04.備えを早く出来ますもの
スウィッシュを呼び出して少し話をした後、キャリルと情報共有することにした。
時間的にもう遅かったので、【風のやまびこ】で連絡を入れる。
「こんばんはキャリル、いまいいかしら?」
「こんばんはですのウィン。どうかしましたか?」
説明も教皇さま、デイブ、カースティに順に行っているので要点を整理して話すことが出来た。
そもそもキャリルも『敢然たる詩』のみんなと一緒に、共同墓所の件は巻き込まれているし話が早かった。
一通り説明したあと、スウィッシュとも相談したけれどシンディ様と情報のすり合わせをしてもらうように伝えた。
「色々話したけれど、あたしとしては学院でみんなを護るつもりでいいと思うの」
「分かりましたわ。ただウィンはカースティさんやデイブさんなどと、『赤の深淵』討伐に参加する場合もあるのですわね?」
キャリルには、あたしたちが『赤の深淵』を狩ろうとしている話を伝えてある。
加えてデイブに『連絡しろ』と言われてるのも話した。
前に寮での夕食のときに伝えたのだけれど、キャリルはロレッタ様からクギを刺されていた。
あの時はもしキャリルが動くなら、ティルグレース伯爵家の手勢を率いて騎士団だとか衛兵と連携して動くように言われていた。
それはそれでキャリルもテンションを上げていた記憶がある。
「そうね。そこは状況次第よ。ただ闇ギルドが動いてるし、カースティとは討ち漏らしの対処だねって話はしたわね」
「デイブさんは何と仰いましたか?」
「姉さんや学院の友達や仲間を護った方がいいだろうって」
「至極当然ですわね。分かりましたわウィン。その辺りの方針もふまえて、お婆様と相談しておきます」
「うん、お願いします」
「こちらこそ感謝しますわ。我が家としても備えを早く出来ますもの」
そう応える彼女は機嫌が良さそうだった。
キャリルとはそこまで話して連絡を終えた。
これで一通りの連絡は終わったのだけれど、カースティと連絡を取ったときに思いついたことがあった。
禁術を止める方法のことだ。
以前魔神さまが王都で神さまになったときは、『諸人の剣』のみんなで突撃した。
今回は魔神さまでも分かっていないことが多いみたいだし、どうやって備えたらいいものなんだろうか。
そのあたりのことを、ちょっとソフィエンタに確認しようと思いついたのだ。
勉強机の椅子を窓際のローズマリーの鉢植えに向けて座り、胸の前で指を組んで頭の中でソフィエンタに話しかける。
「こんばんはソフィエンタ、今ちょっといいかしら?」
「大丈夫よ、どうしたの?」
あたしが呼び掛けると直ぐに念話で返事が返って来る。
さて、どこから訊くべきだろうか。
「ディアーナが魔神さまに確認してくれたんだけれど、今回人間を神さまにしようとしてるみたいじゃない?」
「そうね、その話なら『禁術を行う時点で、エネルギー源として魂を使う感じじゃないか』って話してるわ」
エネルギー源か、前にソフィエンタからそういう話を聞いたことがある気がするぞ。
「ねえソフィエンタ、前に『乾電池』って言ってたわよね? 神さまにとっては魂はエネルギーの一種って話だったかしら」
あたしとしてはその辺りの記憶はソフィエンタから削られているし、ずい分モノ扱いな感じなんだなって気がしたような。
「乾電池はあくまでも例えよ。乾電池より使いまわしするし、はるかにエコですから」
魂がエコって言われてもなあ、間違いじゃあ無いかもだけれど、エコとはこの場合あの世まで含んでいる気がする。
それってエコなんだろうか。
「そうなの?」
「ええ、魂のシステムはサステイナブルの理想形なのよ」
そうかなあ。
まえにソフィエンタからは、『修行させて霊的新大陸に送り出す』とか言っていた気がする。
「サステイナブルかぁ……、でも、そうね。今回の場合だと、生贄に使われた魂はどうなるの?」
「その話はちょっと業務上の神の秘密になるかしら」
念話では無くて自分の耳からソフィエンタの声がしたので、あたしは直ぐに目を開ける。
すると目の前にはソフィエンタが普段着を着て、あたしと部屋の中で向き合っていた。
どうやら話を秘密にしたいらしく、ソフィエンタはあたしを神域の自分の部屋に呼びつけたようだ。
「ないしょ話をしたいから呼んだわよ」
「あ、うん。いつもの白い空間じゃないのね」
「あたしの部屋の方がガードを硬くしてあるわ」
ソフィエンタによれば、いつもの空間の方が気楽に呼べるのだそうだ。
なんでも神々の街に呼びつけると、他の神々にあたしがちょっかいを受けるリスクがあるのだとか。
それでもソフィエンタの自室は、神の奇跡で徹底的に防備を固めているのだそうだ。
「――だからここまで呼べればあなたは安全なの。何か飲む? ジュースとかでもすぐ出せるわよ?」
なんだと。
カレーは飲みものじゃあ無いんだよな、ええと。
「カレーって……、いや、食べたいなら出すけれど」
またあたしの思考を読んでくれたようだ。
ソフィエンタは日本風ライスカレーとともに、冷えたラッシー (ヨーグルトドリンク)をストロー付きで出してくれた。
「ソフィエンタありがとうーーー!!」
「はいはい、食べながら話しましょうか」
あたし達はモダンなリビングルームでこたつに入り、カレーを頂きながら続きを話し始めた。
「それで、禁術で生贄にされた魂の話ね?」
「うん。でも神さまって魂は仕事で扱うのよね? 秘密にするところは無い気もするけれど」
「普通ならね。禁術の扱いを盗聴のリスクがある場所で、話したくなかっただけなのよ」
神さまが人間の行う禁術を気にするんだろうか。
いや――
「業務上の秘密で他の神さまに聞かれたくないって、邪神群絡みってこと?」
「そういうこと。あなたの世界で、人間のダメな子たちをそそのかしているみたいだけれど、その手口は隠されているわ。盗み聞きされたりした後に、手口を変えられたくないのよ」
「隠されているのに変えられたくないの?」
「時間の網とかをティーマパニアに監視してもらいつつ、豊穣神さまに許可を得てアカシックレコード経由で邪神群が選択しそうな未来の特定を進めてるのよ。変えられると色々大変なの」
そう言ってからソフィエンタはカレーをモリモリ食べ始めた。
あたしも負けじと口に入れるけれど、何だろう、なぜか涙が出てきてしまう。
複雑な香辛料の辛みが瞬く間に口の中に広がり、その熱を感じながら鼻に抜けるフレーバーでカレーを楽しむ。
日本ではごく普通のビーフカレーだけれど、ビーフもスプーンで崩せるほど煮込んであるし、辛みの中にワインだとかトマト系の丸さが感じられて感動に震えていた。
「おいしい~~~」
「大げさねえ。それで、話を続けるわよ」
「うん、大丈夫。ちゃんと聞いてます」
ここでソフィエンタを怒らせたら取り上げられる気がするんですよ、うん。
そう思いつつラッシーを一口飲んで、その味でまたあたしは感動していた。
あたしの様子にソフィエンタは笑っているけれど。
「やれやれ……。それでね、魂って構造的には多層構造なのよ」
「それは、ええと、ウエハースってことかしら?」
あたしはソフィエンタに応えながら、お菓子のウエハースとかカットされたケーキの断面を想像する。
「そうそう、いい例えね。実際はお菓子やケーキよりは惑星の地層とかの方が近いけれどね」
そう言われつつも、あたしは変わらずにケーキのイメージを頭の中で保つ。
「それで禁術の話だけれど、人間に出来るのはせいぜいいちばん上の層をいじることね」
その話であたしは、ケーキの一番上の層をフォークで掬い取るのをイメージする。
「邪神群が助けたらどうなるの?」
「それは厄介ね。神に造り替えるとかだとやっぱり一度では…………、あ」
ソフィエンタはカレーを食べる手を止めて何やら考え込んでいた。
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