16 計画とサンドイッチ
改めて茶封筒の候補者九人の名前と当時の顔写真を確認した後、白川は話を切り出した。
「茶封筒の正体を突き止めるためには、ここから更に候補者を絞らないといけない。この九人の安否確認も気になるから、そろそろ現場に足を運ぶっていうのはどう?」
俺は白川が捻じって固めていた一口チョコのフィルムを掻き集めてゴミ箱に捨てた。片付けたテーブルの上に、クラスメイトの一覧表を広げた。
「この九人は青と赤のグループに分かれる。青は茶封筒のカモフラージュに利用された者たち。赤は茶封筒に近い人格を持った者たち。
瞳が茶封筒の気持ちになって考えると、どちらのグループを先に報復すると思う?」
俺が問いかけると、白川は最後の一口チョコを口に入れ、捻じっていたフィルムを俺に渡して答えた。
「青だと思う。青は少なくとも封筒を触った時、茶封筒と顔を合わせていたはず。つまり茶封筒が誰か、知っている者たちよ」
「青のグループはタイムカプセルが開封され茶封筒の手紙が公開された時、その封筒を見て、手紙を書いた人物を連想する恐れがある。茶封筒にとってそれは都合が悪い」
俺が白川の選んだ理由を補足して言うと、彼女はこめかみを押さえて口を挟んだ。
「ちょっと待って。そもそも茶封筒は、どうしてそんな都合の悪くなるような手紙をタイムカプセルに入れたの?」
「それは……茶封筒にしか分からない。何か理由があるはずだけど、今はその動機を探る段階じゃない。俺が茶封筒の気持ちになって報復するとしたら、早めに目障りな青のグループからやる。
桐島は既にいない。安否確認をするなら、安藤芹、木田恵、根本遥、渡辺凛。この四人に絞って進めるべきだと思う」
俺と白川の意見は一致した。中でも渡辺凛は茶封筒の候補者も兼ねているので、過度な接近は避ける事。そして、調査の目的がバレないように細心の注意を払って行動する事を確認した。
「四人の安否調査は近いうちに準備が整い次第、お互いの都合を合わせて実施する。それでOK?」
「わかった」
俺が答えると、白川は俺にそのまま休んでいるように告げ、階段を下りて行った。時計を見ると、正午を少し過ぎたところだった。
階段の下を覗くと、白川が右手にドリップコーヒーのサーバーと砂糖とミルクとカップ二つが載ったお盆、左手にたくさんのサンドイッチが並んだバスケットを持って、よろよろと階段を上ろうとしていた。
「危なっかしいから手伝っていいか?」
俺はそろりそろりと階段を下りて行き、右手のお盆をつかんだ。
「ありがとう。今日は私の部屋で食べましょう」
小さな円いテーブルの真ん中に、ボリュームのあるソースが浸みたカツサンド、レタスとトマトが色鮮やかなトマトサンド、フレッシュな香りを放つハム卵サンドが所狭しと並んでいた。様々な食材の香りと一緒に、食欲をそそるパンの芳香が部屋の中に広がった。
白川はカップに熱いドリップコーヒーを注いで、俺の前に置いた。
「ミルクと砂糖はお好みで。サンドイッチは好きな物から食べて」
「いただきます!」
俺はカツサンドにかぶりついた。しっとりふんわりとしたパンの歯触り、そして濃厚なソースが衣に浸み、旨味が詰まった豚カツが口の中で転がった。噛むほどに美味さが広がり蕩けていく。
レタスとトマトは瑞々しく新鮮で、シャキッとした歯ごたえと酸味の効いた果肉をしっとりとしたパンが上手に纏めていた。
薄切りハムは三重に重ねられ、塩気と歯触りが心地よく、ピリリと辛子が効いた卵サラダは舌に絡みつき、後味を楽しませてくれた。
最後にミルクと砂糖多めの、香ばしいドリップコーヒーをちびちびと飲む。大きく息を吐くと、ほっこりと温かい気分になった。