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04.確かに彼女はそこにいた


 あたしと目を合わせたパメラは途端に表情を硬くして、あたしの方に駆けてくる。


 彼女の近くには、礼法部の部室で見かけた人やウィクトルの姿もあった。


 そしてパメラはあたしの傍らに立つと、今度は戸惑ったような表情を浮かべている。


 何か説明しようとしているのだろうけれど、言葉が見つからない感じだろうか。


「こんにちはパメラ先輩、どうしたんですか?」


「ウィンさん……、私も何がなんだか分からないのですが、事実を告げますね」


「はい」


「私や礼法部の皆さんの目の前で、フリズさんが突然消えたのです」


 フリズが焼失したとな?


 それだけじゃあ流石に判断が付かないぞ。


「消えたって、どういうことですか?」


「それが、本当に一瞬のことなので自身が無いのですが……、直前までその場に居なかったローブを着込んだ何者かが、姿を見せてフリズさんの肩に手を置いたのです」


「まさか、その直後にフリズ先輩とそのローブの人物が消えたんですか?」


「そうなのです。確かに彼女はそこにいたのです」


 パメラが戸惑った表情を浮かべたままそう告げると、いつになく真剣な表情を浮かべたニナが口を開く。


「誘拐と思うのじゃ。恐らく気配遮断を行いフリズ先輩に接近し、手を触れた状態で転移の魔道具を発動させたのじゃ」


『誘拐 (ですの)?』


 あたし達の声にニナが頷く。


 周りの席ではただならない雰囲気が伝わったのか、みんなお喋りを止めてあたし達の方に視線を集め始めた。


「共和国で似た手口で、妾の同郷の者が攫われたことがあるのじゃ。その時は何とか本人が脱して逃亡したところを、保護されたのじゃ」


「ニナちゃんそれって、誘拐犯はまさか……」


 サラが顔色を悪くして言葉を詰まらせる。


「うむ。『赤の深淵(アビッソロッソ)』の者どもだったのじゃ」


 そう言ってニナは大きく息を吐く。


「私が居ながら……! 私の目の前でッ……!!」


 パメラがそう言って奥歯を噛み締めて怒気を含んだ声を絞り出しつつ、目には涙を滲ませる。


 あたしは彼女に声を掛ける前に、フリズへの対応を決めようとニナに確認する。


 パメラの動揺を目の当たりにしたあたしは、自身の意識がひどく覚めていくように感じた。


 フリズは仲間というわけでは無いけれど、顔見知りではある。


 それにティーマパニア様が巫女候補として目を掛けていた。


 何よりこのタイミングで『赤の深淵』の名が上がるのが、スゴくイヤな予感がする。


「転移の魔道具ってことは、追跡は難しいのよね?」


「確かにのう」


 あたしとニナが言葉に詰まると、ジューンが何かを確かめようと声を上げた。


 魔道具研究会の部員としては、何か気付いたことがあるのだろうか。


「あの……、恐らく発動したのは設置型ではなく携行型の魔道具ですよね?」


「ふむ、大きさというのは良い視点なのじゃ」


 ニナがジューンの言葉を聞いてパメラに確認したけれど、カバンのようなものを含めて何も抱えていなかったそうだ。


 その言葉にジューンは少し考えてから、気が付いたことを教えてくれた。


「携帯型の魔道具で転移ともなれば、移動距離は短くなりませんか? まして一人ではなく二人になれば、その分技術的には長距離転移はムリだと思うんです」


「正味それどのくらいの距離になるん?」


 ジューンの言葉にサラが確認するけれど、その質問はとても重要だ。


 捜索範囲に関わってきそうだよね。




 サラの質問にジューンが表情を曇らせる。


 もしかしてどの位というのは簡単に言えないんだろうか。


「ごめんなさい。検証したことが無いので何とも言えないです」


 そう簡単には範囲を絞れないのか。


 この状況下でマズいんじゃないのだろうか。


 あたしが最後の手段としてソフィエンタへの相談を考え始めていると、ニナが口を開く。


「大き目の携行型を個人が使うのでも、王都の端から端に移動できるかどうかと思うのじゃ。パッと見で荷物のようなものでは無いとなると、懐中時計などの手のひらに収まるサイズじゃろう」


 そう言ってニナがジューンに視線を向ける。


「二人を運ぶとしたら、単純には言えませんが学院の敷地を出られるかどうかというところでしょうか」


「それやったら、いま探したら見つかるんちゃうの?」


 ジューンの言葉にサラがそう応じた途端に、すっかり周りに集まっていた野次馬が声を上げる。


『おお~!!』『みんなで探すぞ!!』『誘拐とか学院を舐めてるだろ?!』


 そんな声が上がった直後、筋肉競争部の部員らしきガタイのいい生徒たちが一斉にイスから立ち上がる。


 確かに今は人出があるのはありがたいのかも知れないけれど、『赤の深淵』と鉢合わせたらヤバそうなんだよな。


「あの! ちょっと落ち着いて下さい!」


 あたしがそう叫んだ直後に、拡声の魔法を使って食堂中に響く声があった。


「はいみなさん落ち着いて下さい! 風紀員会副委員長のニッキー・ブースです。状況はそれとなく把握できましたが、学内に誘拐犯が潜伏しているとしたら危険です! そこで偵察に皆さんの使い魔を使うことを提案します!!」


『それだ?!』『おお~?!』『みんなで探すぞ!!』『モフモフばんざい!!』


 最後に叫んだ人たちの声はよく分からなかったけれど、ニッキーの声で食堂に居てあたし達の話で盛り上がっていた野次馬たちは冷静になったようだ。


「まずは誘拐犯の場所の特定をします! 大人数で押しかけて犯人を刺激するのは望ましくありません!!」


 確かに筋肉競争部の部員たちが『赤の深淵』が待ち構えているところを取り囲んでナゾのポージングでも始めたら、その時点で怪しい儀式が成立しそうな懸念はある。


 その後ニッキーが指示を出し、なにか見つけた使い魔は、食堂に戻ってくることが決まった。


 そうして使い魔を出せる生徒は構内に偵察に向かわせた。


 『闇神の狩庭(あんじんのかりにわ)』で使い魔を習得したあたし達も、出し惜しみせずに手伝うことにした。


 パメラの表情を見ちゃったし、それで思うところはあるんですよ。


 あたしもスウィッシュを呼び出して声をかける。


「スウィッシュ、頼んだわよ?」


「任せて。これでもぼくは狩人だから」


「ふーん、でもあなた狩りをするの?」


「趣味的にやるかも?」


 よく分からないけれど何やら張り切っているし、スウィッシュにフリズを探してもらうように頼んで送り出した。


 使い魔たちは結構な数が放たれて、みな思い思いに食堂から出かけて行った。


 たぶんこの場にゴッドフリーお爺ちゃんや教皇さまが居たら、間違いなくこの光景を見て大騒ぎになる気がする。


 そのくらいモフモフまみれな光景だ。


 彼らを送り出した後に、キャリルが思い出したように口を開く。


「リー先生には無事に連絡が付きましたが、何やら奇妙な魔力の集中が学院の正門前近くに観測されているようです」


 奇妙な魔力か、『環境把握』のスキルで確認してみようか。


 もしかしたらフリズを攫った連中の手掛かりがつかめるかも知れないし。


 そう思った途端に、食堂の外で大きな鐘の音が連続して響き始める。


「何? 一体どうしたの?」


 思わず声に出してしまうけれど、食堂に居る大勢の生徒たちも怪訝そうな表情を浮かべている。


 いつもは授業の開始と終了を伝える鐘だけれど、何かの注意喚起をするようにずっと学院内に鳴り響いていた。




 学院構内に鳴り響く鐘の音は注意喚起だとして、恐らくは何かが始まっている。


 キャリルがリー先生から聞いた魔力の集中が原因だろうか。


 そう思っていたら、あたし達のところにレノックス様がやってきた。


 他にはコウとカリオとマクスとパトリックもいる。


 一様に硬い表情をしているぞ。


「直ぐに先生たちが避難を促すか、ここを防御陣地にするだろうが、異常事態が起きている」


 レノックス様はあたしや実習班のメンバーのところにやってきて告げるけれど、食堂の中は生徒たちの話し声と鐘の音で騒然としている。


「いま鐘が鳴っているのが関係しているの?」


「そうだ。鎧をまとった人型の魔獣のようなものが、大量に表通りにあふれてきているらしい」


 魔獣のようなものってまさかアレだろうか。


「もしや『骨ゴーレム』ですの?」


 キャリルの言葉に、レノックス様がウンザリした表情を浮かべる。


「恐らくはそうだろう。それぞれが身長三ミータほどあり、先ほども言ったが外見上は鎧を着た兵士に見えるらしい」


 状況的にはどうやら、『赤の深淵』の連中が禁術の実践を始めたことが想像された。


 あたし達はこの状況に考え込んでしまった。





お読みいただきありがとうございます。




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