05.術理は説明したわよね
「どうしたのソフィエンタ?」
「うん、ちょっと気づいたっていうか。そっか、見てくれだけ変えて必要に応じて部分部分を変えるのか。フルスペックじゃなくてもいいわよね確かに……」
ソフィエンタの部屋で一緒にカレーを食べながら『赤の深淵』が企んでいる禁術の話をしていたけれど、何やら気が付いたことがあるみたいだ。
「どういうこと?」
「そうね。突然だけど、イチゴケーキをティラミスに魔改造したいとするわよね」
それはまた挑戦的な改造だな。
でもここで迂闊なことを言って、その応えに神の秘密的なマニアックな説明をされても、一瞬であたしの魂が抜ける自信がある。
落ち着いてあたしはソフィエンタに応える。
「ケーキね。やり方によっては出来るかも知れないけれど、イメージはしやすいわ」
「ええ。人間界ではイチゴと上の方の相だけ取り払って、台座を流用とかじゃない?」
そんなことをやるケーキ屋さんがいるとも思えないけれど、多分これはたとえ話だ。
「必要に応じて台座もあとで挿げ替えるってこともあるかしら」
「そう、それよ! さすがウィン。話が早いわね、食べ物に例えると」
「あ、うん……」
微妙に納得がいかないです。
「そろそろ何の話なのかを教えてほしいんだけれど」
「ああごめんね。前にアレスマギカが人間から神さまにされたじゃない? あれって、かなりあり得ない速さだったのよ」
「ふーん? 確かに神さまって、そう簡単に生まれるものなのかなって思ったりはするけれど」
以前もそういう話はした記憶がある。
あのときソフィエンタは『普通は何日もかかる』って言ったけれど、あたしも地球の記憶を思い出した。
とある世界宗教の神の子は復活に三日掛けて、昇天にさらに四十日掛けているとかそういう話だ。
まさかさっきのケーキの話が例えなのだろうか。
「気が付いたみたいねウィン」
「そんなパティシエがやらなさそうなことを、なんでやるのかしらって思うけれど、ケーキの例えね?」
「たぶん魂の上っ面だけ“神さま仕様”に造り替えて、あとで必要に応じて中身を順番にパーツ交換していくつもりなんじゃ無いかしら」
「それって仕上がりはホントに神さまなの?」
思わずあたしは眉をひそめるけれど、ソフィエンタは苦笑する。
「亜神一歩前ってところかしら。まったくセコい手ねぇ」
そう言ってからソフィエンタはまたカレーを食べ始める。
あたしもカレーを食べるぞ。
あたしは一口ごとにカレーとライスのハーモニーを噛み締めながら、ソフィエンタに確認する。
「でも手口の想像としてはそれで正解なの?」
「分からないけれど……、ちょっと他には想像もつかないのよ。だから多分正解。まったく、神に造り替えるっていうからフルスペックへの変化を想像しちゃったわよ。盲点ね」
「セコい手かあ」
あたしの『ラクこそ正義』からは必ずしも矛盾しないんだよな。
でも今回は迷惑な状況が想像されるし、割と勘弁してほしいです、うん。
ソフィエンタとその後も話をした
たぶん儀式が始まっていても、今のあたしなら何とかなるんじゃないかと言われた。
その根拠があたしが覚えているワザだ。
「『時輪脱力法』で何とかできるってこと?」
「たぶん大丈夫よ。魂とか霊的身体って、分析方法や視点によって何層にも分類できるの。でもさっき言った通り、恐らく邪神群の手口は表面のすげ替えか改造よ。だから平気ね」
『時輪脱力法』で何とかできるのは状態異常ですけど。
「人を神にするのも、表面だけの変化なら状態異常と同じって言ってるのかしら?」
「状態異常に近いわ。呪いだって魂の表層へのダメージだとか書き換えとかなの。『時輪脱力法』でネゲントロピーを放つと、もう速攻で効くはずね」
ああ、それはラクでいいな。
「でもあたし禁術の仕組みなんて知らないわよ?」
ティーマパニア様から授かった『時輪脱力法』の制約には、『相手の状態変化を自分が認識できている』というものがある。
見た目で分かる状態変化とかならそのままイメージとして把握できるけれど、人間を神さまにする禁術なんだぞ。
「さっき術理は説明したわよね?」
術理とな?
「まさか……、ケーキの魔改造の話なの?!」
「その程度の話よ、神々の手口とは思えないわよね? もっと神性流出と回帰を念入りに行いつつ、疑似的な多層リファレンス型超分散データベースを作るように、魂をゲートにして“神体構造”を定着させていくのかと悩んでたんだけど――」
なにやらソフィエンタはラッシーを啜りながら毒づいている。
あたしとしては彼女が言っている言葉は完全に理解の枠外だけれど、気持ちは察することが出来なくもない。
「あー……その程度のレベルの理解で、『時輪脱力法』を発動させられるのかあ……」
邪神群とはいえ、その程度で対抗できるんだろうか。
いや、対抗できるんだろうな、時間的にずい分無理してるみたいだし。
そこまで考えてから、あたしもラッシーをのんで癒された。
『魔神騒乱』のときは魔神化に介入するのに大騒ぎだったけれど、『赤の深淵』の禁術についてはあたしでも対処できそうらしい。
それが確認できたのは大きいと思う。
他には何かソフィエンタと話しておくことはあっただろうかと思いつつ、食後にラッシーをお代わりする。
コップのラッシーを飲み干すと、補充されるのでありがたいです。
女神の力を無駄に私的利用しているようで、微妙に申し訳ない気持ちも一応あるのだけれども。
でも私的ということであたしは思いだしたことがあった。
「そう言えばソフィエンタ、見てたかもしれないけれど、独断で教皇さまにお願いしたことがあるわよ?」
「独断って、ああ、モフモフ儀式の代わりに特定の神々に確認するよう仕向けたことね。あれはグッジョブでした」
そう言ってソフィエンタは嬉しそうに微笑む。
まあ、いきなりモフモフでなぞの祈りを必死に上げられても、ソフィエンタも対処に困るでしょうよ。
「うん。教皇さまに伝えた神さまだけど、直接会った神さまの中であたし的に頼れそうな神さまを伝えておいたわよ?」
魔神さまと (ソフィエンタである)薬神さま、あとは時神さまと闇神さまだ。
あたしの言葉にソフィエンタは目を細める。
「いい判断だったわね、すぐあたしからも連絡したわ」
そう言われた以上、うまく対処してくれたんだろう。
「国教会からの儀式には、神託として返事をしておいたわ」
あたしが挙げた神々で情報共有して、ヒツジ事件には触れずに『もしもの時は助け合って教会や地区の礼拝堂に逃げれば護る』と神託を返すことになったらしい。
それは無難な内容だけれど、国や国教会にはありがたい内容だったんじゃないだろうか。
いわば神々がシェルターを用意するって言ってるようなものだし。
そもそもその話になったのは、教皇さまが『主だった神々』と言ったのに引っ掛かったからだ。
王立国教会で信仰を集める神々のことだけれど、そこには以前あたしがソフィエンタと共に立ち向かった秘神の本体も含まれる。
「ねえソフィエンタ、財神さまの他にも大物に秘神の本体がいるとおもう?」
あたしの言葉に息を吐き、ソフィエンタは考え込む。
「そうね……。何とも言えないわね。ウィンが教皇くんに伝えた以外だと、氷神と風神はあたしの友達だからありえないわ」
「へー」
ソフィエンタが氷神さまと友だちというのは同じ宇宙で生まれたと以前聞いた気がするけれど、風神さまも友達だったのか。
ということはシルビアも巫女仲間というだけじゃあ無くて、友達付き合いすればもっと仲良くなったりするんだろうか。
あたしの思考を読んでいるのかどうなのか、ソフィエンタは言葉を続ける。
「あとはそうね、火神や地神は暗躍するくらいなら、性格的に真正面から創造神さまに物申すと思うから非主流派なんてありえないわね」
「ふーん」
その後もソフィエンタと話したけれど、いまの段階ではどの神が秘神の本体かはいま一つ特定できないということだった。
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