27 安否確認
週末の土曜日。俺と白川は、午前中に二階の部屋で中間考査対策の勉強会を終えた後、昼食を挟んで再び小さな円いテーブルに向かい合っていた。
「午後からは予定通り、まずはクラスメイトの安否確認から始めましょう。心の準備は出来てる?」
白川は机に連絡網を置き、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。俺も肺が突っ張るような緊張を、呼吸を繰り返して何とか落ち着かせた。
「今日電話を掛けて確認するのは、前回やり残した根本遥と渡辺凛の二人、そして同窓会幹事の海野洋だったな」
白川は俺の顔色を見て、ふうっと息を吐いた。
「やっぱり引っ込み思案な一に芝居を打たせるのは荷が重いわ。私が電話を掛けるから、一は見守っていて」
「ごめん。どう考えても瞳の方が役者が上だ。せめて俺のスマホを使ってくれ。芝居は任せた」
俺がスマホを渡すと、白川は得意顔で受け取った。
「まずは根本遥と渡辺凛。この間と同じで、小学校の同窓会名簿作成の協力をお願いする名目で電話を掛ける。海野洋はクラスの同窓会の幹事だから同じ手を使いづらい。あとで作戦を練ってからにしましょう」
俺は頷き、息を呑んで白川を見守った。
白川は根本遥の電話番号を指で追いながら確認し、発信のアイコンを押してスマートフォンを耳に当てた。数度の呼び出し音の後に、受話器を取る音が漏れてきた。
『はい。根本ですが、どちら様?』
「私、西河市立南小学校の卒業生の山本と申します。実は来年の春頃に同窓会を企画しておりまして、名簿作成のご協力をお願いしたいと思い、お電話させて頂きました。そちらに根本遥さんはご在宅でしょうか?」
『遥は今カナダに留学中でねぇ。来年の春は、まだ向こうにいると思うわ』
「なるほど。残念ですが仕方がありませんね。また機会がありましたらご連絡させていただきます。失礼致しました」
白川は電話を切った後、コップに注いだ麦茶を呷った。
「根本遥は留学中で無事だったようね。茶封筒のリストからも外しましょう。次は渡辺凛ね」
俺は鞄から一口チョコレートが入った袋を取り出して白川に渡した。
「これでも食べてリラックスしてくれ。俺の方が緊張しているんだけど」
「ありがとう。渡辺凛は茶封筒の候補者だから、気を引き締めていくわ」
白川は鷲づかみにして机に置いたチョコレートを三つ同時に口の中へ入れた。
白川は口の中に麦茶を流し込んでリセットした後、渡辺凛の電話番号を確認して発信のアイコンを押した。
『……はい。どちらさま?』
「渡辺さんのお宅でしょうか?」
『そうだけど?』
「私、西河市立南小学校の卒業生の山本と申します。実は来年の春頃に同窓会を企画しておりまして、名簿作成のご協力をお願いしたいと思い、お電話させて頂きました。そちらに渡辺凛さんはご在宅でしょうか?」
『怪しいわね。山本なんて子覚えていないし、知らない。上の学年? なら、どうして家の固定電話の番号を知っているの?』
白川の表情が険しくなった。
「南小学校の同窓会事務局は、卒業年度別にクラス名簿を保管してあります。お電話が繋がれば、住所や電話番号に変わりが無いかチェックさせて頂いております。ご協力していだだけませんか?」
『ふふ、どうしようかな?』
「別に強制ではないので、もう結構です。あなたは渡辺凛さん本人ですよね? 確認できましたので」
『実は、わたしのお父さんは南小学校の同窓会委員なの。ちょくちょく委員会に参加しているようだけど、来年の春に同窓会を企画してるなんて話は聞いた事が無いわ。あなたは一体、何の目的でわたしに電話を掛けてきたの? どうせ山本も偽名なんでしょ? 正直に白状したら許してあげる』
電話の声は、面白がるような口調で言った。




