26 歪んだ愛情
「瞳は一昨日列車の中で、全てを茶封筒が引き起こしたマッチポンプのような気がすると言った。木田恵が何か逆らえない理由があって、茶封筒の操り人形になっていたとすれば、俺もそれが正しい思う。
でも、茶封筒が報復を仄めかす三つ折りの手紙をタイムカプセルに入れた不可解な理由について。瞳は自分を陥れるためだと言ったけど、俺は少し違うイメージが浮かんだ」
「一体、どんなイメージ?」
「文面を素直に読むと、茶封筒は瞳に歪んだ愛情を抱いていると思ったほうが自然じゃないかな? バレないように敵を操って瞳を攻撃しておきながら、正義の味方を気取って復讐を代行していく。それで瞳が喜ぶと思い、そして自分も悦に入る」
「それが本当なら、歪で……そら恐ろしいわね」
白川は両手で二の腕をさすった。
「おさらいはこれくらいかな?」
俺はメモ帳を机に伏せて、半分ほど残っていた缶コーヒーを飲み干した。
「今後の方針を決めましょう。これまでと同じように、茶封筒が誰なのかを突き止める事が一番の目標。そのために何から始めればいいか優先順位を決めたいの」
白川は腕時計の時間を確認した。下校時刻までまだ一時間近く余裕があるが、日は既に暮れ始めていた。
「海野洋の現況を確認すれば、きっと次にやるべき事が見つかると思うけど」
「もし海野洋が茶封筒だったらどうする?」
白川は表情を窺うように、俺を見つめて言った。
「瞳を危険にさらすわけにはいかないから、赤の他人の俺が何か理由をつけて電話を掛けてみよう」
「怖くはないの?」
「怖いけど。瞳は友だちだから」
俺は白川の視線がむず痒くなって、窓の外に視線を移した。
「あとは、木田さんのお母さんから借りたアルバムの検証。木田さんと茶封筒は切っても切れないような関係があったかも知れない。写真のどこかに茶封筒が写り込んでいる可能性もある。それと、残りの候補者の電話での安否確認もまだだから」
白川が話し終わると同時に、ドアの向こうから階段を上って来る足音が聞こえた。俺と白川は急いで教科書を出して蛍光ペンを握った。
「おい、お前ら。今日は同好会の初日だから早めに帰れ。一応下校時刻は午後六時だが、暗くなる前に帰ること。わかったな?」
「はい、わかりました」
俺と白川は急いで教科書を鞄に仕舞い、消灯して廊下に出た。
「次からは早めに切り上げて帰宅します。今日は戸締りをお願いしてもいいですか?」
白川はクールな表情で担任の先生に鍵を渡した。
「ああ。二人とも気をつけて帰れよ。中間考査も近いから、余裕があれば佐藤の面倒も見てやってくれ。頼んだぞ」
俺と白川は帰る道すがら、下校時間を利用して今後の方針を決めた。
来週の半ばから中間考査が始まるので、翌日から学校では『自習同好会』の本来の活動をする。週末土曜日に、朝十時から白川家に集合。勉強会も兼ねているが、綿密な打ち合わせをした上で、出来る限り全ての案件を実行するという事で話は纏まった。
最悪の場合、茶封筒にこちらの動きを悟られる危険性があるが、安否確認を引き延ばしたところで調査の進展は望めない。
俺は単純に、一刻も早く白川から茶封筒の影を取り除きたいと思った。それが友情か恋心か分からないが、俺は見返りを求めず、彼女の力になりたいと思った。




