表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/94

19 車両の中で

 学校一の美少女の手作りペア弁当を、まさか校内で一緒に食べる日がやって来るとは思わなかった。俺は今日この一時(ひととき)を心に刻んでおこうと思った。


 白川(しろかわ)は微笑し、(うるし)塗りの箸を取り出して食べ始めた。

「明日は下心(したごころ)無く木田(きだ)さんの弔問に行きたいの。彼女の話が聞ければありがたいけど、残された人の気持ちを無下(むげ)には出来ないから」


 俺は病みつきになりそうな生姜(しょうが)焼きの肉と御飯を口一杯に頬張りながら(うなず)いた。

(はじめ)も一緒に行かない? (そば)にいるだけで何もしなくていいから」

白川は箸を休め、俺をじっと見つめて言った。


「えっと……」

「その生姜焼き、お肉の値段も手間も結構かかったわ。普段よりも大分(だいぶ)早く起きたし。空はまだ薄暗くて、私は眠い目を(こす)りながら……」

「わかった、明日一緒に行く」


 翌日。俺は早めの昼食を済ませた(あと)、待ち合わせ場所の伊波(いなみ)駅、西側改札口に向かった。

 白川が昔住んでいた地区にある木田恵(きだめぐみ)の家は、ここから電車で二時間以上かかる。先方に連絡して午後三時に訪問する予定で了承を得たので、白川との待ち合わせ時刻は正午に決まった。


 時刻は十一時半。毎度ながら少し早く着いてしまったので、自動販売機で冷たいミルクコーヒーを買って花壇に向かうと、ロータリーの右側から黒いワンピースに腰丈(こしだけ)のジャケットを羽織った白川が歩いて来た。タイトで落ち着いたデザインの洋服が、すらりとした細身の白川をより一層引き立てていた。


「ごめん、待たせた?」

きっちりと髪を後ろで(たば)ねた白川は、いつもより少し大人びて見えた。

「いや。今来たところ。月並みだけど、服がすごく似合ってる。引き立て役の俺は無用だな」

俺は父親から借りた時代遅れのスーツを着ていた。


(はじめ)もすごく似合ってる。学校一の美少女と(うわさ)される私が言うんだから間違い無いわ」

白川は俺の首に顔を近づけて、ズレたネクタイを(ととの)えながら言った。髪から(ほの)かにシャンプーの香りがした。高鳴る鼓動を(おさ)えるように、俺は思わず息を止めた。


 目的地へ向かう電車の中で、俺と白川は座席に並んで腰を下ろし、周囲に気を配りながら事前のすり合わせをした。


 白川の仮名(かめい)山本梓(やまもとあずさ)。小学校卒業前に引っ越したので、卒業アルバムには載っていないとそれとなく先方に伝えておいた。木田恵(きだめぐみ)とは(かかり)活動で何度か会話を交わした程度の(つな)がりを持つ。俺は山本梓(やまもとあずさ)の友人で、同窓会の企画を手伝っているという設定だ。


「昨日も話した通り、木田さんの死因をこちらから無理に詮索するつもりは無いわ。素直にお悔やみを伝えたいの」

(ひとみ)は冷静に当時を振り返って、木田恵(きだめぐみ)への認識が変わったみたいだな。呼び捨てから()()付けになってる」


「木田さんが私に嫌がらせを始めたのは、私がクラスの(みんな)に心を開かなかった事が原因だとずっと思い込んでいた。だけど別の見方もあると思えてきたの。

誰かが裏で糸を引いていて、木田さんを筆頭に、いじめグループを(あやつ)っていたんじゃないかとね」


 風景と重なるように反射した白川の顔は、怒りとも悲しみとも取れない複雑な表情をしていた。俺は掛ける言葉が見つからず、ただ息を殺して黙り込んだ。


 白川はゆっくりと息を吐いて、車窓に流れる河川の景色を眺めたまま(つぶや)いた。

「私には、全てを()()()が引き起こしたマッチポンプのような気がしてならないの」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ