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10.順調すぎる気がするの


 検問をしていた近衛騎士団の人たちに直ぐ戻ることを伝えて、あたし達は食堂前から移動を始める。


 直ぐに目に付くのは食堂前に並ぶ石柱群だ。


 あたし達の身長ほどの高さで、太さは地球の電柱ほどだろうか。


 これは普段見かけないものだけれど、同じ個所に路面から何本も生えてバリケードのようになっていた。


「確かにこれは防御陣地だね」


「悪くねえが俺様が作るなら、魔法を隙間から撃てるようにもうちょっと間を開けるんだぜ」


「でも多分これは、万一の場合に壁として使うためなんじゃないかな」


 パトリックとマクスとコウがそんなことを言いながら通り過ぎる。


 あたしとしてはこれが使われる事態はゴメンなんですよ。


「どうしたんだいウィンちゃん」


「あ、いえ。防御陣地を作ること自体は賛成なんですけれど、この石柱の柵が使われなければいいなって思っただけです」


 エルヴィスにあたしが応えるとディアーナが苦笑いを浮かべた。、


「わたしもそう思いますよウィンさん。『骨ゴーレム』については、学院内に侵入させたくないですよね――」


 ディアーナの言葉に頷きつつ、学院の先生たちなら大丈夫じゃないかと考えてしまう。


 あたしが知っている中でも、ディナ先生は白梟流(ヴァイスオイレ)の技で文字通り矢を雨のように降らせるだろう。


 パーシー先生は罠魔法師のスキルで設置型の魔法を仕掛けて、『骨ゴーレム』を一網打尽にしそうだ。


 マーゴット先生は公国語で『ピンク色の悪夢』という魔導鎧の性能試験を始めそうだし、『死神』とかいう剣型の飛行する魔道具を使うかも知れない。


 他にも体術の先生たちだとか、魔法実習の先生たちだとか、広域魔法研究会の顧問の先生だとか色々控えている。


「もしかしたら後先考えなければ、『骨ゴーレム』の制圧自体は先生たちには簡単なんじゃないかしら?」


「それはボクも同感かなウィンちゃん。むしろ学院構内に入られたら、どこに誘導するかで後片付けの難易度が変わる気がするかな」


 あたしの言葉にエルヴィスが、イケメンスマイルを浮かべながら微笑んだ。


 あたしには特に何も効果を及ぼさなかったけれども。


 食堂の建物から離れて構内を移動するけれど、さっきまで鳴ってた鐘で注意喚起がされたのか生徒の姿が見られない。


「静かですね。こうして歩いていると、表通りが『骨ゴーレム』で大変なことになっているなんて想像できないと感じられます」


「全くだぜ。辛気臭えったらねえんだぜ」


 プリシラが少し悲しげな表情を浮かべると、マクスが同意してみせる。


 そして奴の言葉にホリーが笑みを浮かべた。


「ふーん? マクスでもさみしいって感じることがあるのかなー?」


「ホリーよお前、俺様を何だと思ってるんだぜ? 目の前を見りゃあどう言い換えても非日常なんだぜ。おかしい感じがするのは当然なんだぜ」


「マクスが虚勢を張るのは時々あるよねー」


「うっせえ、俺様のは美意識っていうんだぜ?」


 何やらよく分からない方向でマクスが取り繕っている感じがするけれど、人気(ひとけ)が無い構内に侘しい感じがするのは事実だ。


 あたしやディアーナはホリーとマクスのやり取りに苦笑しつつ、みんなと歩を進めた。




 プリシラが身体強化で高速移動できないから、あたし達は歩いて移動している。


 それでも学院構内を進むと、図書館までは直ぐに辿り着く。


「図書館の裏手に回り込むと、直ぐに到着すると説明します」


 そう言ってプリシラが案内してくれるので、あたし達はぐるっと図書館を回り込む。


 すると普段意識することは無いけれども、歴史を感じるけっこう大きな建物がある。


「この建物が、目的の王国文化資料館であるとお伝えします」


 そう言ってプリシラは建物の表にある金属プレートを手で示した。


「プリシラはここを知っていたけれど、中に入ったことはあるの?」


「入ったことはあると回答しますウィン。この王国文化資料館には、人形や縫いぐるみの展示室があるのです」


 彼女は少しだけ誇らしげにそう説明して、シャキーンと目を輝かせた。


 そうか、プリシラはカワイイものを学院内で探していたら辿り着いたんだな。


「もしかしてけっこう期待できるの?」


「このような時で無ければ、一見の価値があると回答します」


 そう言って彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 プリシラの説明が途切れたところでディアーナが彼女に確認するけれど、ウィクトルが言っていた祭壇は建物の一階にあるという。


 彼女はその祭壇も見学したことがあるらしい。


 念のため建物の中の気配を確認してみるけれど、特におかしな感じはしない。


「気配を読む限りでは、建物の中には不審者は居ないみたいね」


 あたしの言葉にディアーナやエルヴィスやコウが頷く。


「わたしも同感かなー。でも何となく、順調すぎる気がするのよねー」


 そういうことはフラグだから言わないでほしいですホリーさん。


「なんだホリーはビビってるんだぜ?」


「はははー、違うよマクスー。危機管理って奴だよー」


「危機管理かどうかは後で考えるとして、警戒しながら進もう」


 ホリーとマクスのやり取りに、パトリックが笑みを向ける。


 彼の言葉にあたし達は同意して、建物の中に入った。




 資料館の中はあたし達の教室がある建物と似たような様式をしている。


 歴史を感じさせる建築だけれども、受付にも人の気配がない。


 建物の表玄関は施錠されていなかったので、あたし達は入ることが出来たけれど、ちょっと不用心かなと思う。


「誰も居ないけれど、勝手に入っていいのかしら?」


「別にいいんじゃねえか? さっきの注意喚起の鐘で食堂なり管理棟なりに職員は移動したと思うんだぜ」


 確かにそれはそうか。


 でもカギが開きっぱなしなのが、何となくあたし的には引っ掛かっていた。


「祭壇の展示室はこちらにあると案内します」


 そう言ってプリシラが手で示すので、あたし達は彼女に連れられて建物一階の奥へと進む。


 廊下を進むとすぐに展示室の一つに辿り着いた。


 入り口を入ると、展示室と言ってもそこは教会の礼拝堂を思わせる一室だ。


「広さは教室二つ分くらいと言ったところだね。思っていたよりは広いかな」


「移築して来たって話だったけれど、確かにこれはこのまま王都の街なかにあってもおかしくない礼拝堂ね。――奥に祭壇があるわね」


「ここから見る限りでは、さすがに魔神さまの神像は無さそうですね」


 エルヴィスとあたしの言葉で、ディアーナが部屋の奥に視線を向けて苦笑いをする。


「祭壇の詳細は確認すべきと提案します」


 最初に室内に入ったプリシラはディアーナの言葉に頷いて、部屋の奥の方に歩いていく。


 あたし達も付いて行こうと思った矢先、プリシラが部屋の中央に差し掛かったところで石材の床の表面に紋様が現れて光る。


「魔方陣?」


 彼女が思わず呟いたのと同時に、プリシラの眼前に身長三メートルほどの白い甲冑を着込んだ戦士のようなものが現れる。


 あたしが頭の中で刹那に疑問符を浮かべたところで、最初に動き出したのはホリーだった。


 ホリーは何も告げずにプリシラの左手を後ろから掴み、半ば強引に彼女をあたし達の居る方に引っ張り込む。


 その時には白い甲冑は剣を振りかぶり、今にもホリーに斬りかかりそうだった。


 事ここに至り反射的にあたしは内在魔力を循環させてチャクラを開く。


 身体強化をして動き出したまさにその時、プリシラが自身の前にいるホリーに手を伸ばした状態で何かを叫ぼうとしたのが視界の隅に入った。


 すると神気が走ったのが感じられ、気が付いたらあたしは別の場所に居た。




「ホリー!!」


 プリシラが彼女の名を叫んだ時には、すでに周囲の様子が切り替わっている。


 そしてプリシラの前には一人の女性の姿があった。


 高貴さを感じさせる青いドレスを纏うその姿は、その視線の強さもあって凛とした美しさを感じさせる。


 それ以前に女性は、ただならぬ気配を身に纏っていた。


「こんにちはプリシラ。あなたにとっては初めましてね」


 突然の挨拶にプリシラは戸惑う。


 自身の知り合いに、このようなただならぬ気配の女性がいただろうか。


 いや、ただならぬどころでは無い。


 教会で感じたことのある、神の気配がする。


 そこまで認識してから、プリシラは前に伸ばしたままだった手を身体の横に下げた。





お読みいただきありがとうございます。




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