通費も馬鹿にならないから助かる』
「それと今掛けている電話番号は、友だちのスマホからなの。私の番号を教えるから、あとで掛けてくれると助かるわ」
『わかった。その友だちは……わたしたちが白川さんをいじめていた事を知っているのよね?』
「ええ。私が一番信頼している人よ。でも、あなたを責めるつもりは無いから安心して」
白川は俺と目を合わせて頷いた。
『それじゃあ、再来週の土曜日に灘波駅に集合ね。詳しい事は追って連絡するという事でよろしく。一度切って、スマホで白川さんに電話を掛け直すわ』
白川は俺にスマートフォンを返し、すぐに掛かってきた電話に出た。
「それじゃあ、お互い中間考査を頑張りましょう。土曜日に会えるのを楽しみにしているわ」
白川は電話を切ると大きく息を吐いて、またチョコレートを数個口に入れ頬張った。
「急遽渡辺凛と相まみえる事になっちゃったな」
俺は机の上の捻じれたフィルムを集めてゴミ箱に捨てた。
「私は話した感じで茶封筒じゃないと思った。警戒は解かない方がいいけど、渡辺さんから当時の情報を引き出して、どういう答えが返って来るのか興味があるの」
「俺は瞳と一緒に表に出るか、裏で潜んでいるか、どっちがいいかな?」
「向こうは一の顔を知らない。私の近くでバレないように見守っていてほしい」
白川は捻じったフィルムを俺に渡して言った。




