表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
886/907

10.今回は人間か


 あたしとキャリルの向かいの席に座り、リー先生とカールとキャシーが難しい顔をしている。


 裏社会の代表的組織である闇ギルドと、禁術をやるような秘密組織の『赤の深淵(アビッソロッソ)』の抗争が王都で始まったんじゃないのか。


 いきなりそんな話をされても困るだろう。


 でもあたしがリー先生に話を持ち込んだ時点で、あたしとキャリルの意図は伝わっていると思う。


 べつに面倒くさい抗争を、学院に解決してほしいと言っている訳じゃあ無いんだ。


 リー先生とカールは、あたしの説明に感謝を告げて口を開く。


「――そうですね、王都の治安のリスクが、普段よりもかなり悪化していると考えるべきでしょう」


「そこは僕も同感です」


 リー先生の言葉にカールが頷いているけれど、学院の生徒が巻き込まれないのが第一だよね。


 そう考えていたら、キャシーが自分のこめかみを押さえつつ声を絞り出す。


「わたしもそう思いますけれど、禁術の実践ですか。そんなことを行うために活動をする人たちが居るんですね。しかも闇ギルドの身内を生贄に……」


 そう言ってから彼女は「まともじゃ無いわ」と呟きながら首を横に振った。


 普通の生活をしている人間からすれば、闇ギルドという時点で救いがたい暴力のイメージが付きまとうんじゃないだろうか。


 そういう連中を相手に抗争を続けている秘密組織という時点で、完全に理解の範疇を超えているだろう。


 でもキャシーは直ぐに視線をあたしに向ける。


「分かったわウィンさん、説明ありがとうございます」


「あ、はい」


「リー先生、お話は分かりました。生徒会長としては、学院には生徒の安全確保に動いて頂きたいです。教養科の生徒などは戦闘が不得手な人が多いですし」


 いや、魔法科の生徒でも、以前学院に侵入してきた『赤の深淵』の連中のレベルでは危険だと思う。


 それをいま言っても話のコシを折るだろうか。


 あたしが少し考えているとリー先生が応える。


「分かっていますキャシーさん。わたしも状況的に生徒の安全確保が最優先と判断します――」


 そう言ってからリー先生は、マーヴィン先生に相談して当面は学院外への外出禁止を生徒に伝えると言った。


「加えて、王宮に学院の警護の増員を要請しようと思います」


「賛成です」「わたしも賛成します」


 カールとキャシーが力強く頷く。


 どうやら安全対策に舵を切るようなのであたしはホッとした。


 キャリルに視線を向けると不敵な笑みを浮かべている。


「学院としての姿勢は承知しましたわリー先生。その上で風紀委員会としましては、どのように行動いたしましょうか?」


「風紀委員会としてなら生徒たちの不安を和らげたり、万一先生たちや警護の人たちが周りにいない場合の連絡をお願いします」


「分かりましたの。それでも目の前に危険がある時は、緊急的に対処してよろしいですわねリー先生?」


 そんな機会があって欲しくは無いんですよキャリルさん。


 でもまあ、確認しておくこと自体は悪いことじゃあ無いか。


「キャリルさんやウィンさんの安全を確保した行動をお願いします」


「承知しましたの先生、安全を確保する行動(、、、、、、)を選択いたしますわ」


 そう言ってリー先生とキャリルはウフフフフとか笑い合っている。


 何だろうこの微妙に不安な感じは。


 あたしが考えを巡らせようとすると、リー先生がこちらに視線を向ける。


「それにしてもウィンさん――キャリルさんもですが、来て頂いて助かりました。『骨ゴーレム』のリスクは王宮から連絡があったのですが、その背景まではまだでした」


「――はい」


 先生にそう言ってもらえると嬉しいかな。


「無理もございませんわリー先生。ヒツジ事件は新聞で報道されませんでしたもの」


 おっとあたしは新聞をチェックしていなかったぞ。


 ちょっと緩みすぎだろうか、公けになっている情報だって情報源なんだし。


 その点キャリルは、やっぱりしっかりしてるなと思うわけですよ。


 参考までにあたしは、どのくらいの規模の警護になるのかリー先生に訊いてみた。


「光竜騎士団との調整があると思いますので現段階では不明ですが、念のために百名規模を要請してみます。加えて近衛騎士団や暗部の人たちも動いてくれるでしょう」


 レノックス様が居るし、警護となったら近衛騎士団は動くだろうな。


「何ごとも無いといいですけれどね」


 思わず苦笑してあたしが告げると、リー先生も同意してくれた。


 すると先生は過去にはハグレのワイバーンが王都に着たときに、学院で同様の対応をしたと教えてくれた。


「でも、今回は人間か……」


 カールがそう呟いて考え込んでいたのが、あたしの印象に残った。




 リー先生への相談も終わったので、あたしとキャリルは執務室を出て部活棟に向かった。


 二人で管理棟を出て構内を移動するけれど、どうしてもさっきまで話していたことが頭に過ぎる。


「まあ、学院が巻き込まれることはない……のかなあ」


 それでも生贄の問題はあるのだったか。


 学院に入り込んでいたんだし、油断はできないか。


「巻き込まれるのでしたら、わたくし達は風紀員会として動くべきですわよねウィン?」


 ほかに動きようがあるのかと思ったけれど、直ぐに『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のことが思い浮かぶ。


「レノは戦わせたくないかなあ。鍛錬じゃあ無いでしょ?」


「ですが、実戦経験も大切ですのよウィン」


 それは正論ではあるしその通りなんだけれど、第三王子殿下の警護だって王国としては重要なんじゃないだろうか。


 あたしが不安な表情を浮かべているのを見てキャリルが微笑む。


「ウィンがレノに外道を斬らせたくないというのなら、その気持ちは分かりますわ」


「いや、そういう事じゃなくて……、近衛騎士の人たちだっていると思うし、護衛のジャマかなって話よ?」


 普段ダンジョン行きでお世話になっているし、ガチなお仕事のジャマはしたく無いんですよ、うん。


 それはそれとして、思うところはあるかな。


「でもキャリル、いざ斬るとなったら外道だろうが貴人の敵だろうが、敵は敵だしマトはマトよね? その覚悟が無いなら撤退を選ぶべきだし、それは別に恥じゃあ無いわ」


 あたしがそれとなく人間を斬れるのかと指摘すると、キャリルが嬉しそうな表情を浮かべる。


「そうですわねウィン。その時は例えレノが参加できなくても、わたくしとあなたはカチコミに参りましょう!」


 いや、そういう事を言いたいワケじゃあ無いんだけれど。


 でも、風紀委員会としてみんなを護る必要があるなら、人間だろうが神だろうがあたしは躊躇なく何でも斬る。


 そして可能なら、キャリルより先にあたしがそうしよう。


 思わず苦笑いを浮かべつつ、あたしはキャリルと共に部活棟に移動した。




 二人で部活棟に移動して玄関で別れ、キャリルは歴史研究会に向かった。


 あたしはここのところ、回復魔法研究会に顔を出していなかったので部室に向かった。


「こんにちはー」


『こんにちはー』


 挨拶をすると部員とか先輩たちが返事をしてくれる。


 その中にはクラウディアの姿もあって、目が合うと手を振ってくれたのであたしも軽く手を振る。


 そして入門書の棚でいつものように生理学と解剖学の本を借りてきて適当な席に座り、【収納(ストレージ)】でノートと筆記具を出して自習を始めた。


 ときどき部室の中でお喋りや議論の声が聞こえてくるけれど、基本的にはみんな普段通りに静かに過ごしていて、穏やかな放課後の時間に自習がはかどった。


 しばらく集中して入門書で勉強していたのだけれど、クラウディアがあたしのところにやってきて声を掛けた。


「やあウィン、順調そうだね? 私はこれから鉱物スライムの手伝いに行こうと思うのだけれど、一緒に行かないかい」


 彼女に言われて、そう言えばしばらくタヴァン先生の所を訪ねていないことを思いだす。


 エイダン先生には王立国教会で会ったばかりだけれども。


「そうですね、行きますか」


 医学の入門書を使った自習は、期限があるわけじゃあ無い。


 時間がある時にタヴァン先生のところで、鉱物スライムの仕分けを手伝った方がトレーニングになるか。


 そう思ってあたしはノートや筆記具や本を片付けて、クラウディアとともに附属研究所に向かった。





お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


下の評価をおねがいいたします。




読者の皆様の応援が、筆者の力になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ