24 掃除とおさらい
終礼が終わり、俺は白川の後を追って職員室へ向かった。
「担任の先生に教室の鍵を借りて来る。少し待ってて」
白川はノックをして職員室の扉を開け、教室の鍵を取りに行った。
成績優秀な白川の要望は、ある程度すんなりと通るのかも知れない。しかし『自習同好会』とは、よく思いついたものだ。学習意欲のある生徒の芽を潰すような教師はまずいないだろう。
「教室は職員室の上。下校時刻は午後六時まで。同好会の生徒は私と一、男女二人だけだから、教室のドアは開放しておく事。戸締り消灯は確実にして、下校前に鍵を職員室の元の場所に返す事。今のところルールはそれだけよ。OK?」
「わかった。秘密基地とはいかないけど、楽しみだ。隙を見て、電気ケトルとティーバッグ、インスタントコーヒーなんかを持ち込んで、寛ぎ空間を演出したいな」
「一応、名目は『自習同好会』だから忘れないようにね。たまに先生が見回りに来るかも知れないから気をつけましょう」
職員室の入り口間近の階段を上ると、短い廊下の左右両側に磨りガラスの引きドアがあった。右の室名札は空白で、左は【職員更衣室】の札が入っていた。
右のドアの鍵を開け、俺と白川は空き教室に入った。見晴らしのよい窓の向こうに正門が見える。左右の壁には少し小さめの黒板があり、隅に掃除用具の入ったロッカー、十数個のパイプ机と椅子が積み重ねて置かれていた。足下を見ると、灰色のリノリウムの床には、綿埃が舞っていた。
「とりあえず窓とドアを開放して、手分けして床を掃きましょう。掃除が終わったら、声が聞こえないように窓を閉めて、窓辺に机と椅子を並べて協議を始めるわ」
白川は教室の明かりをつけて窓を開けていく。俺は机を端に除け、ロッカーから箒二本と塵取りを取り出した。
二十分ほどで簡単な片付けが終わり、窓辺に向かい合わせに机を揃え、俺と白川は椅子に腰を下ろした。
「拭き掃除と備品の持ち込みは次回以降に持ち越しね。今日は今までの調査のおさらいと、私と一の考えをすり合わせてみない?」
白川は開放したドアの向こうを一度確認して、声のトーンを少し落とした。
「わかった。掻い摘んで纏めた事を話すから、誤解があったり足りない部分があったら指摘してほしい」
俺は机のフックに掛けた鞄の中からメモ帳を取り出し、白川に確認した。
「OK」
「瞳と俺は、一先ず茶封筒の候補者を絞る事に重点を置いて資料の分析を進めた。複数の文集からクラスメイトたちの人格を割り出して、茶封筒の人格に近い候補者を六人に絞った。
そして次に、茶封筒と中に入っていた三つ折りの手紙に付いていた指紋とクラスメイトたちの指紋を照合した結果、手紙には指紋が無く、茶封筒には五人の子どもの指紋が付いていた。
この五人は茶封筒の正体を知っている可能性がある。その中で、いじめグループのリーダー的な存在だった木田恵は、中学入学前に学校の屋上から転落死していた事が分かった。さらに先日、川の下流で桐島努の水死体が発見された。
瞳の調べで、担任の先生も卒業式の数か月後に駅のホームから転落して轢死していた事が分かっている。
三人の死が茶封筒の誘導により引き起こされたものだとしたら……これからもクラスメイトたちの犠牲者が増えていくかも知れない」
俺がこれまでの流れを伝えると、白川は頬杖をつき、窓の外を眺めて呟いた。
「安否確認は気が滅入りそうね……」




