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02.病気を用意したみたい


 学院内の王国文化資料館にある礼拝堂で、このままではホリーがひどいダメージを負うという話を聞いた。


 けれどもそれは氷神さまがプリシラに教え込んだワザで何とかなるという。


 これで本題は終わりだろうかと思ったら、ソフィエンタと視線が合う。


「ウィン、まだ本題は残ってるわよ?」


「え゛……、あー……、そういえばそもそも『赤の深淵(アビッソロッソ)』が妙な事を始めたからこうなってるのか」


 けっこう面倒くさいけれど、あたし達が全部背負う必要なんてないはずだ。


 さっきまでのやり取りで、あたしは学んだんですよ。


「それなんだけれど、アレスマギカに説明して貰いましょう」


「分かりました。さて――それでディアーナ、礼拝堂に来たのはいい判断だったね」


 そう言って魔神さまは機嫌良さそうにディアーナを褒める。


 褒められたディアーナは嬉しそうな笑顔を浮かべている。


「はい! 連絡が取れないのはマズいと思ったんです」


「そうだね」


 そう言って魔神さまはあたし達を見渡す。


「プリシラが踏んだ、『骨ゴーレム』を転移させた魔方陣だけれど、『赤の深淵』が設置したものでね」


『…………?』


 なんでそんなことをする必要があるのかとあたし達が疑問に思っていたら、魔神さまからすぐ説明があった。


 どうやら邪神群の指示で、巫女や(かんなぎ)が神々に連絡を取れないようにする意図があったらしい。


「結果的にはあの子たちが意外とお上品で助かった感じだねえ。礼拝堂をそもそも破壊していたら、ボクたちと連絡をとるのはもっと後になっていただろうし」


「でもアタリシオス、礼拝堂の残骸でも祈りを込めれば、この子たちなら連絡は出来たんじゃないでしょうか?」


 火神さまに氷神さまが問うけれど、火神さまは笑うだけで返事を避けた。


 あたし達に言いたいことがあるわけでは無さそうだったけれど。


「祈りの伝え方については興味がある人たちは、王立国教会で訊いてみてください。話を続けます――」


 そう言って魔神さまは話を続ける。


 そうしてあまり知りたくない話を知ってしまった。


 いや、フリズのことがあるから、いま知ることが出来たのはいいことなんだろうけれども。


「じつは学院内で『赤の深淵』が面倒なことを始めてね」


『面倒なこと?』


「うん。きみ達の学院の、“附属病院の屋上”で儀式を始めた。生贄はフリズ・ヴァルターという学院の女子生徒だね」


 やっぱりか――


 それを聞いてあたし達は考え込んだけれど、あたし的には直ぐにイヤなことを思いつく。


「まさか病院の患者を人質にしたか、生贄の予備にしてます?」


 あたしの言葉にディアーナとコウは息を呑む。


 プリシラは動揺していないけれど、氷神さまから話を聞いているのだろうか。


「生贄の予備では無いみたいだ、人質が正解だね。しかもその方法が、嫌らしいというかなんというか……」


 魔神さまは困った顔をしてため息をついた。




 生贄の予備などで病院の患者などを押さえられたら、救出作戦は難易度が高そうだ。


 人質ということなら拘束されていたとしても、意識を奪ったりしている可能性は低いんじゃないだろうか。


 あたしは反射的にそう考えてしまったけれど、話はそこまで単純では無いみたいだ。


「ちょっと特殊な方法で、附属病院にいる人たちをまるごと操り人形にしているようなんだ」


 そう言って魔神さまはソフィエンタに視線を向ける。


 ソフィエンタは頷き、説明を引き継いだ。


「どうやら邪神群が魂に感染する病気を用意したみたいなの。もう少し詳しく言うと、新型の『魂魄感染型ウイルス』みたいなものね」


 ウイルスって言われても、あたし以外は分からないんじゃないかなあ。


 そう思っていたら火神さまが朗らかに告げる。


「要するに、『魂に感染する風邪』みたいなものを邪神群が作っちゃったのさ」


「それに罹ると操り人形なんだね、アタリシオス様」


「どうやらそのようだね」


 コウからの確認の言葉に火神さまは肩をすくめてみせた。


 いや、ちょっと待って下さいよ。


 それって伝染性の魅了の魔法みたいなものじゃないだろうか。


「ウィンがいま考えたことが正解だよ。魔法的にいえば確かに『あっという間に伝染する魅了の魔法』だ」


 あたしの思考を読んだ魔神さまが補足してくれた。


『うわぁ……』


 それは確かに対処が面倒くさいぞ。


 ソフィエンタがさらに追加で説明してくれたけれど、すでに病院の医師やスタッフ、職員と患者と訪問客全員が感染しているらしい。


「――それに加えて、闇ギルドの突入部隊も混ざってるわね」


「はあっ?! なんでここで闇ギルドが出てくるのよ?」


 あたしの疑問には氷神さまが応えてくれた。


 闇ギルドの元締めはいま王都に居て、そいつが高性能の魔道具を使ったという。


 その結果環境魔力の怪しい流れを察知して、『赤の深淵』を仕留めるために突入部隊を編成し、送りこんだら操り人形になったそうだ。


『…………』


 それを聞いたあたし達は絶句していたけれど、何とかあたしは思考を再起動する。


 人質は人質であるから意味があるはずだ。


 そう考えれば簡単には使い潰されたり、殺されることは無いんじゃないだろうか。


 それよりも面倒なのは通信妨害だとおもう。


 場合によっては附属病院に、状況が分からないまま『骨ゴーレム』との戦闘の負傷者が担ぎ込まれて、そのまま取り込まれたらヤバそうだ。


 それが続いてしまったら――


 あたしが思わず頭を抱えると、ソフィエンタが苦笑してディアーナとコウとプリシラにあたしの想定を説明してくれた。


「それは……、確かに不味いけれどもう一つ嫌なことを思いつきました……」


「言ってごらんコウ」


 コウは何やら気が付いたことがあるらしい。


 火神さまがそれを説明するよう促すけれど、コウの表情は暗い。


「はい。人質のフリをして『赤の深淵』の連中がまぎれていたら、区別するのが大変そうです」


「現場で初手を取られる可能性がありますね」


 コウの指摘にディアーナが頷くけれど、あたしの場合は気配を消してスルーする手がある。


 魔神さまはさっき、『赤の深淵』が“附属病院の屋上”で儀式を始めたと言ったか。


 それなら壁を駆けていきなり屋上に上がればラクが出来そうだ。


 でもそのためには大きな前提がある。


「ねえソフィエンタ、その『伝染する魅了魔法』だけど、あたし達も罹っちゃうの?」


「いい質問ねウィン。そこに対策するために、みんなに集まってもらったのよ」


 ソフィエンタがそう告げると、他の神々は頷いた。




 魔神さまが補足するように口を開く。


「魂に感染する病気だけれど、魔法で何とかしようと思っても対策できないんだ。残念ながらね」


「それは何故ですか? 魔法だって魂に働きかけることは可能だと理解していたと申し上げます」


 プリシラが何やら関心を持ったみたいだ。


 ディアーナも何やら頷いているぞ。


 あまり魔法のマニアックな説明をされても、あたしの場合はついていけるかかなり不安なんですよ。


 あたしが微妙にソワソワしていると、神々はみんなあたしに生暖かい視線を向けた。


 だって仕方ないじゃないですか。


「可能かどうかでいえば、かなり手間がかかる。人数が多いと現実的じゃあ無いんだよ。詳しい説明は魔素以外の話も関わるし、今回は本題じゃないから省くね」


「「はい」」


 よーし、それじゃあもっと簡単な説明を期待するぞ。


「まったくウィンは現金ねえ。――魔法では対策がムリとは言わないけど面倒そうだったから、手っ取り早くあたしが『特効薬』を用意したわ」


 そう言われても、邪神群が仕掛けたとなれば、非主流派でも神々が用意したものだ。


 それを理解しろと言われても困るし、あたしはまだ人間を辞めて無いんですよ。


「やれやれ――専門的には『魂魄感染型ウイルス対抗ウイルス』といいます」


『…………?』


 ほらね。


 いちおうあたしはイメージできたけれど、ディアーナとコウとプリシラは首を傾げている。


 ソフィエンタは苦笑しながら告げる。


「『特効薬』と覚えてくれればいいけれど、使い方はカンタンです」


 そう言ってソフィエンタは説明する。


 特効薬を持った者が相手に触れると、一時的な称号がステータスに現れる。


 『神々の仮守(かりもり)』というステータスが出ていれば、今回の『伝染する魅了魔法』は効かなくなるらしい。


「どう? カンタンでしょ?」


 そう言ってソフィエンタは歯を見せて笑った。





お読みいただきありがとうございます。




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