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08.正解の一つだろう


 魔法学基礎の授業中にデイブから【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡が来て、それに返事をしたらアミラ先生にバレた。


 正直にデイブから聞いた商業地区での不穏な戦闘の情報を口にすると、先生は不問にすると言ってくれた。


 それは良かったのだけれど、【風のやまびこ】の話をした後に『どんなことにも関心を持って欲しい』とか言い始めた。


 さらにあたしの授業中の勝手な魔法使用がいじられるのかと微妙に覚悟を決めていたら、先生は少し別の方向に話を向ける。


「ちょうど今日は授業も区切りがいいし、少しだけ皆さんに謎かけをしようかね。初対面の学生と話をするときに、鉄板のネタがあってね。成績とは関係無いから気楽に考えてほしい」


『はい』


「やっぱり返事がいいねこのクラスは。さて、例えばだけれど皆さんの目の前に“魔法が使えない”人が居たら、皆さんはどうするだろうか?」


 そんなことを言われても、あたし達は物心がついたときには魔法が使えていた。


 いつどうやって最初の魔法を覚えたのかと言われても、大人たちなどは普通は覚えていないだろう。


 ちなみにあたしの場合は母さんから三歳くらいのときに、【洗浄(クリーン)】を念入りに仕込まれましたとも、ええ。


 あたしとしては初めての魔法ということで、わりとドキドキしながら教わったとおもう。


 だって魔法だぞ。


 それはともかくアミラ先生のお題に、クラスの何人かが手を挙げて前提条件を訊く。


 けれど、先生としては『魔法が使えない』という条件だけで、他はあたし達の想像に任せるという。


 そこまで話が及んだところでみんなが考え始めるとコウが手を挙げる。


「まずはボクは相談に乗ってあげたいと思います。魔法が使えないって、大変だと思うから」


 コウが笑みを浮かべてそう告げると、クラスの女子の何人かがうっとりするような視線を向けていた。


 まあ、コウは相変わらずクラスだけじゃなくて、学院全体にファンが居るみたいなんだよな。


 彼女たちの反応は想定内だけれど。


「そうかい? とても紳士的で素晴らしいが、私の問いに対する答えとしては“それなり”な感じかねえ」


 そう言ってアミラ先生は微笑む。


 先生は成績に影響しないことを強調してみんなに意見を求めるけれど、先生を納得させる答えは出てこなかった。


 そろそろニナがなにか意見を出すかと思ったのだけれど、彼女はリラックスした様子でみんなの話を聞いている。


 そういうことならあたしも何か言っておくかなあと思ったところでマクスが告げた。


「正解かは分からねえけどよ先生、俺様ならその“魔法が使えない”奴を自分とどこが違うのか調べると思うぜ」


「へえ、マクスさんそれはどういう目的だい?」


「どういうって……。そりゃあ魔法が使えないってことは魔法の発動に関わる何かに原因があるんじゃねえかと俺様は思うぜ? その原因が分かるならよ、本人の問題もそうだが魔法の発動を改善できるかも知れねえって思うんだぜ」


 ああ、マクスらしい答えだな。


「“魔法が使えない”なんざ、もしかしたら世界にひとりしか居ねえ貴重な奴かも知れねえ。少なくとも俺様は直ぐダチになっとくぜ先生」


 でもジューンとかニナも頷いているか。


 アミラ先生はどうかといえば、満足そうに頷いたから正解なんだろうか。


「うん、いいね。正解の一つって言っていいだろうかね」


 正解の一つ、とな。


 あたしが頭に過ぎった答えとは違うけれど、マクスの答えは魔法学の面からいえば充分な答えだったんじゃないだろうか。


「他の答えがある人はいるかい?」


 そう言って先生がみんなを見渡すので、あたしは挙手した。


「あたしの目の前に“魔法が使えない”人がいるとしたら、そのことが問題になるのはあたしにとって困った事態だとおもうんです――」


 あたしの身近な知り合いがそうなら、魔道具とかで日常生活は何とかしてると思う。


 それでも改めて意識して“魔法が使えない”ことが話題になるなら、それはグチとか相談じゃあ無くて今まさに何か困っていると判断する。


 だから何に困っていて、相手はどうすれば問題解決できて、最後はどうしたいのかを確認する。


 そうして相手の困ったことを助ける。


「――でもそれって身近な人じゃなくても、そういう話題になったらそうすると思います」


 あたしが応えると、アミラ先生は頷く。


「そうだね。それも正解の一つだろう。さて、あまり焦らしてもしょうがないし、どういう問いかを話そうか」


 そう言ってから先生は説明してくれたのだけれど、まずマクスは“学者や研究者としての正解”で、あたしは“冒険者としての正解”だと言ってくれた。


「それでだ、私はさっき『皆さんに普段からどんなことにも関心を持って欲しい』って言ったけれど、これは教師らしいことを言ってお茶を濁したわけじゃあ無いんだよ――」


 アミラ先生としては、どういう視点から関心を持っているかを意識して欲しいらしい。


「リー先生とはよく話すんだけどさ、学院で学ぶべきことは『正しく問う』ことなんだよ」


 じゃあ『正しく問う』って何かといえば、いつも自分がどういう立場で問うているかを考えなさいとアミラ先生は言った。


「学院を卒業したら皆さんの実績になるけれど、私としては『正しく問う』ということを覚えられたら、その方が幸せなんじゃないかって思うのさ」


 ずい分哲学的でもあり、同時に技術論のような話だった。


 それでもみんなはそれぞれに先生の話に考え込んでいた。


 やがて鐘の音が外に響き、アミラ先生は授業の終わりを告げた。


 あたしはその後の休み時間に、クラスのみんなから弄られていましたが。




 そのあと残りの授業やホームルームも終わって放課後になった。


 あたしはいつものごとく自習班のみんなや、プリシラとホリーとディアーナとで部活棟にぞろぞろと移動する。


 お喋りをしながら移動していると、ホリーがあたしにデイブからの連絡について聞いてきた。


「それでウィンー、授業中に言ってた話だけどさ、『冒険者ギルドの知り合い』って誰なのー? レイチェル叔母さん? デイブさんかなー?」


 いままであたしが授業中に魔法で余所と連絡していたことは無かったし、その説明の話も不穏だし、ホリーとしては気になったのだろう。


「詳しく訊きたいの?」


「聞けるなら教えてほしいかなー」


「わたくしも知りたいですわ」


「もしかして例の組織の話ですか?」


 あたしとホリーのやり取りにキャリルとディアーナが反応した。


 休み時間にいじられたけれど、女子のほかには主にカリオとマクスが絡んで来たんだよな。


 ここにいるみんなは、生暖かい視線でこっちをうかがっていたけれども。


「そういうことならちょっと説明しましょうか。みんなゴメン、すこし内緒話をしていいかしら?」


 あたしがそう告げると、みんなで手近なガゼボに移動することになった。


 空いているガゼボを見つけて固まって陣取り、【風操作(ウインドアート)】で周囲を防音にする。


「そんでウィンちゃんは、『商業地区で不穏な戦闘があった』って言っとったやんな?」


「うん、デイブからの連絡だったんだけれど、特にサラやニナは落ち着いて聞いてね?」


「え、ウチ?」


「ふむ、あまり面白い話では無いかも知れんのじゃ」


 共和国から来た二人にそう言ったことで、何かを察したのかも知れない。


 彼女たちやみんなの表情を確かめてから、あたしは説明を始める。


「じつはデイブからの連絡だったのだけれど、連絡を受けた時点の少し前に商業地区でカチコミ――デイブはそう言ったけれど襲撃事件があったらしいの」


「襲撃ということは、誰がどこを襲撃したかで意味合いが変わりますわね」


 キャリルはそう言って冷静な表情で聞いている。


「デイブによれば、『闇ギルドの子飼いの連中が『赤の深淵(アビッソロッソ)』の件で動いた』そうよ」


「それアカン奴やん」


「ふむ、王国でもその抗争の話を聞くとはのう……」


 サラとニナは残念そうな表情を浮かべる。


 デイブも共和国では厄ネタって言ってたんだよな。


 でも今いる仲間うちでは、ジューンとプリシラには説明が必要だろうか。


 キャリルとは夕食の時なんかに話をしているし。


 あたしは『赤の深淵』について、かいつまんで説明を始めた。





お読みいただきありがとうございます。




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