15 九人の候補者
タイムカプセルに紛れ込んでいた差出人不明の茶封筒。中に入っていた三つ折りの手紙には、いじめグループと、見て見ぬふりをしていたクラスメイトたちへの報復を仄めかした文章が綴られていた。
茶封筒には小さな指紋が多数付いていて、クラスメイトたちの手紙から採取した指紋と照合した結果、五名の児童の指紋と一致した。
一方、中に入っていた手紙には指紋が付いていなかった。白川は次の方針を決める前に、改めて俺に意見を求めた。
「前回一は、茶封筒についた指紋を覆い隠すために、他のクラスメイトたちに封筒を触らせたんじゃないかと言ったわね。自信が無さそうに」
「あれは茶封筒が封筒に指紋を付けてしまった場合の仮定で話した。その仮定が正しいとすれば、指紋を付けた五人の中に茶封筒がいるという事になる」
俺は白川の用意していた缶コーヒーを開けて、喉を潤した。白川は頷き、腕を組み目線で俺に続きを促した。
「俺は手紙に指紋を付けなかった茶封筒が、そんなへまをするはずがないと思い直した。茶封筒に五人の指紋を付けさせたのは、タイムカプセルに入れるもっと以前に、別の方法で付けさせたんじゃないかと思った」
「当然、やって見せてくれるわよね?」
白川は訝し気な眼差しで俺を眺めた。
俺は手をセーターの袖で隠して、鞄から茶封筒を取り出した。
「封筒の中にチョコレートが入っているから、好きなのを食べていい」
受け取った白川は、茶封筒の中からフィルムに包まれた一口チョコを取り出した。
「なるほど。受け取った人の意識はチョコレートに向けられて、手渡した人の手元や封筒には意識が向かない」
「茶封筒は一人一人に渡したか、五人に回して渡したか分からないけど、同じような方法で指紋を付けさせて茶封筒を回収した可能性もある。だとすれば、指紋を付けた五人の中に茶封筒はいない」
白川は一口チョコを口に放り込んだ後、床に置いていた茶封筒の候補者の一覧表に目を通した。
「以前に絞った茶封筒の候補者は、海野洋、桐島努、林亜弓、村山明、矢口進、渡辺凛の六人。桐島努と渡辺凛の二人は、青いチェックとダブってる」
白川はクラスメイトの一覧表に、赤いボールペンでチェックを入れた。俺も同じように、呼ばれた名前に赤でチェックを入れた。
「桐島努は既にいないが事故の可能性もある。今の段階で、まだ候補からは外せない。青と赤のチェックを入れたクラスメイト。安藤芹、海野洋、木田恵、桐島努、林亜弓、村山明、根本遥、矢口進、渡辺凛の九人に絞って次の検証に駒を進める。それでどうだ?」
白川は納得した顔をして、封筒のチョコレートを鷲づかみにして次々と口に入れた。
「なかなか美味しい。どこで買ったの?」
「家の近くの生協。お土産にまた買ってこようか?」
「約束よ。経費に入れておいて」
白川は本棚の左下隅に手を伸ばし、卒業アルバムを取り出してテーブルの上で広げた。
学校紹介のページの後に、卒業生の各クラスの集合写真と小グループに分かれてスナップ写真が見開きで載せられていた。
「私のクラスは六年二組。三年経つと顔も髪型も体つきも結構変わってしまう。参考になるか分からないけど、候補者の雰囲気だけでも知っておいて」
白川は候補者の名前と顔写真を俺に説明していったが、あまり耳に入らなかった。
俺は後列に佇む、人を寄せ付けないような冷たい顔の少女から目を離す事が出来なかった。