13 同好会
「茶封筒の正体を突き止めるためには、地道で面倒な作業を避ける訳にはいかない。一の時間と労力を奪う事になるけど……構わない?」
白川は布手袋を両手にはめ、俺に確認した。
「確かにこの調査は長引きそうだ。しばらくしたら中間考査がやって来る。付きっ切りで手伝うのは正直言って厳しいな」
俺も白川に合わせて布手袋をはめた。
差出人不明の茶封筒には小さな指紋が数多く残っていた。その中に一人でも当時のクラスメイトの指紋と一致するものがあれば、この茶封筒は卒業式の当日に、他の手紙と一緒に埋められたという事になる。
「私は時間と労力に糸目をつけない。タイムカプセルの中の手紙からクラスメイト一人一人の指紋を採取して、茶封筒に付いていた小さな指紋と照合するの。誰の指紋が付いていたかが分かれば、きっと次にやるべき事が見つかるはずだから」
俺は作業を始めようとした白川の手を咄嗟につかんで止めた。白川はぽかんとした表情をして固まった。
「あまり根を詰め過ぎると、疲労で検証の精度が落ちるかも知れない。俺も手紙の半分を手伝うから、きちんとオン・オフを切り替えてやらないか?」
「どういう事? 具体的に言って」
白川はさっと手を離して姿勢を正した。
「瞳も俺も帰宅部だから、非公認の同好会として活動するのはどうだろう? 会長は瞳で、活動の方針やスケジュールを主導する。迷ったら副会長の俺がサポートする。考査前は他の部活と同じように、活動を一時的に休止する事」
俺の意見を聞いて少し考えた白川は、テーブルに両肘を立て、両手を口元で組んだ。
「考査前は二人で勉強会をするのはどう? 勉強の合い間に、調査の意見交換が出来るかも」
「学校の首席に勉強の面倒を見てもらうのはありがたいけど、その勉強会……瞳に何かメリットはあるのか?」
俺がコップに麦茶を注いで尋ねると、白川は麦茶を一口飲んで俺に言った。
「私は一に一目置いているの。うまく言えないけど、あなたには物事を少し離れた場所から冷静に見る力がある。今だって、熱くなって暴走しそうになった私を止めてくれた」
「過ぎたるは及ばざるが如し――かな」
俺も一息入れるように、麦茶を飲んだ。
結局その日の午後は、タイムカプセルに入っていたクラスメイトの手紙から指紋を採取する作業にまるまる時間を費やした。経費削減のため、指紋の転写はセロテープで代用し、クリアファイルを切断して作ったシートに名前を書いて貼りつけていった。
「あとは地道に茶封筒に付いていた小さな指紋と照合するだけだ。クラスメイトの人数は、瞳を含めて33人。担任の先生の指紋も何かに使えるかも知れないから一応採った。合計34人の指紋を二人で割ると17人。茶封筒の指紋を貼った黒画用紙をコピーすれば、手分けして照合作業が出来る。近くにコンビニはあるかな?」
「コンビニに行かなくても下にコピー機があるわ。両親が仕事でたまに使うの。私がコピーしてくるから、一は休んでいて」
白川は床に置いていた黒画用紙を丸めて、階段を下りて行った。
窓の外を見ると、日が暮れかけていた。俺は机の上に纏めてあった指紋のシートを17枚数えてクリップで留め、鞄の中へ入れた。
白川は勢いよく階段を駆け上がって来て、俺に指紋のコピーと缶コーヒーを渡した。
「今日は遅くまでありがとう。缶コーヒーは帰りに飲んで。指紋照合の期限は次の土曜日午前十時。私の家に集合で昼食は必要なし。OK?」
息を切らした白川に、俺は笑顔で返事を返した。