09.置き去りで参加できない
「もしかして皆さんは、学院内にある礼拝堂をご存じないのですか?」
はて、そんなものはあっただろうか。
「構内に礼拝堂などございますの?」
キャリルがウィクトルに問うけれど、みんなも首を傾げている。
エルヴィスも知らないみたいだから、先輩たちでも知らないような場所にあるんだろうか。
その反応を見てウィクトルが朗らかな笑みを浮かべる。
「はい。――と言っても、厳密には国教会が管理している礼拝堂という訳では無いようですが」
ウィクトルの言葉に反応したのは、ディアーナと一緒に来ていたプリシラだった。
「もしやそれは、王国文化資料館にある祭壇のことでしょうかと確認します」
「その通りです。王国様式の祭壇がありますよ。小振りですが神々の像もありますし、間違いなく過去に王都内で使われていたものです――」
ウィクトルの話によると、王都の下町で使われていた礼拝堂の祭壇を、建て替えするときに移築したものだという。
神官が儀式などに使っていたもので、いまでは礼拝する者は学院内でもごく一部らしい。
「よく知ってたわねウィクトル」
「我が家では神々への祈りは、血の一滴と同じものですから」
「ヤベエんだぜこいつ……」
彼の言葉にマクスが絶句しているけれど、気持ちは分からなくもない。
ウィクトルの一族は、『白の衝撃』と関係が深い。
『白の衝撃』はユリオ達が色々と戦闘狂で脳筋な感じだけれど、その根っこは宗教的な秘密組織だったか。
でも今回はいい情報をもらえた気がする。
「確かにそちらで祈りを捧げてみるべきかも知れません。わたし、行ってみます」
「それならぼくもお供します」
ウィクトルがそう申し出てくれたけれど、案内を買って出ているつもりなら止めた方がいいだろう。
「待ちなさいウィクトル、あなたはフリズ先輩が学院内で見つかった場合にそっちに行きなさい」
「そうですわね、部活の後輩なら先輩のピンチに助けに行くのは正義ですわ」
あたしとキャリルの言葉に、ウィクトルはハッとした表情を浮かべる。
「分かりました、そのようにさせていただきます。――ところでレノさん、いや、レノックス殿下」
「レノでいい。どうしたウィクトル?」
「あなたがこの場の防衛のカギを握っていると判断します。そこで確認ですが、兄たちに魔法で信号を送って良いでしょうか?」
ウィクトルの言葉にレノックス様は考え込む。
「信号のう、どうやるのじゃ?」
ウィクトルとレノックス様のやり取りに、横からニナが口を挟んだ。
確かに魔法による連絡が妨害されている状況で、どうやるのかは興味がある。
「【光線】を覚えていますので、兄たちが分かるように空に向かって連続で放ちます。その光跡がそのまま信号になります、見ていればですが」
「光魔法にそんな使い方があるんですのね!」
ウィクトルの説明にキャリルが食いついた。
それに対して彼が頷いたけれど、キャリルは何やら「集団で広域に突入の信号を放つには合理的ですわ」とか呟いている。
我がマブダチは、誘拐犯の制圧作戦でも脳内で計画し始めたのでしょうか。
レノックス様は少し考えた後に、ウィクトルに信号を送るように指示していた。
結局その後、ディアーナとエルヴィスが学院構内にある王国文化資料館に行くことになった。
彼女が魔神さまと連絡が取れないという状況はマズいだろうということで、その場のみんなも意見が一致したからだ。
目的の資料館についてはプリシラが案内を買って出た。
ディアーナとは同じ実習班の仲間だし、力になりたいと言っている。
場合によっては『骨ゴーレム』が侵攻してくる可能性もあるとホリーが説明しても、それでも行くのだと主張し、プリシラの護衛でホリーも同行することになった。
ディアーナはさらにあたしとコウに同行を求める。
巫女仲間のあたしと、火神の覡であるコウも行った方がいいだろう。
レノックス様は万一の護衛の戦力的に、妥当な判断だと言ってくれた。
コウが行くということで、何故かパトリックとマクスが同行を申し出て、それも決まった。
パトリックの場合は単純な善意の気がするけれど、マクスの場合はクラス委員長であるプリシラや一学期の委員長のサラとはよく話している。
たぶんプリシラのことを奴なりに心配しているんだろう。
ここまではすんなりと話がまとまったんですよ。
「わたくしは行かなくてもいいんですのウィン? ディアーナ?」
キャリルがどうにも同行する前提で、キラキラした笑顔をして訊いてきた。
現時点でもプリシラがやや実戦に不安なだけで、他は自分の身は守れそうなんだよな。
「大丈夫じゃないかしら。何をそんなに張り切ってるのキャリル?」
「上手く言えないのですが、こういうときにウィンを向かわせるのが心配なのです」
「キャリル……、でも学院の構内なのよ?」
何だよらしくないぞキャリル、あたしがそんなに頼りないのだろうか。
そう思ってしまった時期がありました。
「その通りですわウィン。ですがこういう時に何かに巻き込まれて、それを解決して強さを増すのがあなたですのよ?」
いやちょっと待って欲しい。
あたしの心配というよりは、キャリルとしてはイベントごとに置き去りで参加できないノリで心配していたのか。
あたしは思わず額に手を当てた。
「ちょっと待とうキャリル、俺とお前はレノのバックアップで残った方が良くないか?」
「バックアップですの?」
カリオがキャリルに物言いをつけたけれど、彼女は首を傾げている。
「ああ。レノは指揮権の関係でこの場を動けないはずだぞ」
「それは確かに事実だな」
カリオの言葉にレノックス様が頷く。
「だからレノの補佐を出来る人間が周りにいた方がいい。それにあれ……」
そう言ってカリオはパメラ達の方に視線を向ける。
さっきキャリルが声を掛けて励ましていたけれど、フリズがまだ見つかっていない。
礼法部の人たちは一様に沈んだ表情をしていた。
「確かにそうですわね。その通りですわカリオ」
キャリルはそう言って頷いた。
同行者という面ではこれで絞り込めたと思うのだけれど、あたしとしては懸念がある。
こちらを窺うように視線を向けて、聞き耳を立てている女子生徒たちがいるのだ。
たぶん彼女たちはエルヴィスのファンなんだよな、視線の動きとかで何となく察せられるんですよ。
追いかけて来られたら面倒なことが起こる予感がする。
「ねえレノ、あたし達はディアーナの要請で構内を移動して戻って来るけど、いま食堂は拠点化してるのよね?」
「ああ、食堂がある建物を囲むように地魔法を使って防御陣地を作っている。加えて食堂の入り口では、秘密組織構成員などの侵入を警戒して検問を設置した」
「検問なん?」
レノックス様の言葉にサラが不思議そうな声を上げる。
「ああ、不要不急の用事がない限りは食堂で待機してもらう」
「ボクらはレノの名を出せばいいのかな? でもそれだと君に許可を取ったとか言い出す生徒が出ないかい?」
エルヴィスが心配そうな表情で問うけれど、それはちょっと心配だろうか。
だがレノックス様が笑顔で応える。
「大丈夫だエルヴィス先輩。さすがに我が家の手勢に、オレの名を勝手に使って検問を通ろうとするような、困った生徒はいないだろう」
そう言ってレノックス様が笑うと、こちらの様子を窺っていた周囲の生徒が一斉に表情を固まらせた。
その中にはエルヴィスの様子を窺っていた女子生徒たちの姿もある。
彼女たちを含めて、食堂からの外出のための情報を集めようとしてたんじゃないだろうな。
それを考えてあたしは細く息を吐いた。
その後ディアーナとあたし達は予定通りに食堂を出た。
外では金属甲冑を着込んだ近衛騎士の人たちが検問をしていたけれど、ディアーナが事情を説明した。
彼女がレノックス様の許可を取っていることを告げると、【真贋】でその発言を確認される。
「はい、確認致しました。『魔神の巫女』様、学院構内とはいえどうかお気をつけて」
「お気遣いありがとうございます。彼女たちもいるので大丈夫です」
そう言ってディアーナはあたしに視線を向ける。
すると近衛騎士の人たちがあたし達に視線を向けて破顔する。
そのうちの一人の青年が嬉しそうに告げた。
「これはこれは、ウィン嬢にコウ殿。殿下がいつもダンジョン行きでお世話になっております」
「「もったいないお言葉です」」
あたしとコウは恐縮するばかりでしたとも。
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