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09.万一の行動を決めているのか


 ジューンやプリシラは予備知識が無かったので、あたしは『赤の深淵(アビッソロッソ)』が禁術の実践を行う秘密組織だという所から話を始めた。


 あまり残酷な話をしても気分が悪くなるだけだったので、人間を生贄に使う禄でも無い連中だと説明する。


「そうやで。そんで闇ギルドの身内の子供らがさらわれて生贄にされて、話がややこしくなっとるんやわ」


「「ふーん」」


 サラが補足してくれたけれど、闇ギルドについてはこの場のみんなも知っていた。


 裏仕事を請け負う組織であり、依頼者と実行者の仲介を主として行っているという話だ。


「それで『魔神騒乱』があった後、禁術を王都で行うために『赤の深淵』が来ていたらしいの」


「それを今回、闇ギルドが察知して叩いたのかのう。おおかたそんなところなのじゃ」


 ニナはどちらかといえば、恐怖とかよりは呆れ顔を浮かべてそんな言葉を漏らした。


 じっさい『赤の深淵』は共和国に本拠地がある秘密組織みたいだし、なんで王国にまで来て闇ギルドとの抗争を始めるんだよとは思うけれども。


「闇ギルドと秘密組織の抗争というだけなら、わたくし達は関係ありませんわ。ですが例の盗難があって大規模な騒動が起きるやもしれません」


 キャリルは『骨ゴーレム』の件を言うつもりなんだろうか。


 あまり大っぴらに話していい内容では無い気もするんですが。


「キャリル、情報共有した方がいいと思う?」


「そうですわね。わたくしは教えた方がいいと思いますの。あくまでもここにいる人たちの秘密ということで」


「そうね……」


 学院に『骨ゴーレム』が入り込むような事態になったとしても、警備している人たちや先生たちが対処してくれるとは思う。


 ただ、あたしもなぜか話しておいた方がいい予感がするんだよな。


「ごめん、もったいぶってるわけじゃあ無くて、秘密事項があるの。関係者以外には教えたくないけれど、みんなの安全のためにも知っておいて欲しいから説明するわ――」


 あたしはそう断ってから、共同墓所で人骨の大量盗難があったことと『骨ゴーレム』の話をした。


「――そういうわけで、『赤の深淵』が禁術をいつ始めてもおかしくないんじゃないかって思うの」


「そうじゃな、闇ギルドの襲撃はその辺りの判断が働いたと思うのじゃ。連中は血と暴力の印象が強いのじゃが、アホでは貴族や政治家相手に仕事など出来んからのう」


 ニナは同意したか。


 彼女の意見はけっこう重いと思う。


「あたしが授業中にデイブから聞いた連絡と、その背景はいま言った通りよ」


『…………』


 みんなの表情をうかがう限り、恐怖感を感じているというよりは戸惑っている感じが強い気がする。


 ムリも無いよね、いきなりそんな話を聞かされても。


「ねえみんな、あたしは進んで抗争とかに関わりたくは無いけれど、目の前に『赤の深淵』の動きがあったら狩りに行くわ。安心してとは言わないけれど、心配しないでね」


「わたくしも無論、そのときは狩りに参りますわ!」


「わたしも“おそうじ”に参加します!」


 ああ、キャリルやディアーナはそう言うよね。


 あたしが苦笑していると、ホリーがそっとプリシラの手を握る。


「大丈夫だよープリシラ。わたしが護るからね」


 その言葉にプリシラは頷く。


「そのときは私たちも火の粉を払うべきと想定します、ホリー。そしてウィン、そのような話なら、リー先生であるとか風紀委員会では万一の行動を決めているのかと質問します」


 おっと、そういえばリー先生には相談していなかったか。


 デイブには姉さんやみんなを護った方がいいだろうと言われていたけれど、先生たちとは相談していなかった。


 キャリルもあたしに視線を向ける。


「ウィン、このあとリー先生の所を訪ねましょう」


「そうね。話は通しておいた方がいいわね」


 最新の情勢を王宮などが把握しているなら、先生たちにも伝わっているとは思う。


 それでもあたし達が持っている情報を共有しておけば、いざってときに打つ手が増えるかも知れない。


 そこまで考えて、あたしは大きく頷いた。




 みんなには、いま話したことを秘密にしてもらうようにお願いした。


 すると全員が頷いてくれたけれど、ニナからアンに話していいかを相談された。


 アンも仲間だし、他に話さないように伝えてくれるならと言ったのだけれど、ニナは鼻から息をこぼす。


「まあ、問題無いと思うのじゃ。好んで誰かに話したいような内容でも無いからのう。しかし念のための知識はあった方がいいと思うのじゃ」


「そうね、頼んでいいかしらニナ?」


「任されたのじゃ」


 あたし達はそこまで話してから、キャリルとあたしだけがガゼボに残ってみんなが部活棟に向かった。


「じゃあ、まずは魔法でリー先生に連絡を入れますか」


「そうですわね」


 そうして【風のやまびこ(ウィンドエコー)】を使うと、リー先生にすぐ繋がった。


「どうしましたかウィンさん、キャリルさん?」


「実は直接お会いして相談したいことがあるのですが、いまから少しお時間を頂けますか?」


「直接ですか……」


 リー先生が何かを確認するような間があったのだけれど、キャリルが告げる。


「“共同墓所の件”と申し上げましたら、お察し頂けますでしょうかリー先生?」


「……! 分かりました、そうですね。三十分……、いいえ、二十分後に執務室まで来て頂けますか」


「「わかりました (の) 」」


 そうしてあたし達はリー先生のオフィスを訪ねることになった。




 キャリルと共に管理棟に向かい、お知らせの掲示板を二人で眺めて時間を潰してから、あたし達は建物内にあるリー先生の執務室に向かった。


 副学長室の扉をノックするのは二度目だろうか。


 あたしがノックすると直ぐに部屋の中から返事があったので、扉を開けて中に入る。


「「こんにちは (ですの) 」」


 あたし達の挨拶に挨拶が返って来るけれど、リー先生のほかには室内にカールとキャシーが待っていた。


 先生の判断だろうけれど、生徒会長と風紀委員会長も情報共有することにしたんだろう。


 先生に促されてソファに座ると、直ぐに話が始まる。


「“共同墓所の件”でお話があるとのことで、キャシーさんとカールさんにも来て頂きました。二人には共同墓所での人骨の盗難と『骨ゴーレム』の話を簡単に説明しました」


「分かりました」


 あたしはそう応えてからキャリルに視線を向けると、彼女は一つ頷いてあたしに説明を促す。


 元々はデイブからの連絡からの話だし、あたしから説明した方がいいか。


 あたしはキャリルに頷いてから口を開いた。


「そもそもの話になりますが、ここのところ共和国に本拠地がある秘密組織『赤の深淵』が、王都で話題になっていました――」


 前提からあたしは話し始めたけれど、リー先生は概要しか知らなかった。


 カールは冒険者の知り合いとか、竜征流(ドラゴンビート)の伝手で概要を知っていた。


 キャシーは話自体が初耳だったようだ。


 白の衝撃(インパットビアンコ)は王立国教会の神官戦士団に組み込まれたみたいだし、説明を省く。


 少々長い話になったけれど、キャシーは我慢強く聞いてくれた。


 ヒツジ事件だとかディアーナ経由の魔神さまからの神託――『赤の深淵』のヒツジ事件への関与と禁術の実践が行われるという話をした。


「――そして今日、昼過ぎに具体的な動きがあったみたいです」


「『赤の深淵』に動きがあったのですか?」


 あたしはリー先生の言葉に首を横に振る。


「じつは闇ギルドが、『赤の深淵』の拠点らしき場所を襲撃したらしいんです。闇ギルドは身内を過去に生贄にされて敵対してるとか」


『…………』


 あたしの言葉でリー先生とカールとキャシーは考え込む。


 いきなり言われても判断に困るよね。


 でも、具体的な話が出てきてしまっている以上、警戒した方がいいと思うんだよな。


 あたしがそう思って息を吐くと、キャリルが微笑んでくれた。


 彼女の目は心配するなとあたしに告げていた。





お読みいただきありがとうございます。




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